加藤春恵子の

もう一つの日本 Alternative Japan  第6回

              太陽光発電所ネットワークを訪ねて

 マンションのベランダに干した洗濯ものが2~3時間で乾いてしまうような毎日。灯油のボイラーで集中的に沸かしたお湯を使った風呂に入ったりしていると、せっかくの恵みを与えて下さっているお天道様に申し訳が立たないような気がしてならない。


 市民共同の発電所を立ち上げようとしている地域の住民も、その条件の整わない町の住人たちも、それぞれ与えられた状況の中でエネルギーシフトにベストを尽くし、可及的速やかに再生可能エネルギーを伸ばし、誰が見てももはや原発は不要だ、といえる状況をつくりだしたいものだ。

 

 そんなことを考えながら、すでにご報告した世田谷の市民の集会で出会った、伊藤麻紀さんの名刺を探し出して、神田明神の近くのマンションの一室にあるNPO「太陽光発電所ネットワーク(PV―Net)」を3回ほど訪問した。なお、PVとは、太陽光発電の英語photovoltaic power generationの略語である。

 

つながりあう「太陽光発電所長」たち

 2003年に設立されたこのネットワークの主たるメンバーは、チェルノブイリの衝撃やや地球温暖化問題などに刺激を受けて、個々に思い立って太陽光パネルを自宅の屋根に取り付けた人たちだ。

 

 日本は、このような個人住宅での太陽光発電では世界一といわれており、メガソーソーラーの時代に入って大きく伸びたドイツなどとは異なる展開を示してきたのである。

 

 最初は、東京電力のカバーする地域で、生協などを通じて太陽光パネルを購入をしたり、再生エネルギー関連の市民活動を立ち上げたりしながら、発電量などのチェックをしていた人たちが集まり、組織を結成した。


 東電とのコラボレーションで補助金を受けた時期もあったが、現在では独立し、シンプルなマンションの一室を根城に自立した活動を展開している。

 

 東京電力圏内にとどまらず、全国あちこちに支部がつくられて、発電所長どうしで交流しあっている。会員は、2012年8月29 日現在2,608人である。

 

 事務局の専従は、事務局長の都筑建(つづく・けん)さん(写真・後列左)と事務局次長の伊藤麻紀さん(写真・前列左)という、2人体制。


 ただし、事務所はオープンな感じで、会員のボランティアが盛んに出入りしており、とりわけ毎週木曜日には会員の国井範彰さん(写真・後列中央)が相談事業を行っている。写真右側の2人のように、インターンの学生たちがやってきて大学での単位取得につなげている、というケースもある。後に述べるように、海外の市民運動との情報交換会といったシーンが展開されることもある。

 

 パンフレットには、「太陽光発電所長および太陽光発電や自然エネルギーに関心を寄せる有志たちが築く非営利組織です。種々の活動を通して、太陽光発電システムの普及・拡大を図り、環境やエネルギー問題を市民の立場で考え、社会に貢献していくことを目的としています」とある。

 

 具体的な活動内容としては、PV健康診断(データ比較等により会員の発電状況に支障がないかチェック)、地域ごとの交流活動、太陽光発電所長大集合イベント、太陽光発電基礎講座、行政や企業との協働、グリーン電力証書発行、市民ファンド事業など、多様であるが、ここではその一部についてレポートする。

 

設置後の悩みにも対応

 国井さんは、数年来、埼玉から手弁当で毎週木曜日に事務所に通い、10時から18時までメール・ファックス・電話・来談いずれもOKというかたちで、太陽光発電に関する無料相談を行っている。

 

 状況によっては、相談者の自宅の近隣の会員に連絡を取り、訪問して相談に乗ってもらうこともある、という。

 

 太陽光パネルを設置する前の相談というのは比較的シンプルだが、設置後に生じる問題のなかには、複雑な悩みもある。

 

 訪問販売によるトラブルが目だった時期もあったが、これについては消費者保護法が改正されてからは少なくなった。売電収入がパネル購入時に聞かされたのとは大違いだ、といった相談もあるが、消費者センターに相談するようアドバイスして、ベテランの相談員に出会えた場合は解決する場合が少なくないという。

 

 最近は、メーカーが生き残りをかけて、サービスを強化している。そのため、泣き寝入りせず、かなり年数が立って劣化が目立つような場合でも、相談室から類似のケースで消費者側に有利に解決した事例などに関する情報提供を受け、データに基づいて状況を十分説明した結果、パネルを交換してもらえたようなケースもあるということだ。

 

