その5 地域のチカラとアート

 いつものようにTシャツ姿で、窓も開け放って寝ていたら、思いもよらぬ朝方の冷気によって簡単に風邪をひいてしまった。涼しくなったのはうれしいが、もう少しゆっくりと秋の気候へと移ってほしいものだと、人間は勝手なことを思う。朝から止まらなかった鼻水は、それでもマスクをつけたままベッドに横たわっているうちに夕刻には収まってきた。


 調理を主に担当している家人が外出しているので、自分でご飯を炊き、冷蔵庫の片隅にあったコンニャクでピリ辛炒めをつくり、菜食主義者のような夕食を済ませて向かったのが、第2回「あいのてさん ワールド・ミュージックフェスティバル in 小金井」のイベントのひとつ、「あいのてさんと立ち話」。

 

 「あいのてさんって何?」と聞かれても、うまく説明できる自信はほとんどないが、NHKの幼児向け音楽番組「あいのて」に、レギュラー出演していた「音が好きな3人組」のみなさんである。楽器ではないものも使って音遊びをし、それが音楽へつながっていく。「鍵盤の達人」が赤のあいてのさん、「打楽器の達人」が黄のあいのてさん、「声の達人」が青のあいのてさん。高いレベルのパフォーマンスが、音楽に対する既成概念を変え、音楽の地平を広げている。

 

 その「声の達人」で、青のあいのてさんが小金井市に生まれ育ち、小金井市で暮らす尾引浩志さん。

 

 あいのてさんは昨年から10年間、小金井市を活動の「重点強化地域」に指定しているそうで、今回のフェスティバルもその一環だ。自由で不思議な音楽を聞かせてくれる、青のあいのてさんの実像や小金井を「重点強化地域」にした経緯などは《変える 試みる 小金井の人たち》で近くご紹介したい。

 

 

 

左から尾引さん、野村さん、貫井囃子保存会の大澤会長
左から尾引さん、野村さん、貫井囃子保存会の大澤会長

 「立ち飲み」ではなく、「立ち話」というイベント。おそらくは「あいのてさん」たちを囲んであれやこれや話すというのが、企画の趣旨なのだろう。立ち話ではなく、会場となった小さなカフェには、椅子もテーブルもあり、あいのてさん3人と、貫井囃子保存会会長の大澤国栄さん、文化生態観察に取り組まれている大澤寅雄さんを囲み、「お祭りとアートの地産地消」というテーマをめぐり、筋書きのないトークが繰り広げられた。


 あいのてさんは今回のフェスティバルで、初めて貫井囃子保存会とのコラボを行った。クラリネットとチンドン太鼓の「ジンタらムータ」(この方たちも小金井市在住)も加わった前夜のコンサートの記録映像をスクリーンで見ると、黄金期のプロレスの「時間無制限バトルロイヤル」のような、激しく混沌とした音楽的エネルギーが渦巻き、小さな子どもたちが憑かれたように踊りまくっている。

 

 さらに研究者の大澤寅雄さんによるお囃子についての解説を受けた後、大澤さんが撮影した葛西囃子、目黒囃子、貫井囃子、藤野囃子の演奏風景をスクリーンで拝見した。(大澤さんご自身も藤野囃子のメンバーだという。) 

 

 「このお囃子は、リズムがスウィングしています。ジャズのセッションのよう」とか、「ここのお囃子はちょっとスクエア(きちっとしている)」という寸評付きだ。地元・小金井の貫井囃子については「喜ばせる、お客の心をつかんだら離さない。ドライブ感がある」という。確かに前夜の子どもたちの乱舞する姿を見ればそのドライブ力の強さを感じる。

 

 そのあとで、保存会会長の大澤国栄さんのお話をうかがうと、そうした演奏がどのようにして生まれるのかが良く分かった。伝統の良さを大切にしつつ、質の高い演奏を目指そうとする志と柔軟な精神のありようが力強い言葉の端々から伝わってくる。

前夜のコンサートをスクリーンで見る
前夜のコンサートをスクリーンで見る

 さて、「祭りとアートの地産地消」について。

 研究者の大澤さんは「かつて祭りは地産地消そのもの」であり、「消費者(観客)と生産者(アーティスト)が交替可能な仕掛け」だったが、近代化、西洋文化の輸入と啓蒙、富国強兵、テレビの普及と文化の大量生産・大量消費を経て、今日の姿に至っていることを説明する。

 

 その中で伝統的な芸能も含め、地域の文化をどのように豊かに育んでいくのか。「立ち話」での議論を要約するのはなかなか難しいし、一つに結論づけることに意味があるのではなく、様々な角度や立場から意見をぶつけあい、刺激しあい、化学反応を引き起こす「場」自体に意味があったのだと思う。答えは必ずしも一つではないし、「地産地消」という言葉に人々が抱く考えやイメージもまちまちだからだ。

 

 ただ確実に言えることは、今回の斬新で、ユニークなコラボレーションは、小金井に「根っこ」を持つという共通点で実現したということだ。

 

 「あいのてさん」の一人、野村誠さんは「可能性を感じた」と話し、保存会の大澤会長も「普段、お囃子を聞く機会のない人たちにも聞いてもらうことができた」と振り返る。

 

 音楽的文法の違いなど、セッションの難しさは恐らくあるのだろうが、「あいのてさん」や「ジンタらムータ」のファンが貫井囃子の存在と演奏を知り、もちろんその逆もあることによって、小金井の中で新しい広がりや交流が生まれるというのは素晴らしいし、それは地域文化の土壌をより豊穣にし、より持続可能なものへ変えていく可能性を秘めている。

 

 「立ち話」からの帰り道、秋冷という言葉にふさわしい冷たい風にあたりながら、「地域のチカラ」とアート(芸術・文化)についてつらつら考えた。

 

 暮らしている地域のチカラや魅力を感じさせる要素というのは、人さまざまだろうが、例えば子どもの手を引いて近くの神社のお祭りに出かけたり、例えば夕暮れにビールを片手に野外コンサートでジャズを聞いたりすると、ああこのまちに住んで良かったと実感する。

 

 アートはホールや美術館の中だけにあるのではなく、その外側の、日々の暮らしに近いところにもある。それらをひっくるめて柔軟にアートをとらえ直した時、地域のアートが地域の重要なチカラであることに間違いない。

 

 3・11後の日本社会では、エネルギー問題をきっかけに私たちの生活様式が問い直されようとしている。エネルギーを大量に消費する「便利な社会」は、果たして持続可能で「豊かな社会」なのかと。


 私たちの足元にあるアートを再発見しようという新たな試みにも、3・11後の問題意識が伏流水のように流れているような気がする。そして、身近なアートとの出会いと発見は、私たちが、暮らしているまちの自画像や将来像を描くうえで大切な役割を果たすのではないだろうか。    

 

         ***

 季節の変わり目、読者のみなさまもぜひご自愛ください。コンニャクのピリ辛炒めはご要望があれば(ないとは思いますが)レシピをお知らせします。

(編集長拝)

 

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「こがねいコンパス」2012年9月25日更新

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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