ザ・コラム

市内在住の論客たちによる論考やエッセイです。

ジャーナリスト山本俊明の「眼」      第3回

動き出した議会基本条例

停滞は許されない

 

 待望の春が到来した。待ちに待った桜のシーズンである。小金井市民にとってもうひとつ明るいニュースがある。議会基本条例制定の動きが表面化したことだ。市政改革を求める政治的市民にとって「憲法」に相当するルール作りという民主主義の根幹に関わる重要問題だ。「遅れた小金井市政」の汚名を返上するために、これ以上改革の停滞は許されない。

 

 

市議会の意気込み

 3月25日に市議会で議会基本条例に向けた議員研修会があり、市民も傍聴可能というのでのぞいて見た。市議と多数の一般市民が参加した。

 

 森戸洋子議会運営委員長は冒頭あいさつで、「5、6年前から市民の請願などで条例化を話し合ってきた。昨年は大震災やごみ問題のごたごたもありなかなか進まなかった。ようやくスタートラインに漕ぎつけた」と経緯を説明した。過去に議運では条例化に賛否両論があったが、先行している会津若松市などへの視察を経て、ようやく前進に向け意見が一致したという。

 

 森戸委員長は「自分たち議会で議会基本条例を制定しようとしている。議会事務局に任せられないので市民向けアンケートも自分たちで封入します」と改革への意気込みを語った。その意気込みやよしである。

 

研修会では議会基本条例のモデルとされる北海道栗山町の事務局長経験者である中尾修氏(東京財団研究員)から大変有益な講演があった(注1)。

 

 同氏は、議会改革の必要性について「議員は選挙で4年に一度町内すみずみ回るが、それっきり。どこかで議会の(2元代表制の)正統性を見せないといけない。(市民に)仕事をしていることを説明しなければ」と指摘。市民向けの議会報告会も、議員だけでは気付かないことが、市民との対話で市民の発想が出てきて「(理解が)飛躍的に進む」と効能を解説してくれた。

 

 また同氏は、偽物の議会基本条例と、本物を見分ける基準として、市民への報告会・意見交換会請願・陳情者の意見陳述議員間での討議-の3つが盛り込まれているかどうか(東京財団3基準)が判断材料になるとの考えを示した(注2)。

 

 いずれも長年の事務方の経験に基づく優れた見識と思う。確かに栗山町モデルは先駆例として優れた内容を持っていると思うが、もてはやされるだけの正統性があるのかという、批判がなくはない(注3)。それは同町の基本条例は、議会が議員提出議案として議会が議決しているにすぎないという点にある。

 

 中尾氏の講演も、議員と首長・事務方の関係、議会の立場からの市民との関係という発想からしか民主主義を観てないきらいが感ぜられた。栗山町モデルは大いなる前進ではあるのだろうが、中尾氏が提示した3基準ではまだ足りないと感じる。

 

 

メイフラワー号を再現したメイフラワー二世号=米プリマスで山本写す
メイフラワー号を再現したメイフラワー二世号=米プリマスで山本写す

メイフラワー号の誓約

 体験からお話ししたい。四半世紀以上前、高名な政治学者だったU教授の教養ゼミ生だった小生は、ゼミ論文として出身県の「政治文化」の変化を、1960年代前半と工業化で産業構造が変化した70年代後半で比較する試みを行った。論文の出来栄えはお恥ずかしいものだったと思うが、表題をどうするか相談した時、U教授は「脱工業社会の地方自治体にあたえるインパクト」とし、加えて「The Impact of  Postindustrial Society on Local Government」という英文名を付けて下さった。冴えない論文が、突如カッコいいものに見えたのだからげんきんなものである。

 

 この時おやと思ったのは、U教授が「自治体」を「地方政府」と英訳したことだった。当時の日本人には、地方自治体とは国の上意下達の末端機関に過ぎないくらいの感覚しかなかったのではないだろうか。筆者には「Local Government」という言葉がなぜか新鮮だった。

 

