その4 オバマさんが飲んだお酒とは

安倍首相とオバマ米大統領の会食風景(内閣広報室提供)
安倍首相とオバマ米大統領の会食風景(内閣広報室提供)

 

 バラク・オバマ米大統領と安倍晋三首相が、東京銀座の寿司店「すきやばし次郎」で会食したニュースは、多くの方が新聞やテレビで目にされたと思う。

 

 そのとき安倍首相が、四角い小瓶で日本酒をオバマ大統領の杯に注いでいたが、あのお酒に興味を示された方も少なからずいらっしゃるのではないか。

 

 広島・西条(東広島市西条本町)の銘酒・賀茂鶴(かもつる)でした。

 

 

 《4月23日の賀茂鶴Facebook》にはこう書かれている。

『昨日来日したオバマ大統領が安倍首相と会食した際の写真が、今日の朝刊各紙に掲載されていました。カウンターに座り、お酌をする姿が日本的で目を引く写真でした。

大変光栄なことに、この時のお酒は「賀茂鶴」(大吟醸・特製ゴールド賀茂鶴 180ml 角瓶)でした。瓶の表面の細かな水滴から、適温に冷えている様が窺えます。

このような会食で、ご利用頂いたことを大変嬉しく思います。』

 

 筆者が5月の連休に山口県に帰省して、近所の酒屋さんに何か面白そうな日本酒はないか探しに行ったところ、「オバマ大統領が飲んだお酒」という張り紙とともにこのお酒が置いてあった。ほおっと思い、つい買ってしまった。

 

 丁寧にお米を磨いて造られた大吟醸酒の逸品じゃないですか。上品な香りで、口当たりも素晴らしくするすると口に入ってしまう。

 

 聞けば、年に数回宮内庁より通常の製品が注文されているという。へえ、いわゆる「宮内庁ご用達品」なのですね。

 

 酒の中には桜の花びら型の純金箔(99.99%)が入っており、何ともめでたい。というか、おめでたい席に相応しいお酒ということでつくられたのでしょうな。(現在は品切れで、今注文すると6月下旬以降のお届けになるようです。詳しくは賀茂鶴さんまで)

 地酒蔵元会のホームページ「蔵元紀行」によると、賀茂鶴酒造は日本で初めて大吟醸酒を醸した蔵元という。昭和33年(1958年)に発売されたこのお酒のラベルには、たおやかな筆致の富士山と二羽の鶴が描かれている。賀茂鶴の宗家である木村家が所蔵する江戸時代中期の画聖・谷文晁の水墨画だ。

 

 広島・西条は、古くから西国の行政・経済の要所だった。天平13年(西暦741年)に創建された安芸国分寺は、安芸国一帯を束ねる最大級の行政府だったようである。

 

 江戸期に入ると、山陽道最大の宿場町へと発展する。行商人はもとより、江戸への参勤交代を義務付けられた西国大名も滞在した。

 

 薩摩の島津氏、熊本の細川氏、佐賀の鍋島氏、長州の毛利氏といった大名を接待するために、三次浅野藩(広島藩の支藩)から「本陣接待役と御用達の酒屋をやれ」と言われたのが賀茂鶴の木村家。

 

 「へへえ、かしこまりました。がんばります」という感じで、酒造りに気合が入ったのでしょう。創業は、元和9年(1623年)とのこと。(1623年と言えば、三代将軍・徳川家光の治世が始まり、黒田官兵衛の長男である黒田長政が亡くなった年です。)

 

 明治27年(1894年)、鉄道の山陽本線が開通すると、賀茂鶴は関西や東京方面への出荷を本格化し、中国地方での第1回品評会で一等賞を獲得。それを皮切りに数々の栄誉を得ていった。就航したばかりの外国航路でハワイ、台湾、アメリカ本土へも輸出され、明治33年(1900年)フランス・パリでの万国博覧会名誉大賞に。

 

