ジャーナリスト 山本俊明の「眼」  第16回

小金井市の市民参加とは?

給食調理の委託問題で考えたこと

給食調理の民間委託で保護者に渡された資料
給食調理の民間委託で保護者に渡された資料

 

 小金井市は、公立小学校の給食調理民間委託を今年9月から始めようとしている。市側の急ピッチな進め方に、市民や保護者からは「余りに拙速ではないか」という怒りの声が上がっている。この問題、小金井市の行政体質を考えるケーススタディーとなりそうだ。(注1)

 

◇「オカミ」意識は今も健在


  まず体験談から。大学時代に地方行政を学んだ。その中で戦前の行政官を「勅任官」と呼ぶことを習った。勅任官とは、ずばり天皇から任命された官のことだ。(注2)

 

 学生時代、民主主義理論で有名な某東京大学教授を訪ねたところ、驚いたのは東大法学部教授棟には赤絨毯が敷かれていたことだった。

 

 赤絨毯は天皇の官吏に授けられるものだ。大先生は、予算で買ったと言う数十万円の革製のいすを自慢し、得々と最新の民主主義理論を講じてくれた。

 

 小生はあまりの意識の官民格差に唖然とさせられた。旧制の東京帝国大学時代からの「権威主義」=天皇の学者意識=は脈々と受け継がれていると感じた。

 

 記者として最初の赴任地である大阪で、府庁の記者クラブ詰めとなった時のことだ。当時の岸昌知事に着任あいさつに行ったところ、知事室には赤い絨毯が敷き詰められていた。戦前、大都道府県知事は天皇の勅任官だったなごりである。

 

 現在、日本国憲法の改正(改悪)が問題となっているが、実はこの民主主義的な憲法にも「勅任官」に準じる条文がある。

 

 第7条の国事行為だ。

 

 《天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。》

 

 国事行為の5番目に「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること」がある。

 

 この官吏としては、具体的には高等裁判所長官らが当てはまる。検事総長経験者らと話すと、「高裁長官、高検検事長ともなると、天皇から任命されるのだから、格が違う」という冗談が飛び出す。

 

 また海外に居ると、外交官からは「われわれは天皇から任命(全権委任状)されているので、一国を代表している」という言葉が自然にでる。 

 

 つまり役人は、「天皇=オカミの官吏」であって、国民の官吏ではないということだ。地位が上がれば上がるほど、天皇(制)の有り難さが身にしみる仕組みが温存されてきたのだ。

 

  戦後、首長などは公選となり、この伝統はかなり薄れている。しかしたとえ地方の基礎自治体の役人であっても「自分たちは天皇の官吏の末端機関」という意識がまだ若干は残っていると思われる。叙勲などを見ると、民間人よりも、役人、警察官、学校関係者の優遇ぶりは連綿と続いているではないか。

 

  戦後のGHQによる公職追放も、大蔵省など巨大な官僚組織には及ばなかった。ここに日本の戦後民主主義の困難さの一因があるというのは定説だ。

 

◇抜けないオカミ意識

 

 話を小金井市に戻す。小金井市当局は、小学校給食調理の民間委託について4月12日に職員団体(自治労小金井市職員組合)と合意した。そこで6月には市議会でそのための補正予算を議決してもらい、ただちに民間給食業者の選定(プロポーザル方式という)、そして8月の夏休み中に引き継ぎを済ませ、2学期が始まる9月には調理の民間委託をスタートさせるという運びを描いている。

 

 つまり5月13日から20日まで各小学校で行われている保護者への説明会とは、「市当局=小さなオカミ」が決めたことを下々に伝達し、声は聞いた格好にするだけの「儀式の場」なのではないだろうか。

 

 これに対し、お隣の武蔵野市では全く違うことが起きていた。同市は革新市長、後藤喜八郎元市長時代の1960年代から市民参加を取り入れており、日本のいわば民主主義の「聖地」だ。

 

 同市はもともと中学校では給食がなかったが、住民の要望で検討した。(注3)

 

