変える 試みる 小金井の人たち   file9-1

NPO「地域の寄り合い所 また明日」を運営する森田和道・眞希夫妻

 ごく日常的な姿のようでいて、実際には得がたく、懐かしく、温かな光景が小金井市の一角に広がる――。


 二階建てアパートの一階5世帯分の壁を取り払ってつなげた250平方㍍ほどの空間で、認知症のお年寄りたちと、おむつをつけた乳幼児と、学校帰りの小学生たちがともに過ごす。

 

 お年寄りたちは乳幼児の手をとってあやしたり、小学生たちに昔話を教えたり。子どもたちは、きらきらとした瞳によってお年寄りたちから柔らかな笑みを引き出している。


 認知症のお年寄り専門のデイホーム、認可外保育園「虹のおうち」、誰もが立ち寄ることができる「寄り合い所」の三つの事業を、一つ屋根の下で運営するNPO法人「地域の寄り合い所 また明日」。

 

 その中心となっている森田和道・眞希夫妻に2回にわたってお話を聞く。まずは、『また明日』が誕生する経緯から。

 

(和道さんはイニシャルのKで、眞希さんはMで表記しています)

 

――お年寄りから赤ちゃんまでが集う『また明日』の事業は2006年12月に始まったそうですが、現在の利用者は?

 K「ここでは15人の子どもたちを保育しています。デイホームには8人前後のお年寄りが来ていらっしゃいます。このくらいのバランスがちょうどよい感じですね。

 

 『寄り合い所』は今は、小学生が多いです。放課後、3年生から5年生ぐらいの子どもたち10人ぐらいが来ていますね。あとはご近所のお年寄りで、毎日、子どもたちの相手をしながら自由に過ごされている方もいらっしゃいます。

 

 ここ5年間で『寄り合い所』に関しては、利用者の世代の波があるようです。最初は、若いお母さんとお子さんが多く、その後、小学生が増えて、また入れ替わるように若いお母さんが増えて、と。今は小学生ですね」

 

――眞希さんはNPO法人の代表と『寄り合い所』のコーディネーター。和道さんは『また明日デイホーム』の管理者と保育園『虹のおうち』園長。役割分担は、どのようにして決めたのですか。

 K「うーん。キャラクターですかね。森田眞希はどちらかと言うと、人とのつながりが自然とできやすいキャラクター。その一方、事務処理などはあまり得意ではありません。

 

 私が(事務処理について)得意というわけではないのですが、まだ分かるのでそうした仕事や法人としての5カ年計画などの方向性については主に意見を出しています。私と森田眞希で二人でひとつ。『破れ鍋に綴蓋(とじぶた)』みたいな、お互いが互いに苦手な部分を補完しながら、それでようやく半人前という感じでしょうか(笑)」

――いつごろから、このような保育と介護保険事業が同居する施設を考えていたのですか?

 K「私が特別養護老人ホームの『桜町聖ヨハネホーム』(小金井市桜町1丁目、社会福祉法人聖ヨハネ会が運営)に就職したての頃ですから、20年ぐらい前まで遡ることになります。

 

 当時、私がまずそこに就職して、その後、森田眞希と結婚し、彼女も併設の桜町病院の小児科病棟に保育士として働くことになりました。

 

 ある日、彼女が桜町病院から渡り廊下を通って、ダウン症の3歳の女の子を聖ヨハネホームに連れてきたのです。女の子の姿を見て、ヨハネホームに入所されていたお年寄りの方々の表情が変わりました。入所されていたのは要介護度の高い方、認知症の重い方たちです。

 

 自省を込めて言うのですが、老人ホームでは日々のスケジュールの決定から、起床、食事まですべて職員主導で進められます。お茶を飲んだら、また車いすに乗せられ、自分のベッドに帰らされる、というように。

 

 しかし、森田眞希が連れてきたダウン症の女の子に対して、お年寄りたちは、ぱっと手を差し伸べ、愛情を注ごうとしました。

 