 昭和3年(1928年)には、国の醸造試験場(現在も全国で唯一の日本酒研究機関)が設立され、西条の酒造技術はさらに飛躍を遂げることとなり、今回の「大吟醸・特製ゴールド賀茂鶴」へとつながっていく。

愛知県西尾市の尾崎士郎記念館を紹介するHPから
愛知県西尾市の尾崎士郎記念館を紹介するHPから

 

 これも「蔵元紀行」での情報だが、戦前の大ベストセラー『人生劇場』で知られる小説家・尾崎士郎(1898~1964)=写真=は、いつも賀茂鶴を傍らに置き、盃をかたむけつつ、執筆したという。どうも学生時代の後輩が賀茂鶴の社員だったことから愛飲するようになったようだ。

 

 「自分の人生の滋味は、賀茂鶴に凝縮している」という、尾崎氏の手紙が残されている。

尾崎士郎記念館の企画展「尾崎士郎と酒」の説明資料から。こんな企画展ができるほど、尾崎と酒のつながりは深かったそうです
尾崎士郎記念館の企画展「尾崎士郎と酒」の説明資料から。こんな企画展ができるほど、尾崎と酒のつながりは深かったそうです

 「所得倍増論」で知られる元首相・池田勇人(1899~1965)は、広島県の出身。生家は竹原市の醸造元「豊田鶴」で、池田自身が酒に造詣深く、賀茂鶴酒造と親交が厚かったことから、広島酒の発展のために、政財界を通じて海外へも銘酒・賀茂鶴をアピールしたという。

 

 こう書くと、岸信介元首相の孫である安倍首相が、池田元首相の好きだったお酒をオバマ大統領に注いでいるのも何だか面白い構図だと思う。

 

 西国の酒都・安芸西条は、灘・伏見と並び称される銘醸地として知られており、左党憧れの聖地と言っても過言ではない。

 

 西条駅の周辺では、現在も賀茂鶴を含む8社の蔵元が醸造を続けている。

 

 広島県観光サイトの「ひろしま観光ナビ」によれば、「経済産業省の「近代化産業遺産群33」にも認定されており、酒蔵通りでは、林立する赤レンガの煙突・赤瓦の屋根となまこ壁・白壁とが織りなす独特の景観を楽しむことができます。酒の仕込み時期にはやわらかい酒の香りが通りを包み込み一層の風情を与えます」という。

(ひろしま観光ナビのサイトから)
(ひろしま観光ナビのサイトから)

 

 西条で屈指の歴史を誇るもう一つの酒蔵、「白牡丹」もちょっと紹介しておきたい。石田三成に仕えた島左近の子孫が、延宝3年(1675年)に開いたと伝えられる。酒蔵通りには、江戸時代に建造された延宝蔵と天保蔵があり、天保蔵には棟方志功の版画が飾られている。

 

 後切れの良い上品な味わいが特長。同社のホームページよれば、胃弱で知られる文豪・夏目漱石も「白牡丹」だけは愛飲していたという。「白牡丹 李白が顔に崩れけり」との句をつくっている。

 

 ところで、「すきやばし次郎」は今年もミシュラン3つ星に認定され、7年連続での獲得となったそうであるが、なかなかいい値段でもあるようだ。庶民である筆者は、東京にいながらこういうところとは縁がない。

 

 「大吟醸・特製ゴールド賀茂鶴」を飲みながら、すきやばし次郎の鮨をつまむ――。そんな楽しみは先々にとって置いた方が長生きできるかもしれない(と思うことにしよう)。

 

(続く)

こがねいコンパス第52号(2014年5月17日更新)

筆者・上村紳一郎(かみむら・しんいちろう)のプロフィール

1957年、山口県に生まれる。小学から剣道を始め、旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)では剣道部主将。五段。某大手電機メーカーに勤めながら、地元の朝霞市剣道連盟で子供達の指導と剣道家達との交剣知愛を楽しむ。そのかたわら、独自に日本酒探訪を続け、酒と歴史とのつながりの物語を紡ぎつつある。時折、小金井市に遊びに来るのはなぜ?

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

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イラクから問い続けてきたもの

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