変える 試みる 小金井の人たち file22-2

file22-2 「狭山事件」から50年

ドキュメンタリー映画「SAYAMA  みえない手錠をはずすまで」を制作したプロデューサー・陣内直行さん (その2)

 

目を少し細め、遠くを、全景をみようとする。

取材対象に肉薄しようとするカメラと、取材対象を知らない観客との間に立って、心を震わせる表現と何を伝えるべきかを模索する――。

 

「現場に行くことはない」。そう断言する映画プロデューサーはどのような方法論と世界観を持っているのか。

(ロングインタビューの2回目です。)

 

 

――ドキュメンタリー制作で「取材や撮影の現場にいかない」というポリシーをお持ちだということですが、これはなぜ?

 

大げさに言えば、僕のプロデューサー論です。「監督とプロデューサーの性格や役割の違いがないと映画はできない」と考えています。

 

映画づくりは集団作業です。監督がいて、カメラマンがいて、音声がいて、ある時にはレポーターとか役者がいて、そしてプロデューサーもいる。プロデューサーが現場に行って監督と同じになってもしょうがないし、「撮ってきたものを、見る側の一番最初の人」という視点がないといけないのかな、と思っています。

 

だから撮ってきたものは見ます。昔であれば、映画だとフィルムを現像所に入れてラッシュというのが出てくるのですが、それをスタッフとプロデューサーが一緒に見るわけです。その当時は全カット、プロデューサーが見ました。

 

今は全カットは見ていませんが、撮ってきたものを最初に見て、どう自分が感じるかを率直に監督に言う。それが次の現場で撮るときに、こっちがぶつけた問題意識が――(監督に)受け入れられるのか拒否されるのか、いろいろとあると思いますが――ある作用を及ぼすことが必要なのかなと思います。

 

その行ったり、来たりの関係がないと、「独りよがりになる」というのは言葉が適切かどうかはわかりませんが、監督の世界だけで自己完結するというのは、ドキュメンタリーの場合は危ないかな(笑い)、いや「危ないかな」というのは言い過ぎか(笑い)。

 

ちょうど、「外」と「内」の接点にいるような人間が必要なんです。最終的には観客という形で「外」の人たちに作品は届けられるわけですから、やはりそっちの空気、あるいはどう観られるのかという視点が、映画づくりには必要だと思います。

 

――この作品の取材と撮影は3年越しの長期にわたっているわけですが、撮った素材はすべて見ているわけですか?

 

基本的にはそうですが、今回の場合、全部で130時間ぐらい撮っています。そして多分、見させるようにするのも監督との駆け引きのようなところがありましてね。撮ってきたものを素直に見せたりもしないんですよね(笑い)。時間の無駄だ、というのもあるかもしれません。ある程度しぼって、手を入れた形のものを見させて頂きました。

 

だから、まだひょっとして見ていなくて、もっと素晴らしいシーンがあるのかもしれない(笑い)。現場ではそんなに大した映像とは思わないけども、僕というか、僕みたいな立場の人間が見ると、「いやいや、こういうのが良いんじゃない」というのがあったりもするんですよね。

 

だから、映画って・・・。これも誰かが言っていたと思うのですが、「いかに省略していくかという芸術」と思っているものだから、何を残すかよりも、何を切って、そこで構成されたもので、何かをつみあげていくものだと思います。

 

本当は全部見てみたいという気持ちはあります。ただ、昔、フィルムの時にはそうしていたんですが、今はデジタルビデオカメラになってからは、経費的に(*)、がらがらがらがら(カメラを)回せるようになったんですね。監督、カメラマンが現場で意識、意図をもって撮るというのが少し希薄になっているような気がします。「とりあえず撮っておこうか」というような感じで撮られている。その良い面と悪い面があるなと感じています。

 

*フィルムは1分で1万円ぐらいかかるが、デジタルビデオは40分で3000円ぐらいだそうです。

 

金監督(右)と意見を交わす
金監督(右)と意見を交わす

――アニメとか商業映画とかだと、脚本があって、絵コンテをしっかり作って、というやり方が多いんじゃないかと思うんですが、ドキュメンタリーの場合はおおまかなストーリーの流れのようなものはスタート段階で監督の頭の中にあるのでしょうか?

 

具体的に何を撮りたいのかについては、例えば今回の石川さんについて言えば、「ご夫婦の関係をきちんと撮りたい」とか「再審への動きはきちんと伝えなければならない」とか「狭山事件とはそもそもどういう事件なのか」、そして「部落差別の問題が、石川さんの側にとって、裁判のありようにとってもどう出ているのか」といったことは話しました。


スタート段階では何を撮るよりか、一雄さん、早智子さんとの関係をいかにつくるか、そして、ふたりの日常に寄り添いながら、カメラを回せるかが大事だったのではないかと思います。

 

シーン的なイメージというのは、一雄さんと早智子さんのご夫婦の日常の中から彼らの悩み、思いや淡々とした日々の生活を映像化する――。そういうラフなくくりの中で、撮影を重ねていったということでしょうかね。

 

――2010年から取材を始めて、いつ発表するかは考えたと思うのですが。

 

事件発生から50年というのは計算すればすぐに分かりますが、一つには僕らがちょうど動き始めたころに、(再審請求に関する裁判所、弁護団、検察による)三者協議というのが動き始めて、再審への扉が開かれる可能性が高まりつつありました。

 

狭山事件は今あまり人々に知られていないが、50年目、あるいは再審への動きの中で、もう一度――あるいは若い人にとっては初めてでしょうが――狭山事件に関心をもってもらう、一つのきっかけになってもらえればいいな、というのを率直に思っていましたね。

 

今まで、全国で声援を送り、コツコツと支援をしていた人たちの思いは、再審が実現して、石川さんが無実になるということだろうと思ったので、僕らスタッフもそう思っているわけですから、再審に向けてうまく作用してくれれば――そのための映画ではありませんが――そういう状況のなかで完成して、上映されていくというのが一番いいかなと思っていました。それに、カンパをいただいた以上、完成のめどは必要と思い、50年目にあたる2013年の秋と考えていました。

 

石川一雄さん(映画の予告編から)
石川一雄さん(映画の予告編から)

――「最初に見る人」として最も印象的だったシーンは?

