加藤春恵子(はるえこ)の

もう一つの日本 Alternative Japan  第7回

ノルディック・ウォーキングと高齢化社会

 フィンランド生まれの魔法の杖
 9月の半ばに、小金井をベースに楽しく北欧をめぐる学びを続けている「北欧楽会」が清里山荘で開いた合宿に参加して、私は初めて魔法の杖のすばらしさを体感した。ノルディック・ウォーキングのことは前から気になっていたのだが、はじめにしっかり教えてもらわないと膝関節症を抱えた私には危険という気がして、これまでチャンスがなかったのである。

 

 コーチ、サブコーチ付きで丁寧に教えていただき、年齢もコンディションもさまざまな仲間の様子も見渡して、改めてびっくり。数千円で買えるアルミ製の軽い2本セットの伸縮自在なポールを使って、目的に応じたさまざまな運動をすることができるおもしろさは、独特である。

 

 ポールを長くすれば、大きくストライドを伸ばして足腰を鍛えるかっこよい歩き方をすることができ、若者にも近年とみに人気を増しているスポーツだ。

 

 他方、短くすれば、トコトコと気持ちよく歩行することで、膝や腰のリハビリを楽しみ、行動半径を広げ体調を整えて持続可能な人生を創ることができる。パラリンピックのようにすごい道具を使って選ばれた人たちが競争する、というのとは違った、人それぞれの身体との向き合い方ができ、改善したり、キープしたりすることができる可能性に、目を開かれる思いだった。

 

 これと言って故障のない健康な人たちにももちろん魅力的だけれど、高齢化が進む社会にとってこの2本の杖がもたらす可能性ははかりしれない。

 

 自力で簡単に動くことができるかどうかの分かれ目は大きい。私は2000年前後にロンドンで、高齢者の介護予防余暇活動のネットワークに入り、自立を支える様々な活動に参加しながら、本を書いたことがあるのだが、そのころまだノルディック・ウォーキングは、日本にもイギリスにもあまり普及していなかった。毎週木曜日の午後にハイドパークのあたりで楽しんだウォーキングの仲間のなかには、足腰が弱って、仲間が歩いている間にバスで公園の向こうの喫茶店に行って待っている人もいた。2本脚を4本脚に変えて、ハンディキャップをカバーし、歩行の可能性を広げるスポーツが、出生の地フィンランドから、北欧全域、さらには高齢化の進む世界各国に普及しつつある今だったら、彼女は仲間と共に公園を横切って歩いていけるのではないかと思う。

木陰の道を歩く若葉台の参加者たち
木陰の道を歩く若葉台の参加者たち

 横浜を「発見」

  帰りがけの列車の中で、コーチから、お医者さんの書かれた関連本を拝借して読了し、帰宅してすぐにネットサーフィンをしてみた。

 

 もちろん小金井にも単発の講習会やイベントなどは早くからあるのだが、特に介護予防やリハビリに関連して取り組んでいるという情報は私のサーフィン技術ではキャッチできなかった。日本に導入されてまだ十数年のノルディック・ウォーキングがリハビリや介護予防に日常的に活用されているところはまだ少ない様子で、東京周辺で目立って取り入れられているのは横浜だ、ということがわかった。


 横浜市は、20年ほど前に地域ケアプラザというユニークなシステムを構築して、各地域に建設を進め、指定管理者を公募して、現在120館ほどが活動中である。さらに20館ほど創って、全市をカバーし尽くそうという大計画だという。それらの館のホームページを検索してみると、10館ほどが何らかの形でノルディック・ウォーキングを取り入れているということが判明した。

 

 2日後の火曜の午前に月一度の「ノルディック・ウォーキングお散歩会」を開く予定の若葉台地域ケアプラザに連絡して、参加させていただくことにした。


若葉台団地のノルディック・ウォーキング
 若葉台は、横浜線十日市場駅からバスで10分ほどのところにある。素晴らしい樹林や広場に恵まれた大きな団地であるが、入居開始以来30年余ということから、近年少子高齢化が急速に進んでいる。

 

 高齢者の介護や介護予防は、本人や家族の心配事であるばかりではなく、若葉台地区の将来、横浜市全体の財政、ひいては次世代の人々の負担に関わる待ったなしの課題である。

 

 というわけで、健康の保持・増進のためにウォーキングやランニングその他さまざまな運動に汗を流す人が多く、その中に昨年あたりからノルディック・ウォーキングが目立つようになってきているという。

 

 なにしろ緑豊かで、カワセミも来るという水場を廻るなど、変化に富んだ、ほどほどのアップダウンのある道が整備されているから、ノルディック・ウォーキングにはうってつけだ。

 

 NPO若葉台スポーツ・文化クラブ後援、森隆司コーチ担当のノルディック・ウオーク体験会が毎週2回火・金に定例で開かれており、その中で私がはじめて伺った日は月1回のケアプラザ主催の会だったというわけだ。

 

 ケアプラザ職員の掛札さんはユニークな人柄で、コーチの森さん共々、プラザに集まってくる人たち一人一人に明るく声をかける。プラザの横の駐車場でしっかり準備運動をして、10人余りの一行は豊かな自然の中を歩いていく。

 

 団地の住人で定年後に全日本ノルディック・ウォーク連盟公認指導員の資格を取った森さんは、きめ細かで適切な指導を行っている。ケアプラザ主催のこの日は無料で、それ以外の日は1回300円の会費。保険が掛けられ、歩き終えた後のコーヒー+ビスケットの代金もこのなかに含まれており、気軽に参加できる。全日本ノルディック・ウォーク連盟の講習に参加して、同連盟の地域オピニオンリーダーにもなっているという住民の2人の女性がサブコーチ役として参加するので、安心感が増している。

