その10 群馬県川場村の酒蔵へ

廃藩置県から「水芭蕉」へ至る道


 

 

 11月のある週末、群馬県の酒蔵を訪問した。

 

「うちの親戚に群馬県の酒蔵があるので行ってみませんか」


 会社の同僚からそんなうれしい誘いがあったからだ。


 そこは群馬県川場村。右の地図で言えば左上にある赤い部分だ。

 

 人口三千数百人の山村である。関東の北部に位置する川場村は、武尊山(ほたかやま)の山裾にある。かなり寒くなっていたが、澄んだ空気が気持ち良い。



 川場村の永井酒造は、お寺の門前にあった。

 なるほど、住所も「川場村門前713」である。


 永井則吉社長と、蔵カフェがある古新館(旧酒蔵)の前でお会いする。想像と違って若く(40歳前後に見える)溌剌とした社長さんだ。


 「まず、お寺にご案内しましょう」

 歩いて吉祥寺(きちじょうじ)へ。


 「以前はこのようにお寺をご案内することはなかったのですが、東北大震災以後、地元との繋がりを大切にしたい、地元をもっと知ってもらいたいという思いから、酒蔵見学にいらっしゃるお客様を、まずお寺にご案内するようになりました」


 すでに社長ご自身で約1,500人のお客様をお連れしたという。拝観券と一緒に頂いたパンフレットには次のように書かれていた。


 『青龍山・吉祥寺。鎌倉建長寺を本山とする臨済宗の禅寺である。南北朝時代の暦応2年(1339年)、建長寺四十二世中巌円月禅師(ちゅうがんえんげつぜんじ)を開山和尚とし、大友氏時により創建された。


 当時、この上野国利根庄は鎌倉武士・大友氏の領地であり、九州に移った後、先祖の発祥のこの地に聖地建立と菩提供養の為に寺を建立したのが始まりである。


 また、建長寺派四百有余ヶ寺の寺院の中で一番北域に位置することから、建長寺の北の門として屈指の名刹に数えられる』


 へえ、失礼ながらこんな山の中にこんな立派なお寺があるとは、と正直驚く。大友氏とは、日本史の教科書にも登場する戦国時代のキリシタン大名・大友宗麟の先祖だ。九州のイメージが強かったが、もともとはこの地の領主だったわけですね。


 川場村の門前地区には、青年たちが女装して家々を回る「春駒祭り」という、全国に知られた奇祭がある。大正時代に始まったものだという。旅芸人の親子が毎年この地区を訪れ、養蚕の豊作を祈願していたが、旅芸人が来なくなってから不作となってしまったため、地元青年団が代わりに豊作を祈って家々をめぐるようになったらしい。


 吉祥寺は、別名「花寺」というだけあって春から秋にかけて水芭蕉、水仙、桔梗など約100種類の色々な花が見ることができる。私たちは、禅寺の庭園に映える紅葉と山から流れ込む滝の音を楽しむことができた

(永井酒造のホームページから)
(永井酒造のホームページから)


 お寺から戻って、酒蔵へ。

 永井酒造は明治19年(1886年)の創業。先祖は信州・須坂の士族だったが、明治維新の廃藩置県により、初代当主の永井庄治が酒造りを決意し、良い水を求めてここにたどり着いたという。


 代表銘柄は、「水芭蕉」と「谷川岳」。その他に、社長自らフランス・シャンパーニュで学んだスパークリング酒「MIZUBASHO PURE」、「10年熟成のVintage Sake」「食後用のDessert (デザート)Sake」を商品化した。アルファベットのブランドが登場するのは、「世界に通用する酒造り」。つまりは日本ばかりでなく、世界市場を視野にいれているからだ。

 

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 永井社長は、こんなエピソードを語った。


 「子どもの頃、『蔵に入ってはいけない』と言われていたが、酒造りの季節になって蔵人さんたちが来ると嬉しくて蔵に入り込んでいました。


 ある日、蔵の真ん中で腕組みをしている杜氏さんの横に立って同じように腕組みをしてみたのです。


 『偉いからそういう風に腕組みをしているの?』と尋ねると、『温度計を持って来い』と言う。


 杜氏さんは、桶に手を入れて『今、これは○○度だ』と言った。温度計で測ってみると杜氏さんの言ったとおりの温度だったのです。


 杜氏さんは、腕組みをしていたのではなく、寒い中で感覚を失わないように脇の下で手を温めていたのです。こども心に『偉いもんだなあ』と感心しました。そのことを思い出しては、社員に『自分の五感で確かめるんだ』と話しています」


 酒造りは「伝統や技術を守るために《人にしかできないこと》は従来以上の手仕事で、《近代化すべきところ》は大胆に刷新し、棲み分けを行っている。徹底的に質にこだわった吟醸造りを目指している」という。


 酒は水であり、コメであり、そして人である。そのことを改めて感じるお話だった。


 今年4月末現在で、全国に60人しかいない清酒専門評価者の資格を永井社長と後藤杜氏の二人が取得している。


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 酒蔵見学の後、古新館で水芭蕉(MIZUBASHO PURE、純米新酒、純米酒、純米大吟醸、Dessert Sake)を試飲した。


 地元の食材による料理と一緒に頂く。前半はさっぱりしたもの、後半は地元ブランド牛や鍋料理でぐっとくる味のものだった。


 純米酒である『水芭蕉』は、そのぐっとくる味を受け止めて、心地よい調和をもたらした。水の柔らかさと甘味、お米の旨み、そして微かに吟香を感じる心地良さ――。


 ああ、これが純米酒なのだ。私は心の底からそう感じながら、永井社長の言葉を思い出していた。


 「社長になる前に、工場長として杜氏さんと酒造りを一緒にやってきました。その杜氏さんを、『現代の名工』として申請し、やっと認められたのですが、表彰の四日前に亡くなってしまいました。とても残念でした。ただ、その杜氏さんの志と技術とノウハウは、今の酒造りに引き継がれています」


 私の眼前にある透明の液体。それは、名工たちの志と技術とノウハウの結晶にほかならず、日本人の勤勉さを示す表象でもある。




 (つづく)

 

こがねいコンパス第64号(2014年12月20日更新)

筆者・上村紳一郎(かみむら・しんいちろう)のプロフィール

1957年、山口県に生まれる。小学から剣道を始め、旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)では剣道部主将。五段。某大手電機メーカーに勤めながら、地元の朝霞市剣道連盟で子供達の指導と剣道家達との交剣知愛を楽しむ。そのかたわら、独自に日本酒探訪を続け、酒と歴史とのつながりの物語を紡ぎつつある。時折、小金井市に遊びに来るのはなぜ?


 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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イラクから問い続けてきたもの

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