変える 試みる 小金井の人たち  file27-2

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「新しい日中関係を考える研究者の会」代表幹事  

                                              毛里和子・早稲田大名誉教授(第2回) 

 

   1970年代は日中友好ムードに包まれ、「一衣帯水」と呼ばれた二つの国の関係は、なぜこうも無残に変わったのか。中国研究の泰斗は、こう説明する。

 

 《1972年は和解の「第一歩」、入口だったのです。ですからその後どうするか、という大きな課題が私たちにはあったのです。しかし、それが十分にはできなかった。これが一つの大きな問題です。》 

 

 《もう一つの大きな問題は、今どのような構造的な変化が起きているかです。最大の問題はパワーのバランスが変わったことだと思います。》

 

――1990年代半ばから日中関係が悪くなり始め、2010年を機にさらに悪化した、というお話しがありました。そこで日中関係をざっと振り返ると、1972年の国交正常化をした当時、中国の指導者である毛沢東と周恩来は、「二分論」、つまり「ごく少数の軍国主義者と被害者である日本国民の二つに分けて対応する」という立場を取ってきました。その後、1990年代の江沢民時代に、愛国教育を強めるなかで反日意識が高まってきたという実感を持つのですが、国交正常化から中国の「普通の人たち」の意識はどう変わってきたのでしょうか。

 

毛沢東、周恩来がやってきたことに対しては、今までも批判はありました。1982年に私は上海にいましたが、あの時に第一次教科書問題が起きます。そこで初めて「日中関係にはまだ処理しきれていない問題がいっぱいあるんだ」ということを痛感しました。

 

あの時、中国人の友人が「毛里先生に意見があります。我々は良い友人となったわけだが、もしこの問題(教科書問題)で日本側がきちんと処理しなければ、我々は友だちとしてつき合ってはいられなくなる。我々としても賠償請求を放棄した。周恩来と毛沢東の(二分論という)意見に対しては言いたいことはいっぱいある。だけど言えない。これまでも言えなかったし、これからも多分言えないだろう」と話してくれました。

 

それだけ「普通の人々」には不満がたまっているのです。中国はああいう体制です。例えば1985年に当時の中曽根康弘首相が靖国参拝をした時に、最初の派手なデモがありました。あの時に中国のシンクタンクで日中関係の担当者が全国に飛んだのです。学生たちに「お前たち、デモをするな。日中関係を今悪くすると、経済関係が悪化し、中国の近代化がうまくいかない。今は大事な時だからがまんしろ」と説得をして回ったのです。

 

中国の学生、特にエリート学生は言うことをききます。1985年のデモは、上からのコントロールで収まったのです。そういうことはあれ以来何回もありました。

 

――日本が中国への円借款を通じて、近代化を財政面で支えていた時代ですよね。

 

そうです。経済分野では日本の資本、技術、市場がないと中国は大変なことになりますから、1990年代半ばまでの15年間は日中の経済関係があったから中国の近代化が成功したと言えるでしょう。これは中国自身よく分かっていたと思います。

 

1990年代半ばに国民からぼんぼんと意見や異論がでるようになります。それは一つには、国内の風通しが良くなってきたということです。

 

ただ、一定の自由化のなかで、やってはいけないことが二つあります。一つは反体制的な組織をつくること。例えば民主党とか「××を考える党」とか。5人でもそういうものは作ってはいけない。これは、(やれば)あっという間に捕まりますね。

 

もう一つは、指導者を批判すること。生きている指導者を、特に鄧小平以降の指導者です。毛沢東・周恩来については、彼らがすごい間違いを犯したということは分かっています。特に毛沢東が「文革」の時に、あるいは「大躍進」の時に3000万人も飢饉の犠牲にあったということは、もう分かっているのです。周恩来に対しても「文革の時に毛沢東を抑えられなかったという意味では同罪だ」という意見がいっぱい出ています。

 

それはそれで良いのですが、要するに「鄧小平以後のリーダーに対して公式に批判するようなことは絶対にダメだ」ということです。

 

一方、1990年代半ばからインターネットが出現しました。そこでいろんな意見がどんどん出てくるようになります。これは抑えるのがとても難しいのです。

 

――日中関係には構造的な変化が生じていると思います。どのように分析していますか?

 

一つの問題は、1972年にどのような関係が出来たかです。この関係については、先日(2014年3月8日)の国際シンポジウムでも「現代日中関係の源流を探る」というテーマで取り上げました。

 

国交回復後の課題がいくつもありました。戦争終結の処理については、やはり不十分だった。謝罪の仕方なども不十分だった。それから中国の国民が(正常化をめぐる交渉で)置き去りにされました。もっと大事なのは、「これから日中は和解していくのだ」という和解への見取り図をこの段階でつくることに成功していないということです。

 

ただ、仕方のない事情もあります。5日間しか交渉する時間がありませんでしたしね。いきなりゼロからつくったわけですからね。だから、72年交渉それ自体を責めてもしょうがないんですが、問題は、リーダーたちや関係者が72年の欠落を認識しているかどうか、なのです。

 

日本のリーダーや関係者が思っていたのは、「日中正常化はうまくいった。大成功」ということです。サクセスストーリーを描いたのです。反省がないのです。

――日本側からみれば田中角栄首相の最大の功績という位置づけだろうと思います。

 

