その10 続・ミニこがねい

 2月11日午前10時少し前だった。

 携帯電話が鳴り、見たことのない電話番号が表示された。

 

 おそるおそる出ると、男の子のしっかりとした声が響く。

 「佐藤さん、ですか?」

 「はい、そうです」

 

  電話は、「ミニこがねい新聞社」のT編集長(小学3年生)からだった。

 「今日は何時に来られますか?」

 「えーと、10時半ぐらいに行くつもりです」

 「・・・分かりました。それでは、今日一日、よろしくお願いします」

 「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ついに「ミニこがねい」が始まったのである。

 えっ、それは何?という方は昨年10月に書いた「編集長の独白 その8」をお読みください。

 

 ローマ帝国が一日にして成立しないように、期間限定の極小自治都市「ミニこがねい」が出現するためにも長い準備の時間が必要だ。

 

 私はその準備のなかで少しだけお手伝いをしたのだったが、「本番もよろしくねっ」という大人スタッフのご依頼もあり、本番すなわち2013年2月10日と11日の2日間、可能な範囲でお手伝いをすることにした。

 

 とは言っても10日はどうしても外せない用事があり、まったく参加できないので、前日の9日の準備作業に加わり、《新聞社》がパソコンで編集、印刷できるためのセットアップをしてあげた。

 

 新聞社の主力スタッフは――準備にきちんと付き合っていないので確かなことは言えないが――小学3年生の男の子と女の子の計4人ぐらいである。

 

 編集長のT君は自宅でパソコンを日頃から使っているようで、キーボードをかたかた鳴らし、文章を書くのも慣れている。

 

 "The Kid's Town Times"という新聞の題字のデザインをみんなであれでもないこれでもないと話しながら決めた後、写真を紙面に取り込む方法を教えてあげると、もうそんなにやることはない。

 「仕事の分担をきめといてね」と言って9日は、さようなら。

 

 「ミニこがねい」は午前10時から公民館本館(福祉会館の3、4階)で始まる。

 もちろんスタッフは、それよりもずっと早く来て準備をしなければならない。

 11日の午前10時近くになって電話がかかってきたのは、なかなか私が姿を現さなかったからだろう。

 

 公民館本館に着くと、めざとく大人スタッフのリーダー格であるLさんに呼び止められ、「これを読んでおいてっ」と渡されたのが、「ミニこがねい大人スタッフのみなさまへ」という説明文だ。

 なになに。

 

 「こどものまち『ミニこがねい』は子どもたちが作る、大人口出し禁止のこどものまちです」

 

 「大人スタッフは口出し、手出ししないことを信条にしています」 

 

 「子どもが困っていることがあれば、子どもと相談して対応してください」

 

 「また、まったく口出ししないのがいいわけではなく、大人として見ていられない危ないことや良くないことをしていたら注意してください」

 などと書いてある。

 

 「トイレ、食事をしたいがどうしても子どもスタッフがいなくなるのでできないときなどは留守番役になってあげてください」とも。

 

(ミニこがねいの新聞でも「大行列」は報じられた)
(ミニこがねいの新聞でも「大行列」は報じられた)

 なるほど。

 公民館本館がある福祉会館のロビーにはすでに受付のために並んでいる子どもたち(と保護者)で長い行列ができている。これだけ多くの子どもたちが福祉会館に集まっているのは見たことがない。(注)

 

 いやあ、ミニこがねい恐るべしだな、と呟きながら《新聞社》に割り当てられた3階の資料室に行くと、すでに編集作業は始まっており、新聞を売りに行くアルバイトの子どもたちも集まってきた。

 

 さきほどもらった説明文に書かれた「こどものまちルール」に沿って、ミニこがねいの仕組みを簡単に説明するとこうなる。

 

1)子どもたちは仕事するか遊ぶかは自由

 

2)ミニこがねいに入場すると10ミニコ(ミニこがねいのおカネ、すべて紙幣)がもらえる

 

3)働きたい場所は《仕事紹介所》に行き、どの仕事につくかを決め、「仕事カード」をもらう

 

4)仕事について30分働くと、《銀行》に行って仕事カードを返して10ミニコをもらう。

 

5)さらに働く場合には改めて《仕事紹介所》に行く。遊ぶ場合には、ミニコを使って買い物やゲームをする。

 

 という感じだ。

 

 子どもたちは最初にもらった10ミニコはすぐになくなってしまうし、どこかで働いてみたいという気持ちもあって、みんな仕事に熱中している。

(花屋さん)
(花屋さん)

 《新聞社》に来た「アルバイト」さんたちは、いきなり記事を書くのは難しそうなので、刷り上がった”The Kid's Town Times"を手にして、売りに回る役目となったようだ。カラ―の新聞が2ミニコ、白黒が1ミニコ。 

 

 「行ってきまーす」と元気な声を挙げ、新聞を片手に売りに行く小さな子どもたちを見ていると、私はなんだか戦前のロンドンあたりで子どもに街頭で新聞で売らせながら、後ろでふんぞり返っているオヤジになったような錯覚に一瞬とらわれた。


 それにしても、ミニこがねいで今起きていることを直ちに取材し、記事に書き、それをレイアウトし、印刷するというのは、なかなか忙しい仕事だ。号外を一日に何度も発行しているようなものである。

