変える 試みる 小金井の人たち file4の1

施設を退所した若者たちのアフターケア相談所「ゆずりは」所長


高橋亜美さん             (2回連載の前編です)

 

 

 虐待などによって家庭では暮らせずに施設で育った若者たちのアフターケア相談所「ゆずりは」。

 小金井市内に昨年4月に開設されてから1年、全国でも先駆的な役割を果たしてきた。

 心に深い傷を残した子どもたちを支えてきた所長の高橋亜美さんに、その思いや社会的養護の実態を2回にわたって聞く。

(注)「社会的養護」とは、虐待を受けたり、保護者がいなくなったりした子どもたちを社会が養い、育む制度のこと。

 厚生労働省の2012年2月の資料「社会的養護の現状について」によれば、総数は約4万5000人。そのうち約3万人が児童養護施設で育てられている。児童養護施設に入所している子どもたちの半数以上が虐待を経験しているという。全国の児童相談所での児童虐待に関する相談件数は、児童虐待防止法が施行される前の1999年に比べると、2010年度には約5倍に増え、約5万5000件にも上っている。

 

 ■急増する虐待を受けた子どもたち

――児童養護施設や自立援助ホームを退所した人を対象とした無料の相談所「ゆずりは」(運営主体・社会福祉法人「子供の家」)が小金井市内にオープンして1年になります。相談所を開設した背景や目的を教えてください。
 私は「子供の家」が運営する清瀬市の自立援助ホーム「あすなろ荘」で職員を9年やっていました。まず、社会的養護の実情をお話したいと思います。家庭で生活できない子どもたちは今の日本の社会だとほとんどが養護施設に入所します。1歳未満の乳児は乳児院、1歳から18歳までは児童養護施設。里親や養育家庭(ファミリーホーム)という家庭で育てる制度もありますが、日本ではまだそうしたケースは多くありません。


 児童養護施設は本来18歳までいられますが、現状としては養護施設で中学を卒業したり、高校中退になった子は「学校に行っていない、働ける年齢になった」という理由で社会に出されてしまう。すごくおかしな話ですが、施設にいられないんです。

 

――なぜそうしたことが起きているのですか?

  実は東京都では虐待件数がうなぎのぼりで、社会的養護の施設に入ることができない「待機児童」が増えています。

 虐待があって家にいられず、命からがら保護される施設である「一時保護所」は都内に4か所ありますが、一昨年度は入所率が208%でした。

 

 「一時保護所」に保護され、その後、定員が空いている児童施設へ移るわけですが、現状としては、一時保護所にも入れない不適切な養育環境にある子どもたちがいる。

 そういう中で、「命が危ない小さな子どもたちがいるのだから、とにかく次をあけなきゃいけない」「社会に出て働ける年齢になった」という大義名分によって、自立する力をつけられないまま施設から社会へ出されていくのです。

 

―子どもたちの命に関わる社会的養護の現場でも「待機児童」が生まれているというのはショックです。それほど家庭での虐待は深刻になっているということですね。

  ええ、養護施設の入所理由は「児童虐待が半数以上」というデータが厚生労働省から出ていますが、実情としてはもう10割と言って良いというのが現場での印象です。不適切な家庭環境、外側から見えにくい虐待環境で育った子がほとんど全員という感じです。

 

 あらゆる種類の虐待を受けた子どもたちがすごく多く、精神的にいろん

なトラウマ、問題を抱えてしまうので、施設養護はすごく混乱状態にあります。施設の職員たちは懸命にやっているのですが、そうした子どもたちを集団で育てていく現場は、子どもたち同士の暴力や、子どもから職員への暴力もあり、野戦病院のような状況にある施設も少なくありません。

 

 施設職員による支援がなかなか追い付いていかず、子どもたちが抱えている問題の質にきちんとしたケアが行きとどかない。一方、子どもたちは家庭による後ろ盾がまったくない。虐待のトラウマがある。しかも中卒、高校中退という学歴のままで安定した仕事を見つけるのは難しく、自立した生活を確立させるのは極めて困難なのです。

 

――職員をされていた自立援助ホームというのはどういうところですか?

  児童養護施設などの子どもたちが社会に出た後、犯罪に手を染めたり、自殺してしまったりという悲惨な現状があるので、自立援助ホームは施設を退所した子どもたちの「受け皿」として開所されました。

 自立援助ホームは児童福祉法に基づく児童福祉施設ですが、働いて寮費を払わなければいられない。保険料も自己負担です。入所者は6人ぐらいの規模で、全国で82か所あります。

 

 養護施設を出てきた子どもの「受け皿」として開設されたのですが、東京都でいうと今の入所者は施設を出た子どもは2割から3割で、そのほかは少年院や、児童自立支援施設という更生施設で更生期間を終えた子どもたち、施設経験のない直接家庭から入所するという子どもたちです。非行に走る子は家庭環境が複雑であったり不安定な子が多いので、戻るとまた再犯を犯す可能性があるとか、親が受け入れたくないとかの理由です。施設経験がない子どもも、ひどい家庭環境で育った子たちが多いのです。