確かに田中政権の最大の成果かもしれません。田中政権でなければ、こんな具合に一気呵成には(日中国交正常化は)できなかったでしょう。しかし、一気呵成にやったことに伴ういろんな問題があるのです。

 

つまり、私が言いたいのは、一つは「制度化した日中関係」、逆に言えば人に依存しない関係が必要ということです。例えば田中角栄や周恩来はやがて失脚したり、亡くなるわけです。リーダー個人に依存した国家関係というのは良くない、ということです。

 

それと、和解をするためにはどうしたら良いかを考えなくてはなりません。和解の第一歩、第二歩、第三歩というものが必要だと思うのです。一度には絶対にいきません。和解の作業は最低限で3世代~5世代かかると考えるべきかも知れません。

 

1972年は和解の「第一歩」、入口だったのです。ですからその後どうするか、という大きな課題が私たちにはあったのです。しかし、それが十分にはできなかった。これが一つの大きな問題です。

 

もう一つの大きな問題は、今どのような構造的な変化が起きているかです。最大の問題はパワーのバランスが変わったことだと思います。中国の力が大きくなりました。日本が「世界第二の経済大国」という地位からすべりおちました。この状況はこれから10年、20年、30年とどんどん進むでしょう。

 

私は、日本がこういう状態でいることは、必ずしも悪いことだと思いません。ナンバー2でいられたのが不思議だったというところもあるので、「中流国家」として、暮らしやすい国として生きていければ日本人としてはハッピーだと思います。

――ただ、そういう自己認識が日本人のなかにはまだ定着しておらず、1980年代の「ジャパンアズナンバーワン」のような気分をしっぽのように引きずっているのではないでしょうか。だから中国の台頭を見せつけられて、心理的なストレスを感じてしまう。

 

特に軍事力でしょうね。ある意味では安倍政権はそうした意識を利用し、「中国が軍事的に強大になればなるほど、日本の『脱・戦後レジーム』はうまくいく」と思っていると思います。

 

私は「中国が日本批判をすればするほど、日本が保守化し、反動化する。中国にとって好ましくない日本になる」ということを中国側に何度も言っているのですが、中国には通じません。

 

構造変化の第一は、パワーのバランスが変わった。これは今後も進むでしょう。

 

パワーの問題は、軍事力でもみられます。中国の軍事力が増強され、日本が脅威を感じています。それで日本も負けずにやろうとする。軍事力の強化、「普通の軍隊」化、そして日米同盟の強化です。

 

第二の変化は、世代交代が深刻で、歴史の記憶が薄れて、風化して行っている点です。日本でも中国でも進んでいます。世論全般もそうですが、特に政治家レベルで進んでいると思います。

 

――中国には「水を飲むときには井戸を掘った人を忘れない」という言葉があり、日中国交正常化の際にはそれに至るまでに地道に努力をしてきた日本人を称えて、そう呼ばれました。一方、現在の中国の第5世代の指導者たち、習近平総書記の世代では、「井戸を掘った」日本人を記憶している人は少ないのではないでしょうか。

 

しょうがないですよね。その時代にいないのですから。いくら本で読んでいても、それはあとからくっつけた知識ですから。私自身も「井戸を掘った人々」というのは通じないのです。70年代までの日中関係にほとんど関わっていませんしね。

 

もちろん中国研究者ですから、教養としては知っていますし、それを大事にしなければならないということは理性としては知っています。しかし、日常的な知識としてあるのか、血肉化しているかと問われれば、イエスとは言えません。

 

三番目の変化は、日中ともに外交に関わるアクターが非常に増えているということです。一つはネット右翼、ネトウヨです。在来型のメディアが役割を果さないようになっている一方、ネット世論が特殊な役割を果すようになっています。それがセットになっています。とてもむずかしい変化が日本でも中国でも生じています。

 

普通のメディアは、世論を好ましい方向へと一定の啓蒙的役割を果すべきです。しかし、それがもうできなくなっている。一方、ネット世論が外交にものすごく影響を与えている。外務省が一番気にしているのがネット世論ですよね。

 

日本はもともと外交に関わるアクターは経済界など多様です。中国では、今なぜあれだけ海洋権益に熱心かというと、石油資本と海洋にかかわる軍事産業が密接な関係にあり、それとトップリーダーのある集団がくっついているからです。中国でも、普通の国と同じように、外交政策に影響を与える利益集団が協力になりつつあります。

 

中国が海洋権益をこれだけ強く主張するのは2006年以降です。いわゆる「核心的国家利益」として海洋権益をとらえはじめました。今、尖閣諸島と南シナ海(での権益確保)をやっているのは、アメリカ型の軍産複合体が中国にも生まれ、それが大きな発言力を行使しているのではないか、と見ています。これは仮説です。

 

不思議なことに、アメリカでは軍産複合体は一種の聖域になっています。中国でもそのような傾向が見られます。そしてこのままにしておけば、日本でも軍事産業と政治権力の結びつきが強まっていくでしょう。

 

 

 

(続く)

 

こがねいコンパス第50号(2014年4月19日更新)

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

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イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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