 同市教育委員会によると、

(1) 庁内での検討

(2) 並行して中学校での詳細な予備調査(公開)

(3) 校長や副校長、調理士、栄養士、保護者、市民を入れての検討委員会(公表)

(4) 計画実施に向けての委員会(保護者も入っている。市民は入らず、公表)

 このような4段階に2年を費やして行った。

 

 特に(3)(4)では、保護者、市民が入り、その都度結果を公表しながら、市民感覚に根差した意見を取り込み、内容を深め、豊かにしていったようだ。(注2)

 

  両市の取り組みの質の差が歴然としていると感じるのは筆者だけだろうか。

 

 こうした現実をみると、小金井市では、「市民協働」という言葉はお飾りに過ぎないと思えてしまう。あくまで「小さなオカミ」が決めたことに従えというのが本質だろう。

 

 5月16日の説明会で、市教委学校教育部の天野建司部長は「現場で進めてきた話と聞いている。労使で合意した」と述べ、「現場主義」を強調した。これは奇妙な論理だ。

 

 労使交渉は確かに公務員の身分待遇にかかわることで重要だが、あくまで行政内部の「内輪」の話だ。

 

 本来の主役(行政のお客様)であるはずの子どもたち、そして心配する保護者はこの決定プロセスから「蚊帳の外」に置かれているではないか。

 

 保護者や市民が「拙速だ」と怒っている最大の理由はここにある。

 

 役人が馬鹿にする「市民は素人」は本当なのか。最近の参加理論では、専門家がその都度、選ばれた市民に情報を与え、助言することで、最初は何の知識も持たなかった普通の市民が二~三回の参加でほぼ的確な判断が出来るようになることが知られている。

 

 ごみ問題もそうだ。武蔵野市は三鷹市とのゴミ共同処理で「けんか別れ」した後、苦労しながらも、市民参加手法を全面的に取り入れクリーンセンター建設にこぎ着けた。(注4)

 

 小金井市では、不首尾に終わり、近隣自治体・住民に迷惑を掛け放しである。「北多摩の嫌われ者、コガネイ」とさえさげすまれている。今回の給食調理民間委託問題で、小金井市の市民参加は「30年遅れているな」と実感させられた。労使合意から半年もたたない9月に実施を強行するのは控えた方が良いのではないか。

 

 今からでも遅くない、民間委託するならするで、この問題を市民参加で話し合うためのプロセスに戻し、子どもや保護者が納得できる結論を市民協働で考え、アイデアを出し合うべきだ。

 

 また、稲葉市長は保護者の前に一度は出て、行政改革でなぜ子どもの給食調理を民間委託せねばならないのか、きちんと説明するべきだ。

 

 それが不必要な「対立・摩擦・紛争」による社会的コストを低くする近道なのだと思う。

(了)

 

(注1) 給食問題は本コラムで昨年取り上げています。行政改革や、民間委託の問題点などについて関心のある方はご覧下さい。

 第5回「給食調理の委託問題を考える」はこちらから

 第6回「今、給食調理の現場では」はこちらから

 

(注2) 大辞泉によると、勅任官とは「明治憲法では高等官2等以上」の役人を指す

(注3)武蔵野市の給食調理の検討過程を示すホームページは、こちらから

 

(注4)寄本勝美早稲田大学教授(故人)による武蔵野市クリーンセンター建設の詳細な市民参加報告が参考になる。特に、手続きの進め方から市民の意見が取り入れられているなど、本物の参加のプロセスを記述している。その論文である、1985年日本政治学会年報「市民参加による用地選定手続きの改革」はこちらから

 

山本俊明(やまもと・としあき)氏のプロフィール

  小金井市在住のジャーナリスト。記者歴30年、シドニー特派員、ニューヨーク特派員などを歴任。 国際問題から地方自治まで幅広い分野を扱う。月刊誌「世界」2012年12月号にルポ「福島畜産 復活への苦悩と闘い」など。 「一市民」として本コラム陣に参加。 

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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イラクから問い続けてきたもの

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