 それまでは、私も含めた老人ホームの職員に『与えられる』だけの存在だったのが、女の子1人が来ただけで、(入所者は)『与える』存在になれたわけです。

 

 一方、その女の子も緊急措置で一時入院をしていて、小児科病棟では『与えられる』存在でした。渡り廊下を一つ渡ってきただけで、お年寄りの表情を変えるとか、お年寄りが主体性を取り戻す、そのきっかけを与えてくれた。お互いが『与える』存在になったのです。

 

 お互いが与えあい、支えあって、その時間が過ぎていく。その光景を目の当たりにした時に『本来の福祉というのはこういうことではないのか』と考えました。

 

 特別養護老人ホームの職員として、お年寄りのお世話に明け暮れていたなかで、私たち職員になかなかお見せにならない表情を見て、『主体的な生活ができていなかったな』という反省がありました」

 

M「その女の子はとても人懐こくて、お年寄りが大好きだったんです。だったら夫がいる隣の特別養護老人ホームに遊びに行こうと思って連れて行ったんです。

 

 院内散歩している時、ダウン症の子どもを連れて歩くと、みんなに声を掛けられるのは『可愛そうね』といった言葉が多かったのですが、特養に行ったら『よく来たねえ』と、ダウン症のあるなしに関係なく声をかけてくれたのが、とてもうれしかった。女の子もお年寄りのベッドにもぐりこもうとしたりして。

 

 その光景は忘れられないものでした。二人で家に帰ってから『いつかはお年寄りも子どもも同じ時間と場所を共有できたら良いね』と話した記憶があります」

 

K「そのようなことを森田真希と『夢』として語り合っていたのですが、ひょんなことから私が社会福祉法人から仲間と一緒に独立することになりました。その時に彼女も誘って、新しくつくる介護保険事業所では子どもが常にいる事業所を目指したいと提案し、それができたのが『こどもとお年寄りの家 鳩の翼』です」

 

――独立されて、仲間の方たちと2000年につくられわけですね。そこから『また明日』を立ち上げられた経緯は?

 K「保育をやるつもりで『鳩の翼』を立ち上げたのですが、いざふたを開けてみると、借りた家のスペースでは保育施設の基準に満たないことが分かりました。ではどうしようかと頭を悩ませていた時期は、ちょうど母子の無理心中事件が頻発していた時期でもありました。

 

 何とかしたいと考え、お母さんと子どもがデイホームに遊びに来るという形を思いつきました。この形であれば、介護保険の基準にも違反しないし、保育をしているわけでもない。そういう形で子どもを呼び込もうと考えました。それが今の『寄り合い所』の前身です。

 

 しかし、そこから紆余曲折がありました。保育をやるスペースのない、狭い面積でデイサービスを事業としてやっていたのですが、そこにお母さんと子どもが来ると、ちょっと過密になるのです。

 

 子どもは当然、騒いだり、泣いたりしますが、狭いところだとお年寄りにストレスがかかります。特に男性の高齢者が『うるさいぞ。親は何をしているんだ』とご立腹されるようになった。そう言われると、一緒に来ているお母さんも子どものことが気にかかります。

 

 『お母さん、子ども、お年寄りが一堂に会して支えあえる場所』というイメージでやってきたのが、逆にお互いがストレスになってしまった。これではいけない、ということで、『寄り合い所』については私たちが言いだしっぺだったので、この部分は私たちが引き取って別の場所で立ち上げるということで、分離独立したのです。

 

――『また明日』というのは、ユニークな名前ですね。

 K「いろいろな意味合いとか思いが入っていますが、一番直接的なのは『鳩の翼』での経験でした。

 

 認知症の重い方のご利用が多かったのですが、その一人の方がいつも大きな声で『また明日』と言って帰っていました。『ああ、また明日というのは良い言葉だな』とずっと思っていたのです。

 

 『認知症が重く、さっき起きたことを忘れる人でも、明日はある』とか、『いろんな困難、ストレスを抱えた人が、私たちのなかで関わりを持って頂く中で、ふと前を向いて、また明日もがんばろうと思っていただけるようになればいいなあ。その人がご自身で道を切り拓いていけるようになればいいなあ』といった意味を込めています」

 

(「富山型デイサービス」のホームページから)
(「富山型デイサービス」のホームページから)

――こうした、言わば同居型というか共生型の施設というのは全国にどのくらいあるのでしょうか?