 

 自立援助ホームの入所者は、いろいろな施設を経験したり、少年院を出たり、家庭からだったりとか、さまざまな経路で入ってきますが、中卒、高校中退という低学歴(東京都のホーム退所者は約8割)、親や家族を一切頼れない、ホーム退所後は一人で生きていかなければならないといったことが入所者に共通しています。

 

 就労自立を目的とした施設なので「勉強はさておき、とにかく働いて」という支援が中心となります。働いて、お金も50万円とか100万円とか、アパートは借りられるぐらいの額を貯金し、年齢も18歳から20歳ぐらいまでになって退所しますが、ここを出た後、安定した生活が実現できているかというと、そうではありません。中卒・高校中退では職業の選択肢は一向に広がりません。

 

 うちの「あすなろ荘」を退所した後、自殺や服役者、ホームレスのような生活をしていて保護された子・・・。退所者の全員ではありませんが、悲しいケースがいくつもあります。私たちのところにせっかく来て、何年も過ごしたのに。

 自立援助ホームの「とにかく働く」ということに固執する支援も見直されなければならないと思います。

 

 私たちのせめてのもの救いは、退所した子たちが生活が破たんしたときに相談に来てくれることです。仕事をクビになったとか、ホームレスを1週間ぐらいしたところで助けを求めにくる。

 

 その現状を見てきて、一番やらなくてはいけないのは施設を出た子たちの生活が破たんしないための力を付けさせることだと痛感します。しかし、恥ずかしながら今の私たちには、その目標はあまりにも大きすぎるというのが現状です。

 

 そうならば、死のうかと思った時に死ぬ前にここに逃げ込もうだとか、今の精神状態で働けないとなった時に相談してもらうとか、退所後も助けが求められる施設をちゃんとつくろうと考えました。

 

――「あすなろ荘」を退所した子が戻ってきて相談するというケースはあったのですか?

  あるにはありましたが、十分ではありませんでした。3年ぐらい前から職員体制を見直しアフターケアに力を入れるようになりました。支援基盤が整うことで、退所者が「助けてのサイン」を出しやすくなることも「あすなろ荘」の支援で学びました。

――そうした支援機能をもっと拡充しようというのが、アフターケア相談所の「ゆずりは」ですね?

  はい。「あすなろ荘」のアフターケアはそれなりに確立されてきましたが、ほかの施設は必ずしもそうではありません。今施設にいる子たちの養育で目一杯、手一杯なので、アフターケアは職員の手弁当でやる状態になっていると思います。なんとか自分の休みを使ってやっているのです。実態把握もまったくできていません。

 2008年末に「年越し派遣村」ができた時、あそこで若年ホームレスのいろんな調査がされました。その結果、施設の退所者が4割とか7割とか指摘され、「年越し派遣村」の村長だった湯浅誠さんや各ホームレス支援団体からも社会的養護をすごく批判されました。

 子ども時代に施設で養護されたのに、その後ホームレスになっている実態を私たち(施設職員)は知っているのか。そういうところでも、出た後、何をしているかをちゃんと調べなければならない。そう痛感しました。

 

 自立する条件がそろっていないまま退所し、頼る人や親がいないというのは日本社会でひどく厳しい。もちろん、生活困難、就労困難へのいろんな支援網はあります。しかし、それが本当に活用できているかというとそうではありません。見た目は五体満足で若い子が「僕、働けないです」と(生活保護の窓口に)言いに行っても、「何言ってんだ」という話しで終わってしまうこともあります。

 

■支援はどのように

――この「ゆずりは」では、あらゆる施設の退所者を対象としています。この1年での相談に来た人たちはどのくらいでしたか?

  3月末までに72人の退所者が来ました。昨年末の時点で利用者の状況をまとめましたが、来所しての相談件数は366件、電話やメールでの相談は1634件ありました。


 他の施設の職員からの相談もあります。「退所者が借金を抱えているのだがどうしたらよい?」といった内容です。専門家や弁護士の力が必要な場合には、こちらでお世話になっている弁護士の方を紹介しています。

 

――まとめられた資料によれば、昨年末までの時点で就労支援の相談が116件あったそうですが、どのような内容が多いのでしょう?

  ここにくる子は働けないケースが多い。そうした場合には、ハローワークの職業訓練校とか、お金が給付されるプログラムを受けるようにさせます。働くのは難しいが給付を受けながら学校に行くのです。とりあえず生活につなげる就労支援ですね。

 

――「働けない」というのはどういう理由からですか?

  精神的なトラウマによって、コミュニケーションの面で破たんする子がすごく多い。ちょっと強い口調で注意されると、それでもう萎縮してしまう。逆に注意されたことによって、お父さんやお母さんに殴られた経験がよみがえり、店長に暴力をふるったりとか、まだまだ精神的なケアが必要な子たちが「働け」と言われてもなかなかできないのです。

 

――精神科での治療はしているのでしょうか?