 その不思議な感覚は、米国・豪州に特派員として赴任し初めて肌で分かった。特に米国の連邦主義(Federalismの政治風土では、中央政府への警戒感から、州や市・郡などの独立性が非常に高い。ニューヨークで友人(弁護士)と酒を飲みながら会話していた時、中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)議長が「権限を持ち過ぎている」と突然批判し始めたのには驚かされた。自分たちと距離感のあるワシントンの中央政府・機関への米市民の警戒心は相当なものだと思い知らされた。地方自治も同様で、むしろ州の連合体が合州国(合衆国ではない)を構成するという、日本からみると「逆さま」の政治体制なのだ。

 

 その米国政治の源流をたどるには、清教徒のピルグリム・ファーザーズ(巡礼者)が大きな手がかりになると思う。読者も一度は耳にしたことがあるのではないか。ピルグリム・ファーザーズ達は英国での宗教的迫害を逃れ、1620年にメイフラワー号に乗って、現在マサチューセッツ州にあるプリマスに到着。その際、船内で「誓約(Mayflower Compact」を制定した。 

 

 プリマスを訪問すると、粗末な小屋でできた住居群と、大砲を備えた集会所からなる再現された入植地が公開されている。ピルグリム・ファーザーズ達は寒さと飢えで多くの犠牲者をだし、分裂の危機を抱えながらも、自らの力で相互の契約を結び、政治共同体を形成した(むろん入植は先住民には迷惑千万だったのだが)。

 

 誓約は、「本証書により、厳粛かつ相互に契約し神と各自相互の前で、契約により結合して政治団体を作り、以て我等の共同の秩序と安全を保ち進め、且つ上掲の目的の遂行を図ろうとする。そして今後之に基き、植民地一般の幸福のため最も適当と認められる所により、随時、正義公平な、法律、命令等を発し、憲法を制定し、又公職を組織すべく、我等はすべてに之等に対し、当然服従をすべきことを誓約する」という内容だ(高木八尺訳、下線筆者)。

 

 この誓約が「新しい権力の正統性が、人民相互の合意におかれた」(斉藤眞・東大名誉教授)という米国初の「憲法」である(注4)。

「Government」と「最高規範」の核心がここにあると思う。

 

 我が国でも、2000年に「新地方自治法」が誕生すると、市民は在住する市町村で自らの「憲法基本条例」を制定することが可能となった。オカミの下請け機関だった地方自治体から、中央政府から独立した「地方政府」になる法的な条件が整ったという点が肝要だ。

 

 いやしくも「地方政府」の法的条件が出来た以上、日本国憲法や地方自治法の枠内という制約付きではあるが、ピルグリム・ファーザーズ達と同様に、各地の実情に合わせ住民が自分たちの「地方政府」のルール(自治基本条例、議会基本条例、行政基本条例など)を作ることが可能となった。基本条例には、「最高規範」という性格がある。

 

 市民が主体となり、下から政治体制を組み換える「自治体再構築」(松下圭一法政大名誉教授)の一環でもある。現在はまだその過程にあり、革命的な意義を正しく捉えていない議員・関係者もいるようだ。

 

 先駆的な事例では北海道のニセコ町まちづくり基本条例などがある。同条例はその後の改正で、議会基本条例に相当する部分も取り入れている。議会基本条例といえども単に議会の手続き上の規則というだけではなく、「最高規範」作りという文脈で理解する必要性がある。

 

「全国最高レベル」を

 今回の小金井市議会の動きは、市政改革に向けた重要な自発的な一歩だと評価したい。ただ市民サイドからすると、三鷹市など近隣自治体でも既に動きがあったのに、どうして小金井市では5~6年も時間が掛ったのか不思議でならない。

 

 関係者に聞いて見ると、市議会の議運で「全会一致」という民主的な手続きがあったためだという。もし一部の議員に「小金井市議会は他市よりも進んでおり、開かれているのだから必要ない」という考えがあったのなら理解に苦しむ。

