ジャーナリスト 山本俊明の「眼」 第17回

中道左派再編は可能か

新「三位一体」の価値を練り直せ

自民党のホームページから
自民党のホームページから

 参院議員選挙は、事前の予想通り自民党の一人勝ちだった。民主党の惨敗も意外性はなかった。

 

 最近のフジテレビ系のFNN世論調査結果では、自民大勝の理由として、「自民党が評価されているから」とした人は2割にも満たず(19.4%)、8割近い人が、「野党に魅力がないから」と答えた(76.7%)。野党第一党だった民主党が政権政党に復活することを望む人は、わずか2割台で(24.6%)。7割近い人が、民主党の復活を「望まない」と答えている(67.3%)。

 

 他の世論調査でもほぼ同様の内容だ。「民主党は歴史的役割を終えた」という見方も浮上している。筆者も同感だ。民主党の看板ではもう選挙戦は戦えないだろう。

 

 民主党支持者でなくとも、自民党がガリバー型の「完全復活」を遂げたことに茫然自失している市民は多いのではないだろうか。日本には「中道左派」の本格的野党が存在していないため、多くの有権者はこう感じている。「選択肢がない」。


 ◇民主主義は岐路に
 
 「ねじれを解消した」という自民・公明党が大勝の意味を勘違いし始めているフシもある。
 
 麻生副総理・財務相は最近の講演で、日本国憲法の改定問題について、ナチス台頭を引き合いに出し、ワイマール憲法を「安楽死」させた手口を学ぶべきだと皮肉なユーモアで笑いを誘った。だが、本人の表の意図とは違い、自民党(中道右派)が望んでいる最高の改憲形式を口にしてしまったという真夏の「ブラックジョーク」となってしまった。
 
 自民党右派が、現代史の教訓に学ばない極端な「右傾化」へ舵を切るなら、「日本丸」は欧米諸国からも冷遇され、国際社会の中で座礁する恐れすらあるだろう。
 
 歴史的には、大正デモクラシーの挫折、日英同盟の解消(1923年)の後には軍閥政治(天皇制ファシズム)が来た。現時点で、日本の代議制民主主義は重大な岐路に立たされていると思う。

江田三郎氏(ご子息の江田五月氏のホームページから)
江田三郎氏(ご子息の江田五月氏のホームページから)

◇デジャブー(既視感)
 
 中道左派をめぐって、40年ほど前の出来事を思い出した。
 
 当時は「55年体制」と呼ばれたが、欧米的な「2大政党制」ではなく、自民党がガリバー型の「1プラス1/2政党制」(1と2分の1の意味)(政治学者の升味準之輔氏)とされた。
 
 1980年ごろまでは、最大野党は日本社会党だった。他には公明党、日本共産党など次第に多党化、テレビで政治が「劇場化」し始めたころだった記憶がある。
 
 それでも改憲が自民党の思い通りにならなかったのは、戦前の軍事警察国家時代の暗い記憶が残っており、マスコミが表面上は「反体制(左翼)モード=民主主義擁護」で野党を陰ながら支援し、全体としては左右の勢力が均衡していたからだと思う。
 
 当時、日本社会党は、党員が約5万人しかいないのに1000万票も集票できたのも、そうした社会的ムードを反映してのことだった。
 
 日本社会党の組織の実態はというと、総評(日本労働組合総評議会)という日本最大の官公労中心(約7割)の組合がスポンサーだった。いわゆる「総評=社会党ブロック」であり、本格的な意味で「国民政党」になっていなかった。
 
 日本社会党の「プリンス」だった江田三郎氏は1962年に「江田ビジョン」を発表した。その内容の概略は(1)米国の高い生活水準(2)ソ連の徹底した社会保障(3)英国の議会制民主主義(4)日本の平和憲法-という4つの価値を根底にした構造改革を積み重ねるという「新しい社会主義像」を提示するものだった。

 

