(「永井本家」のホームページから)
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その11 利根錦 ~四つのこだわり~


 (群馬県川場村の酒蔵訪問記の続きです。)


 その日は夕方早く、隣の沼田市にある老神(おいがみ)温泉に着き、のんびりと温にひたった。


 群馬県は、全国屈指の温泉大国と言われるだけあって、この辺りだけでも老神・片品・尾瀬戸倉・丸沼・川場・武尊の温泉があり、少し足を伸ばせば水上・宝川・猿ヶ京といった名湯がある。


 宿では、昼間に続いて地元のご馳走とお酒を堪能した。空いた酒瓶を見て、よくこれだけ飲んだものだと思う。美味しい水と一緒に飲んだためか穏やかな「酔い気分」だ。


 部屋に戻って、道の駅でもらってきた「利根沼田酒蔵ツーリズムマップ」を見ると、四つの酒蔵、二つのビール会社、一つのワイナリーが紹介されている。


 

 明日訪れる予定の酒蔵、永井本家については――。


「霊峰(れいほう)迦葉山(かしょうざん)の入り口で酒を醸している小さな田舎の酒蔵。


 谷川連峰と武尊山に抱かれた名水、澄み切った空気、寒造りに最適な気温という醸造に適した自然環境の中で、手造りを基本とした四つのこだわり(米、水、環境、伝統)を持って、酒を醸しています。」


 迦葉山と言えば、その中腹に「天狗のお寺」として知られる弥勒寺(みろくじ)がある。えっ、ご存じない? 高尾山薬王院、鞍馬寺とともに「日本三大天狗」の一つですぞ。

(うわっ、こりゃでかい)
(うわっ、こりゃでかい)


 この地において天狗の存在感は大きい。毎年8月にある「沼田まつり」では、巨大な天狗のお面を神輿に仕立て、約200人の女性たちだけで担がれるというイベントがある。

 沼田市のホームページによれば「家庭を守る女性達が家族の安全を願い渡御してきた」という。「家庭を守る」という表現には、ジェンダー的観点からどうだろうかという思いもなくはないが、深入りは止めておこう。


 翌日、酒蔵を訪れる前に国指定の天然記念物「吹割の滝(ふきわれのたき)」を見に行った。


 水量が非常に多く、見ているだけで吸い込まれそうな凄い迫力だ。この辺りの山々が豊富な水を蓄えていることを実感する。


 群馬県観光物産国際協会の「群馬の観光情報」サイトでは、「侵食されたV字形の岩盤を、水が両側面から落ちている珍しい滝。高さ7m、幅30m余りにおよび、ごうごうと落下、飛散する瀑布は『東洋のナイアガラ』と言われている。上毛カルタに『滝は吹割 片品渓谷』と謳われている。日本の滝100選の1つで、昭和11年に国の天然記念物に指定されている」と紹介されている。


 昼前に、永井本家に到着した。永井寛之社長と奥様は、酒蔵の横のお店の前で待っていて下さった。


 明治時代につくられた酒蔵で、戦前の煙突や古い木桶、中二階のように作られた巨大な棚などを拝見した。


「こういう棚は、もう他ではあまりないと思います」「この棚は、蒸したお米を広げて冷ますときに使ったりしますが、今では冷却装置を使っています。しかし、山田錦だけは自然冷却にしています」


 丁寧なご説明をふむふむと聞く。原料米としては、山田錦のほか、美山錦や群馬県のオリジナル新品種である舞風(まいかぜ)を使用しているという。


 「社長さんも酒造りに携わっていらっしゃるのですか?」


 「昔は、越後杜氏が仲間を連れて来ていたのですが、今は地元の仲間と一緒に手造りでやっています」


 素朴な語り口に、お米の香りを大切にした伝統の酒造りへの真摯な思いが伝わってくるようだった。


 その後、お店で同社の代表銘柄の利根錦(特別本醸造、純米酒、吟醸、大吟醸)を試飲した。


 皆でわいわい言いながら飲んでいたら、奥様がどこかから持って来られた瓶を差し出された。


 「これは、『純米吟醸袋しぼり』なんですよ」


 お米の旨みが際立つ。フレッシュで流れるような感じ。控えめな果実の香り。つまりは、とても美味しいお酒である。


「これを買って帰りたいなあ」と思わず呟くと、「限定品で今年は売り切れてしまいました」と申し訳なさそうな言葉が返ってきた。


 そこで購入したのは、やはり純米酒。お米の旨みと甘味を含みながら意外に口当たりがすっきりしていてずっと飲み続けられそうな印象だ。


 利根錦のラベルの題字「一輪の花 一会の酒」は華道家で有名な故・安達瞳子(あだち・とうこ)さんの書である。


 社長さんに「どなたか後を継がれるのですか?」と聞くと、ご子息は、東京農大醸造科を卒業し、現在山形の出羽桜で修行中だと話されていた。


 出羽桜へは、大学の先生から研修制度の一環として紹介され、通常2年のところ、ご子息は大吟醸も学べる3年を選択されたという。研修先は、それなりの規模や受け入れ体制が整っている酒蔵でないと難しいようで、そう沢山はないらしい。将来、ご子息と一緒に酒造りができるのを楽しみにしていらっしゃるご様子だった。


 利根錦を後にして、昼食を取るために薦められた「下山」というお蕎麦屋さんに向かった。そこにも利根錦が置いてある。自然、野菜と舞茸の天ぷらをつまみに、またまた飲むことになる。


 仕上げの蕎麦に添えられた、辛味大根の搾り汁がぴりっと効き、旅を心地よく締めくくってくれた。

 

こがねいコンパス第66号(2015年1月17日更新)


筆者・上村紳一郎(かみむら・しんいちろう)のプロフィール

1957年、山口県に生まれる。小学から剣道を始め、旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)では剣道部主将。五段。某大手電機メーカーに勤めながら、地元の朝霞市剣道連盟で子どもたちを指導。そのかたわら、独自に日本酒探訪を続け、酒と歴史とのつながりの物語を紡ぎつつある。時折、小金井市に遊びに来る。


 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

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後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

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