その5 浜口雄幸とユーミンが好きなお酒

 

 酒好きの友人とともに都内のホテルで開催された、「地酒蔵元会」の利酒会というものに出てみた。全国から四十八の酒蔵が出展している。

 

 受付で参加料(1500円)を支払い、出展者のパンフレットと記念品(インターネットで事前登録すればもらえる、ちょっと大ぶりの日本酒用グラス)を受け取って、いざ入場。

 

  これまで「酒好きのたわごと」その3その4の中でご紹介した2つの酒蔵も出展していたのがうれしい。英勲と賀茂鶴のいずれも純米酒と純米大吟醸をいただいた。

 

 いくつか回って、気分が丁度良い加減になってきた頃、気がつくと司牡丹の前にいた。この酒は、そういえば学生時代の愛読書「竜馬がゆく」の中に出ていた――。著者の司馬遼太郎は、私が学んだ大学の大先輩にあたる。

 

 司牡丹純米酒。さらっとしていて飲み易いが、濃くもある。米の豊かな香りと微かな果実のような麗しい香りが口の中に広がる。

 

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 司牡丹酒造株式会社は、高知市から西に26Km離れた仁淀川が流れる佐川町にある。関が原合戦直後の慶長8年(1603年)創業というから、四百年以上の歴史を持つ酒蔵だ。

 

 関ヶ原の戦いと司牡丹の創業には関係がある。同社のホームページによれば、こう説明されている。

 

 「関が原の勲功により、徳川家康から土佐二十四万石を賜った山内一豊に伴い、土佐に入国した山内家の主席家老、深尾和泉守重良は佐川一万石を預かることになります。そのとき、深尾氏に従ってきた商家の中には、酒造りを生業とする御酒屋の名が見られました。この酒屋が、司牡丹酒造の前身であります」

 

 なるほど。

 

 地酒蔵元会のホームページ「蔵元紀行」に同社社長へのインタビューが掲載されている。それによれば、司牡丹酒造の蔵元・竹村家の先祖となる黒金屋弥三衛門(くろがねや・そうえもん)が高知城下の蔵元・才谷屋助十郎(さいたにや・すけじゅうろう)から天保2年(1831年)に酒造株を買ったという書状が残っているという。

 

 この才谷屋とは、坂本龍馬の家筋で、寛文6年(1666年)に高知城下で質屋を開業、延宝5年(1677年)には酒造業も始めている。竹村本家には、坂本龍馬の手紙(慶応2年3月8日、甥の高松太郎あて)も所蔵されている。 

 

 さて、「司牡丹」という名前は、佐川出身の維新の志士、明治政府の宮内大臣も務めた田中光顕(たなか・みつあき)伯爵の命名によるものだ。

 

 田中は、佐川の酒を愛飲し大正8年(1919年)『天下の芳醇なり、今後は酒の王たるべし』と激励の一筆を寄せ、『司牡丹』と命名した。「牡丹は百花の王、さらに牡丹の中の司たるべし」という意味だという。

 

 それにしても政治家と酒のかかわりは深い。よくはわからないが、当時は酒にかかわることが文化であり、その「かかわり方」がその地域である種のステータスを示す機能を持っていたのではないだろうか。

 

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 司牡丹と命名された11年後、「ライオン宰相」と呼ばれた高知県出身の浜口雄幸首相=写真=から「芳醇無比」という賞賛の書が届けられた。1930年のことである。この年の11月に浜口は東京駅で狙撃され、それが翌年の死につながる。人生というのは先がわからないものだ、と改めて思う。

 

 ところで脱線するようだが、浜口宰相は生まれた時から「酒」との縁があった人物でもあった。本当は「幸雄」と命名されたが、父親が役所に出生届を出しに行く途中で酒を飲み、べろべろ状態に。間違えて名前を前後逆に記入した出生届が受理され、「雄幸」となったという。

 

 司牡丹に話を戻せば、まず水について。

 

 司牡丹は、仁淀川水系の湧水を仕込み水として使っている。「日本最後の清流」として有名な四万十川より高い透明度を誇り、「日本一水のきれいな川」とも言われているという。仁淀川水系の湧水は「日本の酒」(岩波新書、坂口謹一郎著)の中に「水と名酒」として紹介されている。

 

 次に杜氏について。

 

 浜口雄幸が書を送った翌昭和6年(1931年)、司牡丹は軟水仕込みを得意とする広島の杜氏を蔵に迎えた。それ以降、全国新酒鑑評会で数多くの最高位金賞(全国トップクラスの通算25回)を受賞してきた。杜氏の存在とはつくづく凄いものである。

 

  再び同社ホームページを参照すると、高知県出身の女流作家・宮尾登美子の小説「蔵」は、司牡丹の酒蔵をもとに書かれたという。

 

 意外だったのは、あのユーミン(松任谷由美)が、雑誌のインタビューで「好きなお酒は何ですか?」と質問されて、「司牡丹というお酒が好きです」と答えていることだ。私は、高校1年生の時からユーミンのファンだったが、日本酒が好きだとは今回初めて知った。

 

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 アサヒビールお客様文化研究所の調査によれば、お酒を一緒に飲みたい歴史上の人物は、男女ともに「坂本龍馬」という。(ちなみに、私は故郷の先人である「高杉晋作」と飲んでみたい。)

 

 今時分は、鮎が解禁になっているだろう。仁淀川の鮎を肴に、20代の坂本龍馬や高杉晋作と司牡丹を酌み交わす――。

 

 目を閉じてその姿を思い描くと、どこからか夏の青空のような快活な笑い声が聞こえてきた。

 

 (続く)

こがねいコンパス第54号(2014年6月21日更新)

筆者・上村紳一郎(かみむら・しんいちろう)のプロフィール

1957年、山口県に生まれる。小学から剣道を始め、旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)では剣道部主将。五段。某大手電機メーカーに勤めながら、地元の朝霞市剣道連盟で子供達の指導と剣道家達との交剣知愛を楽しむ。そのかたわら、独自に日本酒探訪を続け、酒と歴史とのつながりの物語を紡ぎつつある。時折、小金井市に遊びに来るのはなぜ?

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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