加藤春恵子(はるえこ)の

もう一つの日本 Alternative Japan   第8回

市民エネルギー創りを目指す人々

 

 今回は、これまでに取材した太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)と多摩市循環型エネルギー協議会の、秋になってからのイベントを取り上げたい。それに先だって、再生エネルギーをめぐる状況の変化のなかで、市民によるエネルギー創りがおかれた状況や課題をめぐる、私の問題意識を述べておくことにする。

 

《ポスト7.1》状況の中の市民たち

 ようやく明文化されるかに見えた脱原発という方向性自体が、政権交代によって大きく揺らぐかもしれないいま、再生エネルギーを創ることに向けて行動を始めた市民たちは、不安と疲れを抱えながら、励まし合いつつ、それぞれの道を歩んでいるように思われる。


 7月1日の再生可能エネルギー特別措置法の施行によって、固定価格買い取りがスタートし、本年度内に買い取り契約を結ぶことができれば、太陽光発電の場合1kw時42円が、10kw以上なら20年間、10kw未満なら10年間保証されることになった。このことは市民団体にとっても励みになるが、太陽光設置のための屋根や土地をめぐる企業との競争が激しくなったことはストレスを増している。


 来年度以降、年度ごとに調達価格と調達期間とが改めて決定されることが明らかになったため、今年度中にスタートしたいという思いと、設置場所の獲得や設置方法、資金調達のシステムづくり等をめぐる困難の狭間で、焦りを感じて悩む人々もある。

 有利な事業になった分だけ、メガソーラーなどによる再生エネルギー発電事業は進む。脱原発という目的からすれば、そのこと自体は決して否定的にとらえられるべきことではない。しかし、再生エネルギーをめぐる事業が資本の論理に組み込まれた分だけ、屋根や土地を持つオーナーは引く手あまたの状況にさらされ、NPOの善意や熱意が人々の心を動かして、協力を得ることが困難になったともいえる。

 

 資本の論理からする「オトク感」が崩れ去った時に、脱原発を推進する力がこの国にどれだけ残るかということを考える時、明確な意思を持って脱原発のために再生エネルギー創りに取り組もうとする市民の存在は極めて重要だ。

 

 もちろん、市民団体だからといって、税金による補助を当てにして「よいこと」のために赤字覚悟で、といったことは、今の経済状況では許されない。自立の構えを創りながら、たとえ一時の有利さが取り去られることがあっても、懸命の努力で再生エネルギーの発電を続け、原発不要の社会に向かって力を注ぎ続ける市民たちの営みが、省エネルギーを追求する努力と相まって、バックボーンになっていかなければ、脱原発は実現しない。

 

 買取価格が下がっていった末に、累々と廃棄された太陽光パネルの残骸が山野をおおい、傍らに新しい原発がそそり立つといった状況を、未来を生きる人々に残したくはない。

 

 企業との競合の激しい今日だからこそ、自分たちの「想い」をかたちにしたい、市民発電所をつくりたい、未来社会への脱原発の原点を確かなものにしたい、と思う人々のネットワーキングが、重要な意味を持ってくる。

 

 情報を交換し、知恵やヒントを与えあい、励まし合い、つながりあっていくエンパワーメントの場が、情報空間の中だけではなく、生身の人間の出会いの場として設けられる必要があるのではないだろうか?

 

小諸エコビレッジ自然エネルギー学校

 そんなことを考えていたとき、このコラムの第6回にご紹介した太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)から、上記の催しの情報が、とびこんできた。テーマは、「市民ファンド活用中規模太陽光発電作り講座」とのこと。パネリストのなかに、このコラムの第2回に訪ねた「相乗りくん」の上田市民エネルギー藤川まゆみさんの名前もあったので、出かけることにした。


 ときは9月末の土・日曜日。場所は長野新幹線に平行して走るローカル線の小諸駅から車で15分ほどのところにある小諸エコビレッジ。港区が市民向けの休養施設だったものを手放し、いくつかのエコ系の団体が共同オーナーとなり、PV-Netもそのひとつなのだという。宿泊施設はビレッジ内にはないので、外部の温泉宿の大部屋に実費で泊まり、昼間はビレッジの広大な敷地の中の体育館や広場やグラウンドなどを使って、みっちり講習が行われ、参加費は会員1500円、一般2000円という安さ。夜の交流会も手づくり・割り勘方式である。

 

 講座の中身は、PV-Netが立ち上げた市民ファンドサポートセンターの説明や市民ファンドのつくりかたの話、発電量の実際の計測を含めてパネルをいかに大切に効率的に活用するかを実践的に学ぶというもの、ベンチャーが開発したパネルの故障発見用機器の紹介=写真、グループを組んでエコビレッジの敷地内を歩き回り自然と共生する発電所を企画設計する実習などなど。わたしのような読み書き先行型の人間にとっては、ずしりと重いパネルを運んだのははじめての体験である。


 この週末は、小諸エコビレッジの秋祭りでもあり、キャンプして星を観る集いや、さまざまなショップがグラウンドに参集しての賑わいなど、秋の信州を楽しむこともできた。賑わいの中にひときわ目立つ白いパオ(移動式住居)があって、最後のシンポジウムはその中で行われた。

 

 コーディネーターは都筑健さん(PV-Net事務局長 )、パネラーは、小諸エコビレッジの共同オーナーであり秋祭りの全体を取り仕切っている「こもろはす倶楽部」の岡本一道さん、長野県地球温暖化対策課長の中島絵里さん、上田市民エネルギーの藤川まゆみさん、PV-Netの伊藤麻紀さん、PV-Netの静岡県の世話人で伊豆の国市に市民共働発電所を立ち上げた伊藤博文さんという顔ぶれで、台風が東京方面に迫るなか、熱心な報告と意見交換が行われた。