 しかし、60年代は、大都市でこそ高度成長の恩恵で労働者も豊かさを実感し出していたが、まだ地方の炭鉱や町工場には貧困が残っていた。党内左派の反発で、欧州の社会民主党・イタリア共産党に近い「構造改革路線」は全党的な支持が得られなかった。

 

 70年代前後は反公害闘争・開発反対・ベトナム反戦で世情は騒然とし、市民運動が活発化していた。そうした社会の変化をかぎ取った江田氏は、社会党が「社会党・総評ブロック」から国民政党へと脱皮できないことに絶望し、1977年3月離党。菅直人氏らと「社会市民連合」を結成した。

 

(注:筆者は、同郷の岡山出身である江田氏のかっこ良さに、高校生ながらなんとなく憧れたものだが、社会党に身を置いたことはなく、日本社会党内部のドロドロした党派争いとは全く無縁である。この論考もいかなる党派・主義主張とも無縁であることをお断りしておく)
 
 江田氏は、離党に際しての理由を「いま革新の側にとって最大の課題は、ふえつづけている支持政党なし層を、いかにしてこっちに引きつけるかであります」「社会党改革に取り組む同志の行動に共感しつつも、支持政党なし層の結集のため裸でとびだし、社会党の外から、党改革を迫っていく決意なのです」としたのだった。(「離党に当たって」1977年3月26日)
 
 ざっくり言えば、社会党右派(日本的な意味での「リベラル勢力」)と60年の安保闘争後に拡大していた政治的市民層と組んで新たな国民政党を結成したいと言うことだったのではないか。大企業の企業内組合におんぶされていた民社党とも違う、どちらかというと当時の西ドイツの社会民主党がモデルだった気がする。しかし、江田氏は急逝し、彼が求めたロマンは消えてしまった。
 
 タレントの綾小路きみまろではないが、「あれから40年」。90年代からの政界再編で集合離散を繰り返した後、最終的に「2大政党制」の一翼を担うと期待された民主党は、政権を握ったものの、3代続けての党首の力量不足、東日本大震災・福島原発事故に見舞われたこと、80年ぶりの世界大景気後退(Great recession)の対応に追われたことなど、不幸も重なり、人心をほぼ完全に失ってしまった。
 
 民主党は、労働と資本の融和を説く「友愛主義」(鳩山)、護憲勢力の市民主義(菅)、政治主導のプロ集団(小沢)という「トロイカ体制」で構成されていたのだが、根底の価値観が違い過ぎた、ツギハギだらけの政党でしかなかった。
 

 ◇市民中心の価値根底に
 
 今求められているのは、中道左派勢力の再編ではないだろうか。国民が望んでいるのは、単なる数合わせではない。いや数も全く足りない。野党で政党組織としての体をなしているのは日本共産党だけだろう。

 

  中道左派の新たな勢力の結集の根底には、「市民=労働者=消費者」という「新三位一体」の政治主体の価値の練り直しが求められていると思う。


 (注:キリスト教でいう「三位一体」は、「父(神)と子(イエス)と精霊(風のようなもの)」で、場面によって霊性の現れ方が違うことを意味する。よくいわれる例えは水だ。水は通常、流体だが、ある時は蒸気・空気に溶け込む、またある時は氷となり、姿形は変わるが同じもの=H2O=だ)
 
 近代政治革命で生まれた政治的市民は、実態は大半が資産を持たない労働者(おカネをいかに稼ぐか)であり、そこで得たお金でモノを買うしかない消費者(おカネをいかに使うか)であり、3者は一体だ。だが日本では、3者はばらばらで、時には対立するかのごとくとらえられた。
 
 40年の歳月を経て、今、3者が一体であるという認識が日本の広範な市民層に共有されていると感じるのは筆者だけだろうか。
 
 サービス・知的分野労働が圧倒的な比重を占める21世紀の成熟経済にあって、19世紀・20世紀前半の製造業優位の時代の「労働者階級」だけですべて分析出来ると言うのは無理がある。練り直された価値に基礎を置く中道左派の再編成こそ、喫緊の政治課題であると思う。
 