 

 私が来る前にすでに、パソコンに詳しい大人のペケさん(ニックネームだそうです)が大人ボランティアとして子どもたちをサポートしていた。

 

 ペケさんのアドバイスは的確で、さらに「いやあ、いい新聞だなあ。これは絶対売れるよ」などと、子どもたちのやる気を引き出すのがうまい。

 

 「こどもが困っている」こともなさそうなので、せっかくもらった10ミニコを使うことにした。言い忘れたが、大人のボランティアにも最初に10ミニコが渡される。説明文には「お手すきの合間にミニこがねいを体験してみてください!」とあるので、体験しようではないか。

 

(懸命に焼いています)
(懸命に焼いています)

 4階には《カフェ》があり、美味しそうなものを売っている。

 

 「たこ焼きが5個で8ミニコだよ!」という声が私の心をとらえた。

 所持金は10ミニコしかない。使ってしまうと残りは2ミニコ。それでいいのかと、多少ためらう気持ちが無かったとは言えばウソになるが、例によって前のめりに決断してみた。

 

 たこ焼きは少し冷えていたが、きちんと焼き上がっていて、あっという間に胃の中へと消えた。

 

 さて、あとは2ミニコしかない。《花屋》さんに並んだ紙コップに入った花束がなんとも可愛らしくて欲しかったのだが、値段は5ミニコ。足りない。

 

 どこかで両替できるというわけでもない。どうすれば大人はミニコを手に入れることができるのか――。

 

 (もちろん、ミニこがねいはこどものまちであるから、住民ではない大人が飲んだり食べたり買ったりするのは想定されていない。だから大人ボランティアでも使えるのは10ミニコなのであり、「大人はどうやってミニコを手に入れることができるか」と発想すること自体が大きな間違いなのである。)

 

 2ミニコしか持たず、ミニこがねいのまちをあてどなくふらふらしていると、通路で入場整理をしていた大人スタッフのYさんに出会ったので、小声で聞いてみた。

 

 「ねえ、Yさん、大人がミニコをゲットするにはどうしたらよいの?」

 「・・・子どもにせびるしかないわね。ちょうだーーいって言って」

 「・・・そうですか」

 

 

 「せびる」という言葉を聞くと、意味もなくいつも「セビリアの理髪師」が思い浮かぶ。

 そうか、せびるのか、でもなあ。大して働いてもいないのに、ちょっとせびりにくいよなあ。

 

  そんな話を《花屋》さんでお手伝いをしている大人ボランティアのKさんに言うと、「ほら、10ミニコをあげるよ。たぶん使えないから」。

 いや、申し訳ないですね。

 

 

 さらに嬉しいことがあった。

 

 午後2時を過ぎたあたりだったろうか(ミニこがねいは午後3時でおしまいです)。

 《新聞社》のスタッフのKちゃんが突然、私に「はい、ミニコをあげる」と言って、気前よく10ミニコの紙幣を差し出したのだ。

 

 「いいの?」

 「うん、だってこんなに持っていても仕方がないもの」

 

 おカネはあればあるほどよいというような考えをもつ大人が少なくないこの世の中で、Kちゃんの言葉は私の心を温かくした。

 木枯らしが吹きわたる夜道を帰り、家でストーブに手のひらをかざしたような気分だよ。

 ありがとう、Kちゃん。遠慮なく頂きます。

 

 ちょっとうきうきしながら、22ミニコが入った財布を持って向かった先はやはり4階の《カフェ》。

 しかし、人気のクッキーやたこ焼きなどはすべて売り切れていたのだった。

 甘くないな、ミニこがねい。

(終わり)

 

 

こがねいコンパス23号(2013年2月16日更新)

(注)主催者によると、今年のミニこがねいには子どもたちの一般参加が2日間で480人。スタッフの子どもたち50人を入れると、500人以上の子どもたちが集まったことになるという。長蛇の列ができるわけだ。

追記:ミニこがねいの新聞社のスタッフや「アルバイト」さんの子どもたちへ。一緒に過ごした時間はとても楽しかったよ。もっと「ジャーナリズム」について語る時間があれば良かったとも思うけども、でもつくった新聞はなかなか立派だった。たくさん売れてよかったね。また会おう! 

(大人スタッフのみなさん、お疲れさまでした!)

■編集長プロフィール

佐藤和雄(さとう・かずお)

1957年8月生まれ(獅子座)、山口県出身。朝日新聞社で政治部記者時代には、首相官邸、自民党、外務省、防衛庁、旧自治省などを担当。国連本部担当のニューヨーク特派員、政治部次長、大阪社会部次長、紙面委員などを務める。米ワシントンのシンクタンク「ブルッキングス研究所」客員研究員、防衛庁防衛研究所の第49期「特別課程」研修員。

著作に「検証 日露首脳交渉」(岩波書店、駒木明義氏との共著)など。2011年4月27日から同年11月11日まで小金井市長。2013年春から首都圏の大学で「ジャーナリズム論」を教える予定。

1992年春から小金井在住。 趣味は安ワインと料理研究、映画。焚き火をこよなく愛し、「小金井焚き火の会」会長でもある。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

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イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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