その8 「冷やおろし」の季節


 すっかり涼しくなってきた。

 この時期に出荷されるお酒に「冷やおろし」とか「秋上がり」というものがある。


 筆者が座右の書としている『「日本酒入門』(監修者 野崎洋光・著者 君嶋哲至)によれば、こう説明されている。少し長い引用となるがお許し頂きたい。


 『冬から春先の時期に寒仕込みで造られた酒は、「火入れ」と呼ばれる過熱殺菌を行った後、タンクや瓶などに入れて貯蔵され、涼しい環境下で熟成が進められる。ひと夏熟成させることで、新酒の荒々しさが消え、まろやかでバランスの取れた酒質に変化するのだ。このように、暑い夏を越し、秋になって酒の質が向上することを、昔は「秋上がり」や「秋晴れ」と呼んだ。そして、貯蔵庫から出し二度目の火入れをして出荷する際、“美味しく仕上がった”との気持ちを込めて、商品名にも「秋上がり」とつけるようになった。


一方、同時期に出回る酒で「冷やおろし」というものもある。こちらは、秋に美味しく仕上がった酒を貯蔵庫から出した後、火入れをせずにそのままの状態で出荷する、つまり“冷えたまま店に卸す”が由来となっているのだ。


 現在、「秋上がり」と「冷やおろし」に特に明確な規定はない。いずれの名前をつけるかは酒造元によってさまざまであるが、二度火入れする一般的な酒に「秋上がり」を、出荷前に火入れをしない生詰めタイプに「冷やおろし」とつけることが多いようだ。』


なるほど。季節の移り変わりを感じさせる、いかにも美味しそうな名前ではないだろうか。


(東京・東小金井の「お酒の佐藤商店」にも「ひやおろし」が続々と入荷している=同店のホームページから)
(東京・東小金井の「お酒の佐藤商店」にも「ひやおろし」が続々と入荷している=同店のホームページから)


 先日、東京・麹町にある馴染みのお店「麹町市場」で頂いた「冷やおろし」は、山形の「大山」だった。


 ひと夏をひっそりと蔵で過ごし、熟成したお酒は、秋のように穏やかで落ち着いていて、ほのかな香りが感じられる。口当たりは滑らかなのだが、何だかフレッシュな味わいが口の中に広がるのだ。


 「大山」は、山形県鶴岡の蔵元・加藤嘉八郎酒造の名酒である。

 

 同社のホームページはこう説明している。

 

 『蔵のある大山の町は天領(幕府直轄地)として江戸時代初期から本格的な酒造りが始まり、昔は数十軒の酒蔵が軒を連ねていました。


 広島の西条、神戸の灘と共に酒どころとして並び称せられ、「東北の小灘」とも言われました。今では、数軒の酒蔵を残すのみとなり、昔の面影は薄れてしまっていますが、この地を代表する酒として「大山」と命名されました。』


 蔵元の加藤家は、加藤清正に連なる家系という。江戸時代の初め、成立して間もない幕府にとって加藤清正などの豊臣恩顧の有力な外様大名は心配な存在だった。清正の死後、嫡子の忠広は熊本五十三万石の大名だったが、徳川幕府によって領地没収となり、庄内藩酒井家に預けられたという。ただし、改易の理由は諸説あるらしい。


 いずれにせよ、その子女が始めた造り酒屋が幾つかの分家によって引き継がれ、その末裔の一つが加藤嘉八郎酒造という。



 日本名門酒会サイトの蔵元情報にはこう書かれている。


《庄内は日本海に臨み、鳥海山・出羽三山に囲まれ、最上川など豊かな水に恵まれている。庄内平野は江戸時代から日本有数の米どころであり、徳川四天王筆頭の酒井家が領する庄内藩として栄えた。


 最近では、鶴岡出身の小説家・藤沢周平の作品に出てくる海坂藩を庄内藩と重ね合わせる人も多いかも知れない。その庄内の中心、城下町鶴岡の郊外・大山地区に蔵元がある。北前船の寄港地・賀茂の港もあることなどから、上方の文化なども流れ込むエネルギッシュな自由都市として本格的な酒造りも興隆した。》

(大山地区では毎年2月「新酒・酒造まつり」が開かれる=鶴岡市観光協会のホームページから)
(大山地区では毎年2月「新酒・酒造まつり」が開かれる=鶴岡市観光協会のホームページから)
(大山地区に残る4つの酒造。それにしても「どまんなか商店街」という名前がユニーク!=同ホームページから)
(大山地区に残る4つの酒造。それにしても「どまんなか商店街」という名前がユニーク!=同ホームページから)


 

 そう言えば、一時期山形に住んでいた友人の話では、山形には名物の「芋煮」というものがあり、内陸部では醤油味で牛肉を入れるが、庄内では味噌味で豚汁だそうである。秋の味の里芋、そしてコンニャクとネギを一緒に煮込むのが定番らしい。

 

 鶴岡市大山地区には、もう一つお気に入りのお酒がある。

 

 富士酒造の「有加藤(ありとう)純米吟醸」である。フレッシュな香りと甘味のバランスがよく、しっかりとした旨みが感じられるお酒だ。


 東京・新橋の野崎酒店という日本酒居酒屋で5年ほど前に出会ってからしばしば飲んでいる。


 ただ、今回これを書くまで「ありとう」と濁って発音するものと思っていた。富士酒造の銘柄はもともと「富士」だったが昭和30年代の初めに「栄光」を冠して「栄光富士」とし、「有加藤」の銘柄は、現社長の加藤有慶さんになってから新たに興したようである。

 

 実は、こちらの加藤家も清正の末裔であり、代々名前に「有」と名付ける慣わしがあり、蔵元の特別なお酒として「有加藤」としたいう。清正の手槍の柄を家宝として伝えているそうである。


 NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」では、加藤清正が豊臣家の武将たちと酒を酌み交わす場面を多く目にする。清正は、まさか自分の息子が改易され、東北の地で子孫たちが酒づくりをするとは思いもよらなかったろう。


 大きな力によって人の命運は小舟のように翻弄される。それをどう甘受し、そこにどのような新しい意味を見出すのか。加藤清正の子孫たち、藤沢周平の小説世界に生きる人物たち――。


 そんなことをぼんやり思いながら、杯をひとり傾ける夜に、「冷やおろし」はまことにふさわしい。


(続く)

こがねいコンパス第60号(2014年10月18日更新)

筆者・上村紳一郎(かみむら・しんいちろう)のプロフィール

1957年、山口県に生まれる。小学から剣道を始め、旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)では剣道部主将。五段。某大手電機メーカーに勤めながら、地元の埼玉県朝霞市剣道連盟で子どもたちの指導や剣道家たちとの「交剣知愛」を楽しむ。

そのかたわら、独自に日本酒探訪を続け、酒と歴史とのつながりの物語を紡ぎつつある。

時折、小金井市に遊びに来るのはなぜ?












 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

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イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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