その13

庁舎問題とは――3つの表象、あるいは病状

(第一の表象あるいは病状)

 稲葉市長が9月議会に提案し、撤回した市庁舎に関する提案――つまり昨年3月に定めたばかりの新庁舎の建設計画を15年間凍結する一方で、第二庁舎として借りている民間ビルを買い取るという市長の提案――をどう考えればよいのでしょうか? その評価は後述しますが、私は唐突に映る今回の提案は、小金井市政が抱える3つの問題を表しているように思えます。


 今、「3つの問題」と言いましたが、より正確には「3つの深刻な病状」と言うべきかもしれません。


◆危機的な財源不足


 第一に今回の提案は、小金井市が今、まぎれもなく「危機的な財政状況」にあり、「危機的な財源不足」に陥っているということの反映にほかなりません。


 まず、新庁舎を蛇の目工場跡地に建設する計画をおさらいしてみましょう。


 基本計画で定められたスケジュールでは、2014年度から2015年度にかけて基本設計、実施設計をやります。(2014年度の予算では基本設計のための3500万円が計上されていました。) 2016年度に着工し、2018年4月に竣工。5月の連休中に新庁舎へ引っ越しし、オープンします。そののち借りていた第2庁舎を借りる前の形に8月までに戻す、というものでした。だから現在の第二庁舎の賃貸契約は2018年8月までしか結ばれていません。


 基本計画では建設・移転などにかかる費用約55億円の財源内訳も示されていました。その財源をいつどう確保するかは、市議会に示されており、それによれば庁舎建設基金や第二庁舎保証金(敷金のようなもの)の返還金、地方債による借金のほか、一般財源から2014年度3500万円、2015年度1億5270万円、2016年度9400万円、2017年度3億5900万円、2018年度3億4900万円など計10億円をあてるという計画でした。


 基本計画の策定後、基金にさらに1億円を積み立てましたので、一般財源から充てるおカネは合計9億円に減りました。なるべく後年度の一般財源への負担を軽くしようという狙いです。


(全員協議会に提出された報告書から)
(全員協議会に提出された報告書から)


 それでもこの先、9億円の一般財源を確保するのは難しいと考えたようです。市当局は、庁舎の規模を縮小したり、財源を確保するために本庁舎の敷地などを売却したり貸したりして、おカネをねん出する方策をあれやこれやと検討しましたが、「有効な方策」は生まれなかったと報告しています。


 9月17日からの市議会全員協議会に出された「新庁舎建設事業の凍結および第二庁舎の取得について」という報告書には、こう書かれています。


 「現在、市の財政は危機的な財源不足である状況から、一般財源の負担軽減に加え、地方債発行による将来世代への負担を可能な限り抑えられるよう、次のとおり財政負担の軽減が見込める方策についての検討を進めてまいりました。」


 検討した結果、「財政負担の軽減が見込める方策」が見つからなかったというのです。さらに、この報告書では建設物価などの高騰によって建設費用が基本計画の約55億円から約70億円に膨れ上がる見込みを指摘しています。


 70億円の建設費の財源としては、地方債による借金を最大限しても40億円。一般財源からは約18億円を充てなければなりません。9億円の一般財源をねん出するのも難しいと判断しているのに、その倍になるというのです。


 報告書は、そうした財政状況などから「新庁舎建設を凍結した場合に、もっとも影響が少ないと考えられる方策が『第二庁舎の取得』であるという結論に至りました」と述べています。


 簡単に言えば「総合庁舎を建設するつもりだったがおカネが工面できそうにない。今借りている第二庁舎を買ってしまえば、買うために借りたローンの支払いが今の家賃よりも少ないから、その差額を貯金すれば庁舎の建設資金に回すことができる」という案です。


 一見、良さそうな案に見えます。ただ、どうも釈然としません。


 というのも「危機的な財源不足である状況」と、一言で説明されていますが、それがどの程度の財源不足であるかが一切明らかにされていないからです。


 今回の市の案では、第二庁舎のビルは18億6600万円で購入します。そのために約14億円を地方債の発行によって借金します。これは15年間かけて返済しますので、その期間中は庁舎は建設しない予定です。つまり15年間の凍結です。