 K「有名なのが、富山市のNPO法人『このゆびとーまれ』に代表される富山型福祉ですね。『このゆびとーまれ』は、こういう同居型のパイオニアです。あとは都道府県ごとで力の入れ具合は違っています」

 

《注》「富山型デイサービス」のホームページの説明によれば、「このゆびとーまれ」は1993年に富山赤十字病院で看護師をしていた惣万佳代子氏、西村和美氏、梅原けい子氏の3人が、高齢者、こども、障がい者がひとつ屋根の下で目配りの利いた福祉サービスを行いたいという思いで創業した。

 惣万さんは「子どもといっしょに笑ったり、怒ったり、歌をうたったりすることはどんなリハビリよりもよい。子どもがいればリハビリなんてする必要がない」という。
 ホームページでは、「このゆびとーまれ」のように、「赤ちゃんからお年寄りまで、障害があってもなくても一緒にケアする活動方式と、行政の柔軟な補助金の出し方を併せて「富山型」と呼ぶと説明している。

――こうした同居型の事業をやるうえでの難しさは?

 K「一番難しいのは、縦割り行政のために、介護保険と保育が同居して事業を行うための法律がないのです。

 

  法律の裏付けがなく、やってしまうと本来は介護保険法からも児童福祉法からも違反になるのです。介護保険料と介護報酬のために徴収した税金で賄われている面積の中に、介護度がついてない幼児が占有してしまうことになるので、明確な目的外使用になってしまうというのです」

 

――その問題はどうクリアされているのですか?

 K「実は、これは東京都の解釈です。『鳩の翼』から分離独立をする際、東京都に『こんな形でやりたいが、どうやればいいですか』と聞きました。

 

 返事は『できません。(デイホームに)必要な面積は確保し、そこには対象者以外は使わせない。ただ、子どもが一緒にいると雰囲気が良くなるというのは分かります。だからデイホームの部屋の先に子どもがいてもいい。見えない線を引いて、超えさせなければいいですよ』というものでした。

 

 『食事とかはどうするんですか』と聞くと、『見えない線の真ん中にテーブルを置き、線からこっちはお年寄り、線からそっちは子ども。そうすると一緒にテーブルを囲むことにはなりますよね』と言われました(笑)。

 

 担当者の人としては、それなりに頑張った意見だったとは思いますが、いまだに東京都内でお年寄りと子どもの同居施設がなかなかできないのは、こうした東京都の介護保険事業に関する解釈が影響していると思います」

 

――しかし、『また明日』では実現しました。

 K「私たちがやっている介護保険事業は認知症専門の事業です。その事業の許認可権が市区町村に降りたのです。市区町村のレベルの判断で開業が可能になりました。

 

 小金井市の担当者に相談すると『良いですね。ぜひやってください』と後押しされました。素晴らしい判断だと思います。それで認可され、問題なく、違反なくやっています。

 

 もちろん平面図上では、ここが介護保険事業、ここが保育事業と厳密に分けています。ただし、日中の時間帯は出入り自由で、小金井市も認めるところです。そのことによって介護が必要なお年寄りにとってプラスの部分の方が大きいという認識だと思います」

 

     おばあちゃんと仲良し
     おばあちゃんと仲良し

――お年寄りと乳幼児が同居する形の「効果」はどんなところに現れるのですか?