  生活保護などによって医療費が自己負担でない子の多くは、精神科に通院しています。ただ、それですごく良くなった、あるいは完全に回復したというケースを私は見たことがありません。「死にたい」という自殺企図が薄くなり、リストカットを頻繁にしていたのが、たまに落ち込んだ時にするぐらいに減るとか。

 

――それだけ子どもの時に受けた心の傷は深く、治癒しにくいのですね。

  2、3歳で保護された子はその後、ずっと施設で育ったわけですから、虐待を受けたのは本当に小さい時だけなのですが、その体験をずっと抱えて生きています。

 施設の職員でも「虐待されてから5年たったよ、10年経ったよ」「それを理由にするのは社会に出てからは通用しないよ」という人もいます。一人で生きていかなければいけないので、いつまでも虐待虐待と言ってはいられない。その思いは分かるのですが、それでもやっぱりこれだけしんどい思いをしている子どもたちを見ると・・・。支援のなかで「児童虐待のトラウマ」がその後の子どもたちの人生にどれほどの傷や痛み負担を残すかを日々感じています。

 

――昨年の実績では「生活支援」のうち、「生活保護申請」や「生保受給費の同行」のほか、「生保受給者の家庭訪問」という事例もありますね。

  実際には彼らの家の近くであうケースや「ゆずりは」で面談するケースがほとんどです。女の子の場合には、家に行かなくてはいけないケースもあります。子育て中の子で、子どもに暴力をふるう寸前の状態であったりもします。私たちが行って代わりに子どもの面倒をみたり、お母さんをねぎらったりといったファミリーサポート的なこともしています。

 退所者がお母さんになった場合、モデルとなる家庭を経験していないので、子育てに悩むケースは少なくありません。ファミリーサポートなどいろいろ若い母親を支える枠組みはあるのですが、それを利用するところまでいけない子たちなので、かなり孤独な状態に置かれています。

 

――「DV家庭からの保護」はどのような支援ですか?

  DVのケースもすごく多いです。そんなに相手が好きではなくても生きる場所を確保するために、とりあえず付き合ったり、結婚したりしてしまう。どんどん暴力が顕著になったときに、一回は婦人相談とかに行っているのだけど、そこでの相談がうまくいかない。「嫌なことを言われた」とか、「もう少し頑張ってみろ」と言われたなどと、自分がどんなに大変かが伝わらないと感じている。私たちの助言は「そこからまず逃げる」ということです。最終的には私たちも市区町村の婦人相談につなぎ、そこから保護施設の入所の申請をします。今あるセイフティネットの制度がうまく使えるように仲介役を果たすのです。

 

――生活支援でのケースでは「中絶手術後の精神的ケア」というのもあります。女性の相談を多いのでしょうか?

  女性が7割です。私たちスタッフがみな女性で相談しやすいということもあるかもしれませんが。

 

――「宗教団体への警告」というのは?

  宗教にのめりこむ子も多いですね。もう脱退したいと本人が思っているが、なかなか脱退させてくれなかったり、お金がたくさんとられたりしたという場合には私たちが支援したり、弁護士等の専門家の力を借りたりします。

 

――「服役中の施設出身者への面会、手紙」という支援事例もありますね。

  地方の施設退所者で、その知人にあたる方が、「ゆずりは」を紹介している新聞を見て「入所していた施設の職員に面会や手紙を頼んだが、『施設を出たからうちではできない。ましてや服役中だと関われない』と言われた。そちらではやってくれますか」と相談をくれました。

 

――それぞれがどれも重い案件ですね。

  そうです。基本的に退所者が一人では処理できないことに対応するのが目的ですから。「ゆずりは」は、退所者が集まる「たまり場」というイメージを良く持たれていて、もちろんそういう機能も果たしたいとは思うのですが、それよりは一刻を争い、一緒にやらなければいけない問題の解決のために動くことを優先しています。スタッフは私ともう一人の二人。二人が一人のケースを扱うというのでは時間がもったいないので、別々に動いています。


――ここで座って待っていて、相談を受けて、「はい、さようなら」じゃないんですね。

  それはほとんどないです。それに、ここに来るまでの交通費もないという切羽詰まった子が多いので、私たちのほうから彼らが住んでいる近くまで行きます。

 以前、「横浜から自転車で来た」という子がいました。それからは「交通費は大丈夫ですか? こちらから行きますよ」と言っています。毎週木曜日にはここで高卒認定を取得するための学習会をやっていますが、そうした学習会やサロンをやる時以外は、支援のために動き回っています。学習会とサロンは東京都の「新しい公共事業」の助成を受けてやっています。

 


(次号5月5日号にインタビューの後半を掲載します) 

◇高橋亜美(たかはし・あみ)さんのプロフィール◇

 *1973年5月生まれ

*子どもが生まれたのをきっかけに小金井市へ。本町在住。

*趣味はお菓子作り、映画鑑賞、読書。

*家族は夫と小学生の娘1人。

 

◎「ゆずりは」の連絡先◎

住所:東京都小金井市中町3-10-10

電話・ファックス:042-315-6738

(日曜と祝日が定休日です)

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

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