変える 試みる 小金井の人たち  file 7 (前編)

「ホームスタート・小金井 発起人会」代表  高橋雅栄さん

 

 「子育て支援」という言葉が社会にまだ定着していなかった時代に、母親たちが集う子育てサロンを小金井市内で発足させてから15年。

 

 若いお母さんたちへの支援を考え続けてきた彼女が、新しい試みとして仲間と一緒に立ちあげたのが、訪問型の子育て支援「ホームスタート」。

 

 孤立感や疎外感を感じながら育児をしている「孤育てママ」を何とか地域で支えられないか――。新しい取り組みにはそんな思いが込められている。

 

 

 (ホームスタートの内容や、高橋さんの15年間にわたる「子育て支援」の歩みを、今号と次号の2回にわたってご紹介します。)

 

――「ホームスタート」とは?

  一言で言うと「訪問型の子育て支援」です。

 

――誰が、どこに訪問するのですか?

  「ビジターさん」と私たちは呼んでいますが、地域の子育て経験者、つまり先輩ママが就学前のお子さんがいて、支援を望んでいる利用者さんのお宅を訪問し、支援します。

 主に支援をする対象は、子どもではなく、お母さんとなります。

 

――どんな支援を?

  まず一つは、お母さんからお話を聴く「傾聴」です。

 とは言っても、ちいさなお子さんがいるお宅を支援するので、ただお話を聴くというわけにはいきません。

 

 自分の思った通りの時間で動くということがまずできませんから、家事をお手伝いしたり、お子さんと遊んであげたりしながら、そのお母さんの一日の流れを止めずに、一緒に何かをしながらお話を伺うというスタイルになります。

 

――「傾聴」とはカウンセリングなどで使われる用語ですね。

  そうです。利用者さんの心に寄り添って、気持ちにフォーカスしてお話を聴くということです。いわゆるアドバイスとか、意見するということはまずしません。指導や指示もありません。

 

――ただ聴いてあげる?

  そう。基本はひたすら聴くということです。

 ただ、子育て経験者ですので、「あなたの場合はどうでしたか?」と質問された場合は、お話できる範囲で自分の経験をお伝えするということはあります。

 

 いわゆる傾聴の専門的な方からみれば、少し違うかもしれませんが、その辺は「フレンドリーシップに則って」というメンタルな部分のルールがありますので、その範囲で対応するわけです。

 

――「傾聴」はどんな効果をもたらすのですか?

  今は核家族が多いわけです。そのなかで、未就学児と一緒にいるお母さんは家の中で、なかなか大人の会話を持つ機会が得られないという状況にあります。ですから、会話に飢えています。

 

 それに一緒に子育てや家事をしながらお話を聴くというところに効果があると思います。

 家事スキル、育児スキルのオンザジョブトレーニング(実地研修)状態になるわけです。指示とか教えるとかは一切しないのですが、先輩ママがやっているのを見ることによって自分で気づくという効果があります。

 

 それをしながら、お話をあくまでも聴くというスタイルでやりますので、お母さんとしては自信を持つようになる、あるいは自尊感情を高められるようになります。

 

――親族の協力がなかなか得られず、近所の付き合いもあまりないという孤立した状態で育児をする「孤育て」という言葉がありますね。

  そうです。そうした「孤育て」に近い状態にあると、間違った方向に行く人もなかにはいるわけです。

 

 周囲に支援を求められず、夫にも言えないという中で、結果として虐待という方向に走っていくことを水際の段階で、良い方向に、しかもお母さん自らの力で良い方向に向かっていける。自分で気づいて、家事や育児のスキルをアップすることで、知らず知らずのうちに良い方向に向かわせることができる、というのが一番の効果のような気がします。

 

―利用者への訪問はどれくらいの頻度で?