 

撮影に入って1年ぐらいのころでした。石川さん夫婦、とくに石川さんとの関係が――おそらく石川さんのご性格もあると思いますが――まだ「打ち解けた」という感じでカメラが動いていないと感じていました。撮ってきたものをみて、あるいは現場での話を聞くと、そういう風に思ったのです。映像的にも、ちょっと距離感を感じていたんですよね。

 

ところが、(取材が)半分を超えたぐらいで、ある程度おおざっぱに編集したのを見て、「でも俺たちの日常というのはそんなもんだよな」と思うようになったのです。

 

やたら二人の食事風景みたいなものが多いわけです。監督しては、話を聞く場面としては茶の間で聞いたら、次は外で聞きたいし、動きのあるなかでインタビューを撮り、そのなかで石川さんの姿、像を重ねていくということを考えるのですが、なかなかそれが実現しなくて、いつも茶の間のシーンを撮らざるをえない。

 

でも、茶の間って二人が一番リラックスできる空間なのですよね。そう思うと、決してマイナスではない、そして、それを重ねていくと同じ茶の間のシーンなのだけど、ちゃぶ台が大きかったり小さかったり、冬だと炬燵になっていたり。でも食べているものはそんなに変わらなかったりと、そういうなかでご夫婦の距離感や性格が見えてきたりするというのが、何回か同じ茶の間のシーンを見て「あっ、これ結構面白いじゃないか」と思ったというのが少し象徴的で、先ほどの質問に対する答えになるでしょうか。

 

――2011年5月、水戸地裁土浦支部で布川事件の無罪判決が下されます。その場面で、石川さんは自分のことのようにとても喜んでいるのだが、一方で自分が取り残されるのではないかというさびしい表情も浮かべていて、非常に印象的でした。通常のニュースメディアによる報道では切り取られることのないシーンであり、ドキュメンタリーならでは、と感じました。

 

そうですね。実はカメラで顔のアップを撮るというのは、すごくカメラが顔に近づいているんですね。素人の方がカメラを意識しないで、率直に自分の表情を表すというのは簡単なことではありません。

 

ドキュメンタリーの場合、(撮る側と撮られる側が)そういう関係になるということが必要だと思います。3年あまりでじわじわと、そうなったのでしょう。石川さんご自身は特に能弁な方ではありませんが、表情についてはシーンごとに様々な表情がこの作品で撮られているなと思います。

 

――監督の金聖雄(キム・ソンウン)さんとの出会いは?

 

戦後50年に及ぶ在日の戦後史を描く『在日』という記録映画がつくられ、1997年に公開されました。呉徳洙監督の作品で、僕がプロデューサーの一人でした。金聖雄さんは助監督で、企画段階だった1991年か1992年ごろに初めて会いました。その後も、人権シリーズのビデオなど一緒に仕事をしてきました。

 

――金さんの石川さんへのインタビューを聞くと、穏やかで、温かな方だなと感じるのですが、どんな人ですか?

 

やはり魅力的な・・・(笑い)。ドキュメンタリーの監督の場合、「人」としての部分が大切な要素だと思っています。人間的な感性というか、人との向き合い方、接し方というか、そういうどこかベーシックな部分での資質が金監督は非常に高いと僕は思っています。

 

それは取材対象との関係でもそうだと思います。それがないとインタビューとかは撮れないですよね。「本当のことをを語ろう」と相手の人が思うようになる・・・。つまり、僕らの場合、撮影する対象となるのは、何らかのものを背負っていたり、社会的な弱者であったり、つらい部分をもっている方が多い。その人たちが自分の気持ちをカメラの前で語り始めるには、インタビューする側とされる側の信頼感が醸成されていないとできません。

 

それは単に時間をかければ関係ができるというわけではないので、やはり監督の資質というのが大きいと思います。彼はそうした高い資質を持っています。本人は自覚していないでしょうけど(笑い)

 

 *第39号に「その3 最終回」を掲載します。

こがねいコンパス第38号(2013年10月19日更新)

陣内直行(じんのうち・なおゆき)さんのプロフィール
1949年生まれ。大学卒業後、岩波映画製作所へ。1989年、番組制作会社のアズマックスを設立。会社代表などを経て、現在は監査役。制作した主な映画作品に『ヒロシマナガサキ 核戦争のもたらすもの』『あぶあぶの奇跡』など。テレビ番組では『野生の王国』(TBS系列)、『週刊ブックレビュー』(NHK-BS)。
小金井市中町に在住。小金井市では「市民自治こがねい」を発足させ、運営委員などを務めた。

完成上映会は下記の日程で。このほか全国各地で自主上映会が開催される予定です。詳しくは『SAYAMA 見えない手錠をはずすまで』のホームページをご覧ください。こちら から

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

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イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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コンパスは「羅針盤」です!

 

 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

 『コンパス』は、羅針盤を意味します。辞書によれば原義は「ともに歩くこと」です。市民が市政をより深く理解するための一助となり、よりよい小金井市政のあり方を考えるときの羅針盤でありたい。市民のみなさんと一緒に歩んでいきたい。そんな思いを込めています。

 

 

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