その3 安西水丸さんと「英勲」

 

 

 桜の季節になると、京都での花見を思い出す。

 

 今から11年前のことだ。1週間後に南米・コロンビアへの赴任を控えていたが、京都の関連会社の社長に就任していた大先輩から「桜を見に来ないか?」とお誘いを受けたのである。

 

 一緒に誘われた大学時代からの友人曰く「コロンビアに行ったら無事に帰って来れないかも知れないよ。行っておいた方がいいよ」。なるほど、コロンビアは美人だけでなく、誘拐も殺人も多い。私は、京都に行くことにした。

 

 若い頃の私にとって、花見とは酒を飲むことだった。しかし、京都の桜は、40代半ばを過ぎて初めて心の底から綺麗だと思わせるものがあった。

 

 最も印象的だったのは、平安神宮の紅しだれコンサートでライトアップされた桜である。

 

 その夜は、桜に酔ったかお酒に酔ったか分からないが、何だかふわふわした心持ちで祇園白川の巽橋あたりのお店に連れて行っていただいたのだった。

 

 その後、幸運なことに2010年からの1年間だけではあったが、仕事の関係で京都に住むことができた。そのときに、前述の大学時代の友人から「おじさんの京都」というガイドのような、エッセーのような本をもらった。

 

 その本の中で、イラストレーターで作家の安西水丸さんの短文により、「花観酒房」というお店が紹介されている。

 

 《 夜は、祇園・富永町にある「花観酒房」で日本酒を飲んだ。ここのすっぽん鍋は日本酒にぴったりだ。店主の吉田氏は、日本酒のソムリエと言っていいほど日本酒に精通している。好みを言えば、すぐに納得の酒を出してくれる。好きなのでよく通った店だが、ここで意識不明になって救急車で運ばれたこともあった。友人達にそのことを話すと、ほとんどが身体の心配をせず、「誰といたんだ?」と訊かれるのが腑に落ちない。まあいい。

 「花観酒房」、日本酒党の聖域だ。》

 

 そこで、私も「花観酒房」に行ってみた。好みを言って、京都のお酒がいいと伝えたところ、出されたのが「英勲」だった。

 

 吟醸香だけでなくしっかりとした旨みが感じられる。辛口の中に甘味もあり、香りも上品。「祝」という酒米を使用。京都のいいところが伝わってくるようだ。

 
「英勲」をつくる齊藤酒造のHPから
「英勲」をつくる齊藤酒造のHPから

 

 英勲は、伏見の酒である。

 酒蔵の町・伏見は、京都の南の郊外にあり、もとは桃山時代に伏見城の城下町として栄え、また江戸時代には淀川水運の重要な港町・宿場町としても発展し、京都とは独立した別の都市であった。

 

 幕末の舞台の一つである寺田屋は、伏見でも五本の指に入る大きな船宿。女将の登勢は、放蕩者の主人が亡くなった後も女手一つで切り盛りして宿を繁盛させた。情に厚い登勢は、捨て子を育て、居候や食客の世話までして、特に志士たちを援助した。坂本龍馬も、「おかあ」と呼んで慕っていたそうである。

 

 花見と伏見とくれば、やはり豊臣秀吉の「醍醐の花見」に触れておきたい。

 

 慶長3年3月15日(1598年4月20日)、豊臣秀吉がその最晩年に京都の醍醐寺・三宝院裏の山麓において催した花見の宴のことだ。

 

 豊臣秀頼・北政所・淀殿ら近親のものを初めとして、諸大名からその配下の女房女中衆約1300人を召し従えた盛大な催しで、九州平定直後に催された北野大茶会と双璧を成す、秀吉一世一代の大イベントとして知られている。

 

 秀吉は、「醍醐の花見」の半年後にこの世を去ることになるが、最後であることを悟ったかのようなそれはそれは壮大な花見だったそうである。

 

 秀吉が行った「醍醐の花見」は、貴族達などの特権階級の伝統行事の意味合いが強かったそれまでの花見観を覆すような、桜を肴に飲んで騒いで愉しむどんちゃん騒ぎだった。

 

 これが民衆に広がり、現在のようなお花見文化のスタイルになったとも言われている。

 

 ところで、安西水丸さんは、村上春樹作品のイラストを多く手がけたことでも有名であるが、酒豪としても知られていたようだ。私がこの原稿を準備している最中の今年3月に亡くなられたと知り、まことに残念である。京都の桜を見ながら一緒にお酒を飲んでみたかった。

 

 因みに、村上春樹さんは伏見の生まれという。今日は、『村上朝日堂』でも読みながら、水丸さんのご冥福を祈りつつ、英勲を飲んでみよう。

 

(終わり)

こがねいコンパス第50号(2014年4月19日更新)

 

 

上村紳一郎(かみむら・しんいちろう)のプロフィール

1957年、山口県に生まれる。小学から剣道を始め、旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)では剣道部主将。五段。某大手電機メーカーに勤めながら、地元の朝霞市剣道連盟で子供達の指導と剣道家達との交剣知愛を楽しむ。そのかたわら、独自に日本酒探訪を続け、酒と歴史とのつながりの物語を紡ぎつつある。時折、小金井市に遊びに来るのはなぜ?

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

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