その8 「ミニこがねい」というまち

 小金井市は広さ11平方キロメートル。非常にコンパクトなまちである。北の端から南の端へ、あるいは東の端から西の端まで自転車でも(がんばれば歩いても)行くことができる。

 

 そのコンパクトなまちのなかに、もう一つ、「ミニこがねい」というまちがあるのをご存じだろうか。

 そのまちは地方自治法などで規定されている「市町村」ではない。構成員は小学生や中学生の子どもたちで、1年に2日間ほど、小金井市内に現れる期間限定の「まち」である。この次に「まち」が現れるのは来年2月10日と11日だそうだ。

 

 ドイツのミュンヘンには、「ミニ・ミュンヘン」という「小さな都市」がある。日本のミニ・ミュンヘン研究会によれば、7歳から15歳までの子どもだけで運営され、8月の夏休み期間の3週間だけ出現する。すでに20年以上の歴史があり、規模も大きい。

 

 「ミニこがねい」は、このドイツの「ミニ・ミュンヘン」を範としている。

 

  さて、「ミニこがねい」は突如として現れるのだが、そこに至るまでは地道な準備作業というものがある。大勢の子どもスタッフと、ほんの少しの大人スタッフがその準備にあたっている。

 私は幸運なことに、10月のある日曜日、その準備の集まりに招かれ、「ミニこがねい」づくりの過程に触れることができた。

 

 「ミニこがねい」には新聞社がつくられる予定なので、元新聞記者(=私)は何かの役に立つかもしれない――。

 そう大人スタッフが考えて招いてくれたのである。

 

  公民館の一室には、25人の子どもたちと数人の大人がいた。

 最初に自己紹介と来年2月の「ミニこがねい」で自分がどんな仕事をやりたいかを表明し、その後は仕事ごとにグループとなって細部を詰めることになった。


 「ミニこがねい」で子どもたちが挙げた仕事は、次のようなものだ。

 食べ物屋、幼稚園、受付、銀行、ゲーム、職業紹介、警察、手芸、ごみ収集、カフェ、そして新聞社。

 自分がやってみたいもの。まちにとって必要なもの。だれかがやらなければならないもの。

 そうした様々な子どもたちの思いが、仕事の選択に表れている。子どもスタッフは女の子が多く、「手芸」というのはそんな事情も反映している。

 

   ・・・・・

 新聞社のグループに入ってみた。

 小学3年生の男の子T君、同じく3年の女の子Kさん、5年生の男の子S君の3人が集まっていた。

 

 「よろしくね」と挨拶すると、S君が「僕はハケン社員で、この二人が正社員なんだ」という。

 いきなり小学生から「派遣社員」や「正社員」という言葉を聞くと、雇用問題の深刻さを改めて実感する。

 しかし、話をしているうちに、S君が言っている「ハケン社員」とは、人材派遣会社から送られて来る社員のことを言うのではないと気がついた。


 S君は本来はゲームを担当したい。しかし、この日はゲーム会社からの「派遣」で新聞社に来ているという意味のようだった。その意図は良く分からない。ちょっと「お試し」的に新聞社に参加したということなのだろうか。

 

 3年生のT君は、表情を少し曇らせていた。

 「新聞を発行しても、115枚しか売れていない。こんなに余っているんだよ」

 確かにテーブルの上には、過去に発行した『Kids town times キッズタウンタイムズ』が積まれている。3号あり、それぞれ100枚程度売れ残っている感じだ。

 

 そこにあった『キッズタウンタイムズ』の第2号を手に取ると、「すごい行列!」という見出しの記事があり、臨場感あふれる描写で始まっている。

 

 「今、すごい行列ができています。ゲームは大行列ができていて、大人でもやる人がいました。おはなやは、行列ができていませんが、すごい人気です」


 さらに手芸や受付の盛況ぶりを述べた後、こう続く。

 

 「ほとんどの店で行列ができているのに、ただ一つ、新聞社は人気がなく、第1号を200部(200まいの事)も、いんさつして午後12時32分の時点で、13枚(新聞1まい1ミニコ)しかうれていません。1まい1ミニコという安さなので、ぜひかってください」

 

 切々たる思いが伝わってくる。紙媒体のニュースメディアの苦境はここ「ミニこがねい」でも同じなのかと感じ入る。

 

