その15 越後のお酒と謙信


 これまで、灘(兵庫県)・伏見(京都府)に次ぐ生産量を誇る越後(新潟県)のお酒について取り上げていなかったとは我ながら不思議だ。


 大学を卒業して就職のため関西から関東に移ったころ、会社の先輩から新潟のお酒を教えてもらった。


 日本酒好きには有名な話だが、雑誌「酒」の編集長だった佐々木久子さんが、昭和50(1975)年頃「越乃寒梅」を紹介したことから「幻の銘酒」として知られるようになり、新潟の酒がブームになったそうだ。


 まず、「越乃寒梅」「八海山」「久保田」を知り、水のような淡麗辛口に新鮮な感じを受けた。その後「吉乃川」「〆張鶴」「鶴齢」「緑川」と広がって行った。


 そして、インドネシア駐在中の1994年頃。出張者からお土産にもらったお酒が「上善水如」で、すっきりした味わいにフルーティーな香りが加わっていてそれまでの新潟のお酒にはない感覚に驚いたのを覚えている。


 私事だが、今年の五月に剣道六段の審査に何とか合格することができた。多くの剣道の先生方や仲間、友人達(剣道絡みだけでなく)にお祝いして頂いた。


 合格当日は、審査が行われた名古屋で飲み、次の週は地元(埼玉県朝霞市)で飲み、その後新橋や川崎、神楽坂、門前仲町そして故郷の山口など色々なところで多くの方と祝杯を上げる機会を得て、真に至福の時を過ごすことができた。


 また、このコラムを読んで頂いている交剣知愛の同士から種々珍しい日本酒を頂戴した(皆様、本当にありがとうございました)。

 五月末のこと。新橋で会社の古い友人に祝ってもらったお店が、「越州」という越後長岡の朝日酒造による直営店だった。


 朝日酒造と言えば、「久保田」が有名だ。他に代表銘柄として「朝日山」「越州」「越乃かぎろひ」「洗心(季節限定)」がある。


 久保田は、百寿・千寿・紅寿・碧寿・萬寿を飲んだが、たまに飲むのは私の小遣いと相談して大体において千寿なのだ。


 朝日酒造のホームページによると、創業は天保元年(1830年)、屋号は久保田屋。昭和60年(1985年)に「久保田」を発売開始している。平成16年(2004年)には、中越大地震で被災するが、会社をあげて震災から復旧させたとのことだ。今年は、「久保田」発売開始から30年ということで、「三十周年記念酒、久保田・純米大吟醸」を9月から販売開始している。


 さて、「越州」で飲んだお酒だが、「悟乃越州」純米大吟醸だった=上の写真。


 淡麗辛口の久保田千寿をイメージして飲んだので、口に含んだ途端に驚いてしまった。


 香りが高く華やかさもあり旨みとふくらみのある味わいだが、飲み口は軽快で後味がすっきりしている。久保田に使っている五百万石ではなく、越州は千秋楽という原料米を採用し、これまでと違う方向性を示しているようだ。


 「千秋楽という酒米は初めて聞く名前ですが、どんなお米ですか?」


 お店の人にそう質問すると――。


 「もともと昭和30年代に主食用として生まれたお米だったそうですが、その後別なお米が主流になったので倉庫に保管されていて、その種籾を復活させたようです」


 越州と久保田の表記をみると下記のようになる。

◆悟乃越州  純米大吟醸 原料米:千秋楽、 精米歩合:50%、日本酒度+1、酸度1.2
◆久保田萬寿 純米大吟醸 原料米:五百万石、精米歩合:50%、日本酒度+2、酸度1.2
◆久保田千寿 吟醸    原料米:五百万石、精米歩合:55%、日本酒度+6、酸度1.2
 
 ちなみに、わが座右の書『日本酒入門』(KADOKAWA発行、野崎洋光・監修、君嶋哲至著)を参照すると、「五百万石は新潟県で生まれた品種で、その名前は昭和32年(1957年)に新潟県の米生産量が五百万石を突破したことを記念して付けられた。精米したときに心白が出てきやすい特徴がある。日本酒に使われる米は100種類近くあるが、山田錦、五百万石、美山錦の3種で67.6%を占め、全体量の3分の2を超えている」そうだ。

               □


 ところで、私は熱狂的な「鉄ちゃん」という訳ではないが、昔から鉄道の旅が好きで、大学時代には友人と一緒に冬の山陰を鈍行列車に乗って旅したこともある。ワンカップの日本酒を飲みながら、車窓から見える雪景色を楽しんだものだ。


 2015年8月30日の日経新聞電子版に「お薦めの観光列車、ベスト10」という記事があり、第3位に新潟の「越乃Shu*Kura」という列車(JR東日本)を見つけたので紹介しておきたい。


■新潟の日本酒5種を飲み比べ 日本酒をコンセプトにした観光列車。新潟の酒が5種類あり、飲み比べができる。オリジナルの大吟醸酒も販売している。「地元の食材にこだわったお惣菜風のつまみがおいしい」「社内でジャズの生演奏があり、意外にマッチしている」「JR東日本の旅行商品「びゅう」経由で予約する1号車に乗れば、おつまみ弁当と日本酒などがセットで付いてくる。3号車は指定席を買えば当日でも乗車でき、日本酒やつまみは別途社内で購入する。上越妙高―十日町間の日本酒付きプラン7000円など」