  基本は、週に1回のペースで。おおむね1回2時間を4回。つまり1カ月をワンクールにしています。

 

 そのワンクールの前に、ビジターとは別の「オーガナイザー」という専門家がその家庭が何を望み、どんな支援を必要としているかをうかがうことにしています。オーガナイザーとは、「ホームスタート・小金井」を運営しているチームリーダーのようなものです。利用者さんとビジターさんをつなぐ「かけ橋」の役割、調整役を果たしています。

 

 オーガナイザーが利用者のニーズを調査するため、まず1回訪問します。そしてニーズに沿ったビジターさんを選抜します。

 

 その後、マッチングと言いますが、オーガナイザーと選ばれたビジターの2人で利用者のお宅を訪問し、利用者さんに納得して頂いて「ではこの方で」と、ビジターさんが決まるという流れです。常にお母さんの自発的な気持ちを主体に私たちは行動する形をとります。

 

――マッチングが大切そうですね。

  そうです。そこはオーガナイザーの眼力というか、腕の見せ所ですね。効果の良しあしを握っていますので、オーガナイザーの役割は重要です。仮に途中でうまくいかなかった場合も、オーガナイザーが調整役を果たします。小金井ではこうしたケースはこれまでのところありませんが。


――ワンクールを終えると?

  オーガナイザーがもう一度、利用者のお宅を訪問します。モニタリングと呼んでいますが、この4回のビジターさんのあり方を振り返り、あなたにとって効果がありましたか、あなたのニーズに応えることができましたか、ということを一つ一つ項目をあげて聞いていきます。それはニーズ調査の時のシートと比べて、検証していくのです。

 

――効果が確認されれば、そこで終了に?

  そうです。ただ、効果があっても、さらに新たなニーズが出たりとか、利用者さんが8割がた効果があり満足しているが、もう少し頼りたいということで延長をお願いされる人も中にはいらっしゃいます。

 

 

――「ホームスタート・小金井」の発足はいつですか? 

 オーガナイザーの資格を取得したのが2009年。発足は2010年春です。


――これまでの利用者はどれくらいですか?

  16家族ぐらいです。発足してすぐに活動を開始したのではなく、そこから準備が1年かかりました。2011年1月から3月に初めてビジターさんを募集し、養成講座を3カ月。1期生となるビジターさんの活動が始まったのが2011年の4月からですね。

 

――現在、ビジターさんは何人ぐらい?

  今2期生が育っており、1期生とあわせて9人です。

 

――どんな方が多いのですか? 高橋さんと面識のあった方とか?

  中高生以上のお子さんをもつ先輩ママさんが多いですね。私と面識のある人は2人ぐらい。あとは、ホームスタートを紹介する講演会に参加して、確信をもって、ビジターとして参加したいという方ですね。

 

 ホームスタートが素晴らしいのはイギリスで生まれてから40年を経過し、世界各地で広がっていますから、訪問に使うシート類などツールがしっかりしていることです。ものすごくノウハウの蓄積があります。世界中に広がっているホームスタートのスキーム(運営団体)を支援する組織もあります。

 

――利用者のニーズはどんなものが多いのですか?

  大人の会話をしたい。いわゆるおしゃべりをしたい、というものですね。それをすることによって特に女性は癒されたり、リフレッシュできたりするのです。もやもやと自分の中にたまっているものを、口に出すことによって。

 自分自身の気づきもあります。自分では気づいていなかった感情に気づいたりとか。

 

――夫が忙しくて会話の相手になってくれない? 

 お父さんたちも子育てでは初心者マークなわけです。お母さんは毎日家にいるからお父さんよりは子どものことが分かっている。お父さんは仕事で疲れているということもあるでしょうし、子どものことがよく分からないという事情もあります。夫に一番話を聴いてもらいたいが、なかなか難しいと感じているのではないでしょうか。先輩ママだとがっちり受け止めてもらえるという安心感があると思います。

 

 一方、同じような年齢の子どもを抱えている「ママ友」だと、問題の共有はできるけれども、そこから先に進まない。先輩ママだと、「そうそうそういうこともあったけれども、うちの子どもはこうなった」という先が見えます。

 

 実家や夫の実家というのは気を使う関係もあるし、親は先輩ママですが、時代背景が違いすぎる場合もあります。

 利用者からは「「親にもママ友にも言えないような話ができて良かった」という評価がありました。

 

(ホームスタート・ジャパンのHPから)
(ホームスタート・ジャパンのHPから)

――ホームスタートという取り組みを知ったきっかけは? 