 K「効果は際立っています。まず認知症の方、介護保険の側からみれば、認知症の方がデイサービスに通われて一番困るのは『不穏(ふおん)』になることです。

 

 穏やかでなくなる、つまりすぐに帰りたがったり、ご立腹されたりというのが問題として大きい。うちではほとんど問題になりません。みんな、子どもの方に気が向いていますから。

 

 ここに見学に来られる人たちは(お年寄りを見て)『症状の軽い方たちですね』と言われるほど、おだやかで落ち着いています。しかし、実際にここに来られる方は他のデイサービスで問題があった方とか、デイサービスの利用をかたくなに拒む方とか、結構重い方が多いのです」

 

――そうした効果を生むのは、子どもの魅力なのでしょうか?

 K「子どもの魅力というよりも、自分に主体性が持てた段階で、認知症という障害をカバーできるだけの精神的な落ち着きを持つことができた、ということです。それが一番、大きいと思います。

 

 一方、子どもの側からすると、自分の親や知っている大人以外の、自分とまったく関わったことのない高齢の人たちから愛情を注がれるという経験は、あとあとで必ずその子の人生でプラスになると思います」

 

M「お年寄りの方は、子どもたちがちょっとしたことをしても、無条件にほめてくれます。そこは良く見ていらっしゃる。

 

 関わり方も、『可愛がる』という言葉よりも『慈しむ』という言葉がふさわしいような接触の仕方をされるのは、子どもにとってはうれしいことだと思います。

 

 『あののおばあちゃんは、こんなことが得意なんだよ。教わったら』と子どもたちに良く言っています。今夏も、小学生の子どもたちは編み物を教わったりしていました。昔の話、戦争のことなども教わっていましたね」

 

  お昼寝タイム
  お昼寝タイム

――オープンから5年を経て課題のようなものは見えてきていますか

 K「うーん。私たちはこれで大満足をしているのですが、こうした事業を『もっと広めなさい』『もう一つ、二つつくりなさい』という期待を最近、特に受けるようになりました。それはありがたいご期待ですが、私たちの力量ではそこまで備わっていません。

 

 また、『寄り合い所』については、若いお母さんが来て子どもが来なかったり、子どもが来て若いお母さんが来なかったり、というサイクルがあります。コンスタントにもっと色んな方が集える場所であれば良いなと考えています。

 

 私たちの法人の理念では『年齢、性別、障害の有無、肌の色』に関係なく、いろんな方が来て、支え合いの場を目指していますので、その実現にはまだまだ足りないところがあると考えています」(終わり)

 

*後編は10月6日号に掲載します。

 

「こがねいコンパス」2012年9月15日号

森田和道(もりた・かずみち)さんのプロフィール

  1968年2月生まれ。大阪府枚方市の出身。クリスチャンとして育ち、様々なボランティアを経験した。小さいころは毎日のように教会に通っていた『教会っ子』だったという。趣味は音楽鑑賞とドライブ。

 好きな言葉は「自分のためでなく人のために」。

 

森田眞希(もりた・まき)さんのプロフィール

  1969年4月生まれ。東京都練馬区の出身。お母さんは近所の子どもの親に代わって授業参観に行くという世話好きで、「その血を受け継いでいるかも」。趣味は「夫と車でドライブ旅行」。

 好きな言葉は「冷えた頭と熱いハート」。

 

「また明日」の連絡先と場所です。

「また明日」のホームページから。クリックすると、HPに移動します。
「また明日」のホームページから。クリックすると、HPに移動します。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

写真をクリックすると大きくなります
写真をクリックすると大きくなります
全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
Adobe Acrobat ドキュメント 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから

小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

こちらから

メルマガ登録をどうぞ!

「こがねいコンパス」からのメルマガをご希望の方は以下にメールアドレスをご入力ください。新しい「市政フラッシュ」の掲載や、次号の主な内容などについてご連絡します。

コンパスは「羅針盤」です!

 

 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

 『コンパス』は、羅針盤を意味します。辞書によれば原義は「ともに歩くこと」です。市民が市政をより深く理解するための一助となり、よりよい小金井市政のあり方を考えるときの羅針盤でありたい。市民のみなさんと一緒に歩んでいきたい。そんな思いを込めています。

 

 

 ご連絡は koganeicompass@gmail.com まで。