 時代の流れに立ち遅れた議員の消極姿勢で「他市に比べて遅れてしまった」(森戸委員長)のが原因なら市民感情とは完全にずれていると言いたい。昨年秋のごみ問題を巡るタウンミーティングで、執行部だけでなく、議会批判が市民から噴出したことを市議さんたちはよもや忘れてはいまい。議会批判はもちろん全国的な潮流だが、小金井市議会についてはごみ問題処理の立ち遅れ、市庁舎リース問題、職員の高い給与・手当て・退職金など問題山積で、議会・行政への批判・風当たりは特に強いというのが常識的な感覚だろう。改革をこれ以上遅らせてはならない。

 

 もちろん不安材料もある。遅れてしまったがために、スケジュールが4月からスタートして来年1~2月までわずか8~9カ月で条例を成立させようというスピードぶりという点だ。ただ、既にかなりの先行事例が存在するので、スピーディーな条例案作りは法技術的には可能だろう。

 

 ひとつ提言させてもらえば、夏秋の土、日に合計10回程度は市民とマラソン討論をしてでも、「熟議の民主主義」に恥じない丁寧な議論を尽くして欲しい。タウンミーティングでも出た意見だが、平日の夜、主婦層は家事・子育てで忙しい。また土日にも仕事に追われる民間サラリーマンは多い。出来るだけ多くの市民が一度は議論に参加するチャンスを保証して欲しい。そうでなければ、せっかくの基本条例作りが、市民からは市議会選挙対策の一環と見られてしまう恐れがある。

 

 市議らが視察したという会津若松市の議会基本条例には「議決責任」条項(第5条)があり、議案の議決について市民に説明責任を負うことが定められている(注5)。時代の流れを反映した先端的な取り組みといえよう。基本条例の中身についても「後発のメリット」を活かし、「小金井モデル」と言われるような全国でも最高レベルの条例作りを目指して欲しいものだ。

 

 また「作ってしまえば終わり」ではなく、「最高規範」であることを意識し、市民の要求に応じて改正できる柔軟な仕組みを確実に盛り込むことはできないだろうか。会津若松市議会は今後の改革の方針も打ち出している。

 

 いずれにせよ「基本条例憲法」制定の最終決定権はあくまでも有権者=市民にあることを忘れず、その意向を十分大切にすることが議論の「導きの星」と思われる。

 

(注1)

栗山町議会HPで、条例や制定過程を観ることができる。

http://www.town.kuriyama.hokkaido.jp/gikai/index.html

ニセコ町自治基本条例も以下のHPで閲覧できる。

http://www.town.niseko.lg.jp/machitsukuri/jyourei/kihon.html

特に基本条例の手引きが有益だと思われる。

 

(注2)市民参加と情報公開の仕組みをつくれ 地方議会改革のための 議会基本条例「東京財団モデル」

http://www.tkfd.or.jp/admin/file/pdf/lib/26.pdf

 

(注3)

議会基本条例の流行現象を危惧する=森啓・北海学園大学講師

http://jichitaigaku.blog75.fc2.com/

批判のひとつは、「(栗山町議会条例は)代表権限を託された議会が定めた『自己規律の定』であって『最高規範条例』ではない。代表権限を信託した有権者町民が合意決裁したものではないからである」

(注4)メイフラワー号の誓約にも一筋縄ではいかない事情があった。斉藤眞・東大名誉教授「アメリカとは何か」(平凡社ライブラリー)の「多元的社会アメリカの原点-メイフラワー誓約とその統合機能」から非常に多くのことを教えられた。

 

(注5)

会津若松市の議会基本条例

http://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/ja/gikai/gikaikihonnjyourei

今後の改革についても方向性が示されている

http://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/ja/gikai/gikaikaikaku_23.12.pdf

 

 

◇著者プロフィール
山本俊明(やまもと・としあき) 小金井市在住のジャーナリスト。記者歴30年、ニューヨーク特派員などを歴任、国際問題から地方自治まで幅広い分野を扱う。「一市民」として本コラム陣に参加。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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イラクから問い続けてきたもの

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