 また、新潟県酒造組合サイトを参照したところ、10月1日を「酒の国 にいがたの日」と制定して、新潟の清酒約90種類を無料で利き酒できるとのことだ。


 蔵元一覧があったので数えてみると、上越20・中越37・下越29・佐渡5で合計91の蔵元の名前が記載されていた。やはり新潟県は、酒の国だ。


 さらに余談だが、日本酒造組合中央会のホームページに以下のとおり「10月1日は日本酒の日」という説明がある。


 「日本では12種の動物に例えられている十二支は、本来は1年の月の記号です。その10番目に当たる「酉」は、わが国ではトリと読まれていますが、元来、壷の形を表す象形文字で、酒を意味しています。


 日本の國酒である日本酒を、後世に伝えるという想いを新たにするとともに、一層の愛情とご理解を、という願いをこめて、1978年(昭和53年)に『10月1日は日本酒の日』と定めました。」


上杉謙信像(上杉神社所蔵)
上杉謙信像(上杉神社所蔵)


 さて、越後と言えば上杉謙信である。


 朝日酒造と同じく、越後長岡には新潟県で最も古い蔵元として吉乃川酒造がある。ここの創業は、今から467年前に遡る天文17年(1548年)だ。


 新潟県公式観光情報サイト「新潟観光ナビ」によれば、上杉謙信(享禄3年・1530年~天正5年・1578年)は、19才で春日山城に入り家督を相続し守護代になっている。酒好きで知られる謙信が、吉乃川のお酒を飲んだとしてもおかしくない。


 謙信のお酒にまつわるエピソードを探したところ、どういう訳か山口・岩国の酒「五橋」の蔵元である酒井酒造ホームページに以下のような話が出ていたので紹介しておきたい。


 「謙信が豪傑なのは戦だけではなく、酒のほうもかなりいける口だったようです。基本的に肴はとらず、とったとしても味噌か梅干し程度だったと言われています。大勢で飲むのを嫌い、一人で静かに杯を傾けていたとの記録もあるようです。


 『馬上盃』と称される、直径12㎝前後の大盃が遺品として残されていたり、画家に自分の後姿として盃を描かせたりと、酒に関するエピソードには事欠きません。


 そんな謙信の死因は残念ながら、酒が原因との説が有力です。1578年3月春日山城内の厠で、脳出血で倒れたのですが、日頃の大酒と、肴をとらない飲み方、激しやすい性格により、高血圧に陥っていたであろうと推測されているようです。さすがの軍神も、不摂生にはかなわなかったということなのでしょうか。


 七尾城攻略の際に、直江兼続が聞き取って書きとめたという謙信の辞世は『一期の栄一盃の酒/四十九年一酔の間/生を知らずまた死を知らず/歳月ただこれ夢中のごとし』というもの。


 『わが四十九年の生涯は一睡の夢であり、一代限りの栄華であり、一杯の酒にすぎない』という人生の儚さをうたった詩にも、『酒』の文字が見られ、謙信がどれほど酒を愛していたかがうかがえます」


              □


  一人静かに飲んでいたという上杉謙信。私も自宅では、一人で静かに飲む(相手がいない)。

 

 新潟の酒と言えば、南魚沼市・高千代酒造の「高千代 純米大吟醸(山田錦 精米歩合38%) 鑑評会出品限定酒」も昇段祝いに頂いた。


 素晴らしいお酒だった。少し口に含むとフルーティーで華やかな香り。ふわっと広がるフレッシュな甘味と軽い酸味・苦味。爽やかな含み香が余韻を残しながら消えていった。


 消えることの儚さと美しさ。杯を重ねつつ、私はこう呟くのであった。


 58年一酔の間、生を知らずまた死を知らず――。



こがねいコンパス第72号(2015年10月17日更新)



筆者・上村紳一郎(かみむら・しんいちろう)のプロフィール


1957年、山口県に生まれる。小学から剣道を始め、旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)では剣道部主将。六段。某大手電機メーカーに勤めながら、地元の朝霞市剣道連盟で子供達の指導と剣道家との交剣知愛を楽しむ。そのかたわら、独自に日本酒探訪を続け、酒と歴史とのつながりの物語を紡ぎつつある。時折、小金井市に遊びに来る。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

写真をクリックすると大きくなります
写真をクリックすると大きくなります
全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから

小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

こちらから

メルマガ登録をどうぞ!

「こがねいコンパス」からのメルマガをご希望の方は以下にメールアドレスをご入力ください。新しい「市政フラッシュ」の掲載や、次号の主な内容などについてご連絡します。

コンパスは「羅針盤」です!

 

 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

 『コンパス』は、羅針盤を意味します。辞書によれば原義は「ともに歩くこと」です。市民が市政をより深く理解するための一助となり、よりよい小金井市政のあり方を考えるときの羅針盤でありたい。市民のみなさんと一緒に歩んでいきたい。そんな思いを込めています。

 

 

 ご連絡は koganeicompass@gmail.com まで。