 

 アナウンスメント期間が1カ月弱だったにもかかわらず、九州・四国・岩手・山梨・静岡などを含めて、定員ほぼいっぱいの50名ほどが全国から集まっている。いろんな人が今この再生エネルギーという焦点に向けて動いているのだな、というのが実感である。

 

 これから市民発電所を立ち上げようという人、すでにつくったという人、被災地につくった市民発電所の開始まじかだという人、とにかく関心があるという人、といった具合の、いわゆる「市民」サイドの人に加えて、ベンチャー企業の社長さんなどもいて、機器や仕事ぶりのの紹介をしてくれたりもするので、PRかな、と思っていると、宿での交流会や朝食や行き帰りの電車の中などで、市民としての思いが吐露されて、めったに聞けない話が聞けたりもする。

 

 あるベンチャーを立ち上げた人の話では、大企業の電機メーカーの技術系の同期の大半が会社を去り、この人も、留学を経て、大学の教職も経験し、あえてベンチャー設立に踏み切ったのだという。

 

 同じ立場で違うところで苦労している人たちや、日ごろ出会うことのない、立場の違う人たちとのコミュニケーションを通じて、ステレオタイプによる誤解から解放されることもあり、懸案の実践的課題が解けることもある。情報交換と信頼関係の構築とが、市民による市民のための発電を力づけていくのだろうと確信して、嵐の東京に戻ることができた。

 

多摩市の現在

 10月に入ってから最初の土曜日に、多摩循環型エネルギー協議会のエネルギーカフェに参加する機会があった。

 

 この協議会は、このコラムの第5回に報告した事業計画が、「2012年度 地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に採択され、補助金を得て、本格的な研究段階に入っている。ビルの屋上に安全な形でパネルを取り付けるための情報を求めて、山梨方面の現地視察を行ったときの写真などを見ながら、現状や課題などをめぐる率直な話し合いが行われ、都内のいくつかの自治体からの参加者の顔も見えた。

 

 考えてみると、団地の屋根の上にパネルを載せるという計画を打ち上げたという話も、大都市の中で一定の地域の中を中心に市民ファンドを立ち上げたという実例も、あまり聞いたことがない。パネルが落ちてこないように念には念を入れなければならないし、資金集めの仕組みにも入念なリサーチが必要である。

 

 そんな苦労を知った後で、7月の集会と同じベルブホール(永山公民館)で、第21回多摩市平和展の催し、「多摩市非核平和都市宣言から1年、私たちのまちのこれから」が10月26日の夜に開かれるとの情報に接し、参加した。

 

 第1部は桃井和馬氏の講演「非核平和都市にむけて」=写真。ヒロシマ、ハンフォード、チェルノブイリ、フクシマと、核の現場を取材してきた、写真家・ノンフィクション作家であり、多摩市循環型エネルギー協議会の会長である桃井和馬氏により、壁いっぱいに大きな写真を示しながらの力強い講演が行われた。続く第2部は、対話「私たちのまちのこれから」。ゲスト桃井さん、阿部裕行多摩市長、ファシリテーター増田みつ枝さんという顔ぶれで、市民とまじかに対面して、意見表明や質問を受けながら活発な対話が行われ、市民の不退転の覚悟と行政の明確な協力のもとに日本で前例のない大きなプロジェクトがスタートしようとしているとの印象を受けた。

写真中央が阿部市長
写真中央が阿部市長

 多摩市は、小金井市が日本で最も早い段階の1982年に行った「非核平和都市宣言」を、昨年、2011年11月1日に行った。イギリスのマンチェスター市を出発点として全世界に広がり、日本全国の自治体数が1789ある中で1562の自治体がすでに行っている非核自治体宣言――多摩市はその非核宣言自治体の「新入り」として、福島の体験を踏まえて、核兵器と原発とを初めて結びつけた、目の覚めるような宣言を行っている。


 「私たちは、人と人との絆を大切にし、原子力に代わる、人と環境にやさしいエネルギーを大事にしていきます。そして、戦争がなく、放射能被害のない平和な世界に向けて、みんなが笑顔で、多様ないのち賑わうまちを、多摩市から実現していきます」という、日本の、そして全世界の津々浦々の自治体の住人たちに向けた、新たな宣言がそれである。

 

 このことばが、現実のものとなり、いつかこの宣言が全世界の小・中学校の教科書に載せられる日が来るといい、と私は思う。ひらめきや実証や対話を積み重ね、日本や世界のあちこちで共通の課題に取り組んでいる人々を見つけて、情報を交換し、励まし合いながら、多摩市民ならではの道を一歩一歩切り開いていかれることを、期待したい。

 

「こがねいコンパス」16号(2012年11月3日更新)

 

<参考>

▽多摩市循環型エネルギー協議会HP

▽日本非核宣言自治体協議会HP

▽太陽光発電所ネットワークHP

▽竹内好恵「実践! 地域主導のエネルギー革命――多摩市循環型エネルギー協議会本格始動へ」『生活者通信』No.253

▽加藤春恵子「自然エネルギーを創る――相乗りくんを生み育てる人々」『こがねいコンパス』もうひとつの日本 第2回

▽加藤春恵子「多摩市のエネルギーシフト」同上 第5回

▽加藤春恵子「太陽光発電所ネットワークを訪ねて」同上 第6回

 

加藤春恵子(かとう・はるえこ)さんのプロフィール
 『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。  

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

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後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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