 

 ケアプラザから出発した一行の終点は旧西中学校。少子化による学校統合で空き家になった校舎を、住民がつくったNPO法人が責任を持って管理している。

 

 喫茶・軽食ができて、作業所の作品やノルディック・ウォーキング用のグッズや農業担当の住民がつくった野菜なども売っている地域交流サロン「ふれあいにし」、市民図書室「Sola」、障害者の作業所「ぶんげいざ」等々がここで活動している。

 

 体操のあとで、元気に歩いてきた60代の女性から、かなり長いこと透析を受けており、今日も病院の予約があると聞かせていただいてびっくり。内臓疾患も含めて、医療の世界でもノルディック・ウォーキングのリハビリ効果が注目されていることが頷ける。

 

 もとは工作室だったという「ふれあいにし」でコーヒ―を飲み、楽しく語り合って、散会。この日は足腰にトラブルのある方の参加がなかったので私だけがサブコーチの方とゆっくり歩いたのだが、通常は、3グループに分けて歩くというので、リハビリや介護予防に関心のある私は、次の週にもう一度参加させていただくことにした。

 

コーチの森隆司さん
コーチの森隆司さん

コーチの大切さ

  翌週の火曜日の朝10時前に、集合場所に行ってみると、20人ほどの仲間が続々と集まってくる。

 

 あらかじめ森さんに電話で相談して、今日が初参加、という70代の男性は、長年痛みを抱えていたという腰の手術を終えたばかりで、私も含めて5人ほどのゆっくり組に参加。サブコーチのなかの1人がこの組について歩き、森さんもときどき前の組から戻ってきたり、休憩時に具合を尋ねたりといった心遣いのなかで、初参加の男性も短めのコースを歩きとおし、終了後のお茶を飲んでから、森さんの車で無事帰宅した。

 

 70歳以上が大半と思われる参加者は、がんばりやさんが多い世代なので、無理して体を痛めることのないよう、コーチは気を使っている。この日の第2組の参加者は1人。

 

 ともすれば早い組に入って無理をしてしまいそうなので、先頭組はもう一人のサブコーチに任せて森さんがこの女性と2人で歩く、という心遣い。「隣の人と話しながら歩く程度がちょうどいいスピードだ」という教えも、ガンバリズムで身体を壊すことへの戒めとなっている。

 山で遭難者まで出すことのある近年の高齢者スポーツであるが、たとえボランティアではあっても、言葉の真の意味でプロフェッショナルなコーチが養成されて、十分な配慮がなされてこそ、高齢社会の活力は保たれ、育てられるのだと思う。

 

 「寄り添って歩く」
 初参加の方を送って帰ってきた森コーチに、改めてお話しを伺った。

 

 森隆司さんは1946年生まれ。現役の間はノルディック・ウォーキングにあまり縁がなかったのだが、知人の勧めで全日本ノルデフィック・ウォーク連盟の公認指導員の資格を取り、昨年の3.11の後の4月から単発の講習会などを開催し、ケアプラザとの連携の道も開かれて、今年の7月から本格的に週2回のプログラムを組むようになったのだという。

 

 「僕にできることは、《寄り添って歩く》ということだけなんですよ」。

 

 そんな言葉が印象的な森さんであるが、さまざまなコンディションや気性を持つ一人一人の参加者を理解して、現場の経験に基づいてコーチのやり方を研究し、実践している様子が、私自身の参加経験からも、お話からもうかがえる。

 

 日本国内のノルディック・ウォーキング関連団体はいくつかあって、それぞれに特徴があるのだが、頂いた資料によると、森さんの選んだ全日本ノルディック・ウォーク協会は、幅も広く専門性も強い。

 

 特定のメーカーのものに偏ることなく多くのメーカーのポールを使用し、医療関係者との結びつきが強く、ディフェンシブと呼ばれる介護予防・リハビリ的なやりかたを指導できるとともに、アグレッシブと呼ばれるスポーツ的なやりかたをも指導できる人々を多く育てて、コーチ資格を付与し、全国的に活動を展開している。

 

 高齢化の進む町に長年住んで、自らも高齢者としてこの町に生きていこうとする森さんが、日々の生活体験とコーチ経験を生かして、未曾有の高齢社会に突入しようとする人々のための介護予防としてのノルディック・ウォーキングの発展に貢献して行かれることを期待したい。

 

 若葉台の仲間たちは、近々、山中湖畔でノルディック・ウォーキングをするためのバス旅行に出かけるのを楽しみにしている。小金井も含めて全国の町々に、高齢者に「寄り添って歩く」プロフェッショナルなコーチが増えて、魔法の杖の安全な使い方が普及し、健康志向の楽しいコミュニケーションの場が展開されるとよいと思う。

(了) *写真も加藤さんが撮影

 

「こがねいコンパス」2012年10月6日号

ご意見・ご感想などはkoganeicompass@gmail.com まで

<参考>

松谷之義(医学博士)『驚異のノルディック・ウォーキング』(ぎょうせい 2010)

若葉台2丁目自治会のブログ 2011年10月17日  blog livedoor jp/imajun 2011/

若葉台2丁目自治会のブログ 2012年9月27日  blog livedoor jp/imajun 2012 /

加藤春恵子『福祉市民社会を創る――コミュニケーションからコミュニティへ』(新曜社 2004)

 

加藤春恵子(かとう・はるえこ)さんのプロフィール
 『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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