変える 試みる 小金井の人たち file31-1
「はけのおいしい朝市」組合長 池田功さん(前編)
時間をかけて丹念につくられた雑貨や食べ物。見ているだけで心に温もりを感じるモノや、コトを通じ、《はけという自然豊かな場所でつながる》―-。それが「はけのおいしい朝市」。
小金井で始まった小さな試みは5年の時を経て、始めた人たちの予想を超えて大きく広がっている。
――まずは「はけのおいしい朝市」のご説明をお願いします。
毎月1回、第1日曜日を中心に開催している朝市です。「はけ」(注)というのはご承知の通り、国分寺崖線のことですが、「はけ」の周辺にいる小金井と近隣の、気のあう仲間たちで始めました。
《「はけ」とは:「武蔵野の面影を残す小金井市は、東京都内でも有数の緑と水に恵まれた街です。市内の南部を東西にのびる崖は、武蔵野台地を古多摩川が削ったなごりで、「はけ」と呼ばれています。崖のところどころから湧き水が流れ、散策に訪れる人の目を楽しませています。」(小金井市立「はけの森美術館」ホームページの説明から)》
主に食べ物であったり、暮らしの商品であったり――私たちはペットグッズを販売していますが――それぞれ個性をもった様々な商店が集まり、「はけ」界隈にお越しいただくためのきっかけになるように、朝市を開催しています。
――ブログを見ますと、朝市の開催はレギュラー店舗にゲスト店舗が加わるという形ですね。
そうです。11組のメンバーで朝市を運営しています。ゲストさんは、まったく(自分たちが)知らない方ではなく、それぞれにつながりのある方たちをお招きしています。
――朝市とは何時から何時までですか?
現在は午前9時から午後1時までです。
――「組合長」というのは、朝市の組合があるということですか?
任意の団体を「組合」と名乗っているわけです。対外的に説明しやすいのと、みんなで一つの固まりとなって運営しているという意識があるので「組合」というネーミングが気分的にぴったりくるのです。
――第62回となる10月12日の小金井神社での朝市は、手づくりのモノ、おいしい食べモノ、ワークショップなど、境内に多くの店が並び、大変な賑わいでした。どのような基準でゲスト店舗を招かれるのですか?
組合員の誰かがつながりをもっているというのが前提条件ですね。あとは、本業としてその商売をされている方・・・月1回の運営ミーティングで、(ゲスト店舗について)組合員がプレゼンテーションをし、相談しながら決めています。全員一致で納得すればお誘いするというスタイルです。
小金井という土地柄で評価をされるかどうか、一定の基準で世間的にも認知されていらっしゃるかどうか、など独自の基準みたいなところで探しています。
――時間をかけた手仕事の作品や、温もりのある天然素材の商品、アンティークなど見ているだけで、ほっこりするような品物が多く、それも朝市の人気の理由の一つだと思います。そうした商品への志向というのを組合員のみなさんがお持ちなのでしょうか?
ええ、私たちは基準を「ひと」に置いています。駅前の大型商業施設で、多くのモノが乱立しているようなスタイルではなく、昔ながらの商店街のように、その店をだれがやっているのかとか、その人がやっていることに意味を感じるお店や作り手が組合員となっています。
組合員たちはそれぞれのジャンルに精通しています。例えばYUZURIHAさん(組合員)は民藝に精通されているので、手仕事関係の情報に詳しいのです。アンティーク品ですと、(組合員の)中村文具店さんとかantiques-educo(アンティークス・エデュコ)さんが詳しいですね。そのジャンルに得意なメンバーがゲストや商品を選んでいくというのが特徴だと思います。
はけのおいしい朝市in小金井神社の光景です。おや、右に見えるのはこがねいコンパス編集長(佐藤和雄)の近著『まちの力 ひとの力』ではありませんか! ということは・・・そうここはブックデザインとイラストを手掛けていただいた、やまさき薫さんのお店でした。
へえ、これがLPレコードっていうのか。と少年は興味津々です。LPレコードもいっぱい置いてありました。
《き・まま》のお店です。最新の第4号がこの日に発刊されました。巻頭大特集は「アートが街を刺激する!!」。さらには「国分寺崖線を極める!!」。読みどころ満載。写真もすごく魅力的ですね。さすが《き・まま》のみなさんたちです。
「これ、ほしい!」。そんな声が聞こえてきました。天然素材をつかった雑貨は、見ているだけで心が和みます。新しい懐かしさに出会う気がします。
おお、結構な行列ですね。たぶん美味しいものなんでしょうね。(時間がないので並びませんでした。次回はぜひ!)