 (報告書は「新庁舎建設事業の早期再開に努めてまいります」と記し、市長も凍結期間を短くすると述べていますが、そのための方策は具体的に示されていないので何の確約にもなりません。)


 ビルを取得することによって生まれる費用の軽減効果――市は「実質財政効果」と呼んでいます――は、15年間で約18億円と説明されています。


 ただ、これには今まで大家さんが払っていた固定資産税・都市計画税の減収という要素や、5年ごとの家賃の改定(つまり値下がり)という要素が考慮されていません。本庁舎を耐震診断したうえで、補強工事をやれば最大で10億円近くかかるとの報告もされました。


 もろもろを考えると、「実質財政効果18億円」というのは極めてあやしくなります。もっと精査して、説得力のある財政効果をきちんと示してもらいたいものです。


 かりに市の説明の通り、毎年きちんきちんと庁舎建設基金に計18億円が積み立てられたとしましょう。


 市は報告書の中で「定期的に積み立てることができた場合」の新庁舎建設の財源計画を示しています。保証金返還金の残りを含む基金積立金が約25億円となり、地方債の27億円で計52億円。第二庁舎の現状回復費が必要ないので、このおカネで新庁舎建設基金がすべてまかなわれる。つまり一般財源からはゼロですむというのです。素晴らしい案ですね!


 ・・・うーん、ちょっとまってください。同じ報告書の中で今建設すると約70億円かかると説明をしていました。なぜ15年後に建設すると基本計画の策定段階と同じ55億円のベースに戻るのでしょうか。その根拠が分かりません。

(全員協議会に提出された報告書から)
(全員協議会に提出された報告書から)

 かりに建設費が70億円だとすると、まず地方債でまかなう分は、あまり後年度負担が大きくなってもいけませんので、基本計画と同じように34億円としましょう。さらに積立金25億円を全額使ったとしても、なお11億円が必要となりますから、よほどの「有効な方策」がない限り、一般財源から充てるしかありません。


 9億円を一般財源から充てるのが難しいという判断から新庁舎建設を「凍結」したわけですが、それを上回る11億円をどうやって一般財源からねん出するのでしょうか。

 

 やはりどう考えても「危機的な財源不足の状況」をより具体的に明らかにしないと、きちんとした処方箋は見出しにくいと思わざるをえません。


 可燃ごみの3市共同処理施設の建設、武蔵小金井駅と東小金井駅周辺の開発、福祉会館を含む老朽化した公共施設の整備といったハード分野の事業に加え、待機児童の解消のための保育サービス量の拡大や、さらに必要となる高齢者施策といった事業に、例えばこれからの10年間でどのくらいの費用がかかるのか。その費用をどのようにねん出するのか。そうした全体像のなかで、新庁舎建設計画の先延ばしなどの見直しを行う――。こちらの方が、より確実で、より分かりやすく、より市民に説得力を持つような気がします。


 小金井市は今、「危機的な財政状況」と「危機的な財源不足」にあります。それは間違いないでしょう。しかし、真に危機的なのは「どれくらい危機的なのか」「どのくらい財源が不足しているのか」をきちんと分析し、市民に伝えようとしないことではないでしょうか。


 (続く)


こがねいコンパス第59号(2014年10月4日更新)


編集長 佐藤和雄(さとう・かずお)のプロフィール 

 

1957年8月生まれ。獅子座。血液型はAB型。朝日新聞社で政治部記者時代には、首相官邸、自民党、外務省、防衛庁、旧自治省などを担当。国連本部担当のニューヨーク特派員、政治部次長、大阪社会部次長、紙面委員などを務める。米ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所の客員研究員だったことも。著作に『検証 日露首脳交渉』(岩波書店、駒木明義氏との共著)など。2014年夏に『まちの力、ひとの力 ~変える 試みる 小金井の人たち』(クレイン)を刊行。2011年4月27日から同年11月11日まで小金井市長。現在は「こがねい・市民のチカラ」共同代表、首都圏にある某大学の非常勤講師。小金井に住んで20数年。 趣味は安ワインと料理研究、そして映画。 


 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

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民主党小金井支部幹事長

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イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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