 ところで『キッズタウンタイムズ』はA4サイズの紙の表裏2ページ。価格は記事にある通り1部1ミニコだ。

 ミニコとは「ミニこがねい」で使われているおカネの呼称である。地域通貨と言っても良いかもしれない。ちなみにミニ・ミュンヘンでは「ミミュ」というおカネが使われている。

 

 「1ミニコって、いったい何円ぐらいだろう?」

 そう子どもたちに聞くと、S君が「この間、餃子を1ミニコで売っていたから、40円ぐらいじゃないかな」と言う。なるほど。

 

 売れ残った新聞を前にして、正社員2人、ハケン社員1人、顧問のような大人1人(私)による議論は、自然に「どのようにしたら新聞は売れるか」というテーマから始まった。

 

 「やはりパソコンでつくるべきじゃないかな。子どもの手書きだとどうしてもちゃちに見えてしまうよ」

 そのような意見が出て、次号はパソコンで制作という方針が固まった。

 さらに新聞のインパクトを強めるために、表裏2ページではなく、A3用紙を半分に折り、4ページ化しよう。カラ―にしよう。

 そのような方針も決まった。いいぞ。私はうんうんとうなずく。

 

 議論は、どこかの時点で新聞を「より多く売る」から「より多く稼ぐ」という話に変わっていった。まあ、自然な流れではある。

 

 「古い新聞がこれだけ残っているのだから、新しい新聞と一緒にして売ろう。セット価格は3ミニコとかで」

 素晴らしいアイデアだ。古い新聞を大切に持っていても仕方ない。味わい深い手書きの『キッズタウンタイムズ』はそれなりに好評を得るだろう。

 

 

  ・・・・・

 さらに私を驚かす画期的な提案が出た。

 

 「ねえ、広告を取ったらいいんじゃない」

 4ページのうち1ページを広告のページにあて、それを4分割にして、他の会社の広告を掲載しようというのだ。

 

 日本新聞協会の最新の調査によると、日本の新聞社は総収入の2割から3割程度を広告から得ている。減りつつあるとは言え、広告収入は新聞経営を左右する重大な要素である。

 ――ということを知ってか知らずか(たぶん知らないと思うが)、『キッズタウンタイムズ』では、広告を取るという方針が採用された。

 

 では広告単価をいくらとすべきか。

 これはどの新聞社にとっても悩ましい問題である。高すぎれば広告は集まらない。低すぎれば経営を支えることにはならない。

 

 最初は4分の1ページで5ミニコという案が出た。1ページで20ミニコ。

 しかし、大切な1ページを広告にあてるのだ。そんなに安くていいのだろうか。

 子どもたちは腕組みをしてうーんと考えた。私も腕組みをしてみた。

 

 1ページの貴重さについて思いなおすにしたがい、広告単価は次第に高くなった。

 

 同時に、S君は素早く周りの会社へ打診に動いた。マーケティング調査だ。

 「ねえねえ、新聞に広告が出せるんだけど、1ページの4分の1で、**ミニコ。どう高い? 安い?」

 

 というような経緯を経て、広告単価(4分の1ページ)は20ミニコという価格で落ち着いた。

 

  ・・・・・

 この日私がもらった過去の『キッズタウンタイムズ』は先述の通り、子どもの手書きなので、一見たどたどしく見えるが内容はしっかりしており、クイズや漫画もあって読者をひきつけようとする工夫に富んでいる。


 そしてまちの住人ではない大人にも、子どもの目から見た「世界」や、子どもにとって何が大切なのかを教えてくれている。

 

 例えば、今年8月30日に発行された第1号のトップニュース。

 

 見出しは「ほうりつけってい」である。

 記事は次の通り。


 「今日ほうりつがけっていしました。

 ほうりつはこのとおりです。

 ①人をいじめない

 ②さわがない

 ③昔のミニコはつかわない

 ④ポイすてしない

 ⑤ほうりつをかってにつくらない

 ⑥ミニコをひろったらけいさつにとどける

 ⑦お店をかってにつくらない

 ⑧きんきゅうのときいがいは、はしらない

 いじょうです。

 なお、ここからつけたしされる場合があります。」

 

 その記事を見た後、私はしばらくの間、「ほうりつ」の第1条に目を落としながら、それを提案した子どもたちの気持ちと、子どもたちが生きている時代について、静かに考えてみた。

(終わり)

 

 

こがねいコンパス15号(2012年10月28日更新)

「ミニこがねい」についてのお問い合わせなどは、主催をしているNPO「こがねい子ども遊パーク」へ。ホームページはこちらから。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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イラクから問い続けてきたもの

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