 新しい価値が出来たとして、どう実現するか。
 
 ヒントは、「社会党=総評ブロック」だ。なぜ西ドイツのように国民政党に発展できなかったのか。社会党という政党に問題があったというのがこれまでの大半の識者の診断だろう。
 
 発想を逆転させよう。これまでの「問題の立て方」にこそ問題があったのではないか。総評と言う官公労働運動と、民間大企業の企業別組合(社員にとってはキギョウとは、産業社会のムラであり、運命共同体だった)が分裂していたからこそ、政治でも勢力を結集できなかったのではないか。
 
 ニューヨーク駐在時代に町中をJウォークしていた時、経済誌「フォーブス」の宣伝看板に出遭った。何と書いてあるか。「万国の資本家よ 団結せよ」(Kマルクス「共産党宣言」のパロディーか)と。
 
 これは米国で取材すると「真理」だと思う。資本家(所有と経営の分離により、エリート経営者階級が大半)は実によく情報を交換し合い、資本を増やすための価値を共有している。最近では「国家資本主義」の中国までもが、海南島ボアオで国際経済会議(スイスの「ダボス会議」=世界経済会議=に匹敵するものに育てる意向という)を開催する時代だ。
 
 日本では、労働者が、官公労と民間組合に分断され対立しあい、正社員と非正規に分断され、今度は安倍政権の構造改革で限定正社員が創設されれば3層に分断される運命にある。(アルバイトなども考慮すればさらに細分化される)
 
 過去の反省(パート労働の取り込みに失敗、小泉政権で非正規労働の拡大を許し、結局、下方圧力を高め、正社員の雇用や労働条件の悪化を招いた。膨大な社会失業労働者を抱える現状に至った)に立つなら、連合の責任は重大である。
 
 識者によると、連合が、膨大な内部留保の「1~2%」を非正規労働者の組織化・支援、消費者団体などの支援に回すなら、劇的な反応が起きる可能性がある。また1%を政党支援に充てるなら新たな組織化は不可能だろうか。
 
 労働・企業別組合と言う狭い分野での連合ではなく、社会的な文脈の中まで踏み込んだ「連帯」がなければ、日本では2度と中道左派が政権を取ることはできないだろう。昨年、フランスでは社会党が17年ぶりに政権を奪還した。ここでは「左派連合」勢力が結集したからこそ勝てたといわれている。
 
 「労働者天国」オーストラリアでは、新自由主義的な考えに基づき、集団的労働契約から、個々の労働者が企業と契約を結ぶ個別労働契約制度に移行する際に、労組が労働者個人を支援する役割を得た。最終的に労働組合が、労働条件の悪化を阻止することで新たな存在意義を勝ち得たのだ。もちろん労働党政権(キーティング首相、英国労働党のブレア氏が教えを請うた人物)だったからこそできたのだが、保守政権の1歩も2歩も先を行く先手の改革を断行したのだった。
 
 世界に学ぶべき先例は多いが、「政治的市民・労働者・消費者」が三位一体であるという自覚的な「連帯」を行わないかぎり、日本で中道左派が政権を取ることはもはや幻想だと感じている。

(もうひとつ考えるべき条件として、日米安全保障条約、平和主義があるが、それは別の機会で述べたい。要点は、大半の国民は本音としては、日米安保体制・自衛隊と「平和主義=理想としての9条」の併存を望んでいることだ。この「矛盾」に矛盾する防衛政策は現実的ではない。また「アベノミクス」の限界や、国際的な労働問題についても、別の機会に見解を述べたい)

 

こがねいコンパス第34号(2013年8月10日更新)

山本俊明(やまもと・としあき)

 小金井市在住のジャーナリスト。記者歴30年、シドニー特派員、ニューヨーク特派員などを歴任、国際問題から地方自治まで幅広い分野を扱う。「一市民」として本コラム陣に参加。 岩波書店の『世界』9月号にルポ「福島の子どもたち」を発表。

岩波書店の『世界』9月号のホームページから
岩波書店の『世界』9月号のホームページから

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

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イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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