――小金井神社での朝市は昨年、第50回記念として初めて開催し、今回が2度目ですね。カフェのような空間があったり、神楽殿での音楽があったり、さらに最後には手をつないでのフォークダンスもありました。
50回記念の時には「お祝い」やこれまでの「お礼」という感じで開催しました。音楽も、終始途切れないように、色んなジャンルの方に出て頂き、盛り上げてもらおうというスタンスだったのですね。今回は、ボランティアさんも含めて「みんなでつくりあげていこう」という感覚が強くて、そういう意味でフォークダンスで、組合員、ゲスト店舗さん、ボランティアさん、お客さんが一つの輪になって楽しもうということになったのです。とりわけボランティアさんは一緒になって運営しようという気持ちが強く、(朝市の)浸透がわかるようで、とてもうれしかったですね。
――自転車置き場での案内や整理などで、ボランティアの人たちが懸命に仕事をされていたのが印象的でした。
20人ぐらいの方にお手伝いを頂きました。ブログで告知をしただけですが、とても多くの方に参加してもらいました。役割こそ決めてはいましたが、そこから先はボランティアさんでああしよう!こうしよう!と考えていただき、素晴らしい働きをしていただきました。それはうれしい驚きでした。
――2回目の小金井神社での朝市を開催してみて、感想や手応えは?
(はけのおいしい朝市に)期待していただいているということを改めて強く感じました。近隣の地域からお越しいただいた方からは「楽しみにしていた」という気分が伝わりました。お越しいただいた方と運営側の意識は必ずしも同じではないかもしれませんが、2度同じスタイルでやったので、次はどうしよう、どう発展させようというのが課題ではないかと考えています。
――冒頭で朝市の目的を「はけ界隈に来て頂くきっかけに」と言われました。朝市で儲けようという意識はあんまりないといことですか?
そうですね。将来的には近隣の商業発展につなげていきたいと思っていますが、現段階ではあまり「儲ける」という感覚はありません。月1回、1日だけはその時間に充てようというニュアンスでやっています。「はけ」という、私たちが自信を持っておすすめできる自然を見ていただきつつ、自分たちのお店も知っていただくという、広告・宣伝的な活動になっているのではないかと思います。
――次回、第63回目の朝市は11月1日から3日までの3日間、東小金井駅での高架下で開催されるそうですね。
もともとは(中央線の高架下でnonowaを運営している株式会社)JR中央ラインモールさんからお声をかけていただきました。「はけのおいしい朝市」の活動を踏まえ、高架下で「地域の交流の場になるような店舗開発」というお話があり、それは私たちとしても少し望んでいるところがあったのですね。
やはりローカルでのビジネスというのは・・・「個」で闘っていくのは結構厳しいところがあります。その中で、得意ジャンルで商売する仲間が集まることによって、相乗効果を得ることができるのではないか。「はけのおいしい朝市」がひとつの答えのように思えてきたわけです。(高架下という)便利な空間で、そういうお店があったらどうなんだろうと考えて、こういう展開になったわけです。
――場所は具体的には?
東小金井駅の東側。(生鮮食料品を売る)「ヒガコマルシェ」の東隣になります。そこに「コミュニティステーション東小金井」という名前のエリアが生まれ、私たちが入る区画は「atelier tempo(アトリエテンポ)」と名付けていますが、約50坪ほどの広さのお店になります。
――「atelier tempo(アトリエテンポ)」?
ええ、5組の作り手――食堂、革靴作家、革小物作家、グラフィックデザイナー、私――が同じ場所を共有し、主に自分たちが提案するモノをつくり、販売していこうというアトリエを併設したストアです。
11月の朝市は、このアトリエテンポを含めたエリア全体の開業イベントとして、開催する予定です。
――新しい展開ですね。
JR中央ラインモールさんは、(貸し自転車の)「スイクル」を運営していますから、スイクルではけ界隈に遊びにきてもらうとか、点と点をつなぐようなこともこれから提案していきたいと思っています。
(続く)*次回は「はけのおいしい朝市」誕生のお話しなどをうかがいます。
こがねいコンパス第60号(2014年10月18日更新)
◆池田功(いけだ・いさお)さんのプロフィール
1970年兵庫県川西市生まれ。 宝塚造形芸術大学産業デザイン学科を卒業し、1992年から8年間、化粧品メーカーのデザイン、広告を担当。結婚を機に大型犬のラブラドル・リトリーバーを飼う。2000年に有限会社「ドッグ・デコ」を設立。東京で大型犬と一緒に暮らせる家を探して2001年9月に東小金井へ。2009年に「dogdeco HOME 犬と暮らす家」を小金井市中町4丁目にオープン。同所に在住。趣味はアウトドア全般。高校時代はラグビー、大学時代はアメフトで汗を流す。