 現在、NPO法人「ホームスタート・ジャパン」の代表理事をされている大正大学人間学部教授の西郷泰之さんが、イギリスに視察に行ったときにホームスタートを知って、「日本でも」と考えられた。

 

 そのためのホームスタートを紹介する本を書かれた時、その原稿の段階で、以前から知り合いだった私たちに対して、「みなさんのような子育て支援の団体にやってほしい活動内容ですが、心が動くどうかをリサーチさせてほしい」と原稿を持って来られたのです。

 

 私たちは、子育てサロンのような開催場所を設置し、利用者が来るのを待つスタイルの子育て支援も良いが、そういうところに出て来れない人が虐待などの深刻なケースに陥っていることを心配していました。「家に行ってあげられるのであれば、行ってあげたい」という思いがすごくあったのです。

 

 そこにそういう話がきたので、「これだ!」と私たちは飛びついたわけです。「西郷先生、日本でやられるのですね。私たちもやりますから」と言って手を挙げたわけです。

 

――利用者の金銭的負担は?

  一切ありません。

 

――そうなるとビジターさん、オーガナイザーさんはボランティアですか?

  ビジターさんは交通費は支給されますが、完全にボランティア。オーガナイザーは専門的な仕事であり、長く継続する仕事にしてもらいたいために、有償です。有償とは言ってもボランタリー精神に満ち満ちている感じですが(笑)。

 

――運営の活動費はどのように確保を? 

 企業のファンドからおカネを得たこともありましたが1年限りなので、安定的、継続的にやろうと思えば、団体をNPO法人にして市からの委託事業となるのが一番の正攻法だと思います。今後はそういうことも考えています。今年度のビジター研修は、東京都の「新しい公共」の支援事業、独立行政法人福祉医療機構の「社会福祉振興助成事業」からの助成を得てやる予定です。

 

 ホームスタートの良いところは、全国の様々なスキーム(運営団体)とオーガナイザーの研修などで知り合いになれることです。全国のいろんなスキームがいろんな事情で発足しているわけです。そうしたお話を聞くと、小金井市だけはなぜ?ということが多い。

 

 大体の団体が自治体から子育て支援事業として委託され、財源確保しています。もしくは新宿区のように本当は区が直接やりたいが、ホームスタートは自治体職員がやっていけないという決まりがあるので、やってくれそうな団体にお願いするという自治体主導のところもあります。

 

 なぜかというと、他の自治体では保健師さんとか民生委員とか子育て問題の最前線でがんばっている人たちがホームスタートの取り組みを評価し、「やったらどうか」と自治体側に提起するケースが多い。自治体は直接はできないので、やれそうな団体に白羽の矢を立てるというわけです。小金井のように、やりますやりますと言って始めたといのは、実は全国でも3つぐらいしかありません。

 

(後編は、高橋さんの「子育て支援」の歩みを聞きます。7月21日号に掲載します)

 

■高橋雅栄(たかはし・まさえ)さんのプロフィール

 1961年生まれ。大学生から中学生まで3人の子どもを子育て中。

前原町在住。

「子育てサロン@SACHI」代表。NPO法人「カッセKOGANEI」副代表理事などを務める。

NPO法人日本アドバイザー協会の認定アドバイザー。

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

こちらから

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コンパスは「羅針盤」です!

 

 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

 『コンパス』は、羅針盤を意味します。辞書によれば原義は「ともに歩くこと」です。市民が市政をより深く理解するための一助となり、よりよい小金井市政のあり方を考えるときの羅針盤でありたい。市民のみなさんと一緒に歩んでいきたい。そんな思いを込めています。

 

 

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