 自分と同じユーザー側のベテランの発電所長からの損得抜きのアドバイスが、力となることは言うまでもない。

 

 ホームページのQ&Aも、「先輩発電所長からのアドバイス」という形をとっており、『賢い太陽光発電所長のススメ』というパンフレットにも先輩たちの経験がにじみ出ている。

 

 孤立して悩むより、会員同士、というのはこの団体の趣旨に沿った素晴らしいことだと思う。

交流・調査・発信

 会員同士の交流は、各地で様々な形で行われている。何カ月か前から企画されアナウンスされた見学会のようなものもあれば、ホームページ(HP)を通じて急きょ集まりが開かれることもある。

 

 8月25日の午前9時半には、ドイツのエアランゲン市で市民ネットワーク活動をしているフントハウゼンさんが来訪するという急なアナウンスに応じて、東京支部の会員が10人ほど事務所に集まった。

 

 ゲストの所属している市民団体などのホームページや、白板を駆使しながら、情報を交換し合い、PV-Netの抱えている問題への解決のヒントを模索する話し合いが,写真のようにぎやかに行われた。事務局の伊藤さんが、パネラーとして出席した世田谷の集会で、フントハウゼンさんに出会い、情報交流の場を広げたのである。

 

 HPの見出しからたどってみると、このネットワークは、昨年前半に被災地にかけつけて、援助・研究活動を行っている。評議員として日ごろからPV-Netに関わっている東京工業大学ソリューション研究機構特任教授の黒川浩助氏と都筑さんら事務局と会員有志が協力し合って、太陽光パネル関連の被害状況を調査し、その年の7月末には、今後に向けた貴重な提言を含む調査報告を発信したのである。

 

 機動力を持った市民グループが、社会を動かしていくことを実感させられる。

 

暮らしを変える・社会が変わる

 事務局長の都筑さんは、2010年の秋に『エネルギーシフト――太陽光発電で暮らしを変える・社会が変わる』(旬報社)を出している。


 個人住宅用の比率の高い日本の太陽光発電に誇りを持ち、地産地消の小規模分散自然エネルギー社会を先取りしてきた日本の特徴を大切に伸ばして、量より質のエネルギー社会を構築していくべきだと主張し、具体的なアイディアを展開している。

 

 将来的には、パネルの効率や蓄電の技術を高め、断熱・LED・太陽光温水器の活用等による節電を本格化することによって,ベランダに置いたパネル一枚で暮らせるように、量より質を追求していくべきだと考え、そのような動きの先頭に日本が立ちうることを示唆しているように、私には読み取れた。

 
 都筑さんへのインタビューでは、特に2011年から「PV-Net市民ファンドサポートセンター」をスタートさせているとの発言が印象的だった。


 HPの説明によると、「市民が出資し合って、地産地消の太陽光発電を共同で建設するための『市民ファンド事業』を行っています。PV-Netが自ら市民共同発電所を建設するものと、全国の市民共同発電所作りを希望するもの2通り行うように・・・」とのことである。

 

 HPには、すでに完成している静岡県伊豆の国市の太陽光市民共同発電所の事例が紹介されている。

 

 都筑氏によると、被災地でも、メガソーラーではなく住民の手で運営できる太陽光発電所をという声がある。また、全国で市民発電所への願いを持ちながらスタートしかねている人々の力にもなりたい、とのことである。

 

 すでに、太陽光発電を普及させるという道筋はできたので、普及した後で起こるであろうことをフォローしたい。個人であれグループであれ、庭に木を植えて育てていくように、責任を持って、自ら設置したパネルを大切にチェックして丁寧に発電を続け、持続可能なエネルギー社会を創っていくための力になりたい、といった趣旨のことも語られた。

 

 葡萄畑を切り倒して、大量生産の太陽光パネルが設置され、論議の的となるといった、スペインなどの一部にみられるような悲しい事例を、見過ごすわけにはいかない。

 

 ヨーロッパのプラス面を学ぶだけでなく、マイナス面も見据え、日本の長所を生かしながら「太陽光発電で暮らしを変える・社会が変わる」プロセスを丁寧に育み支えたいとの願いが、幼児期の長崎での被爆体験という根っこの上に育まれて、都筑氏の行動を支え、このネットワークの力となっているように思われる。

 

(太陽光発電所ネットワークのHPから。クリックするとHPに移動できます)
(太陽光発電所ネットワークのHPから。クリックするとHPに移動できます)

 PV-Netのビジョンや実践を紹介すれば限りがない。HPフロントページの見出しを次々にクリックして、各自の関心・ニーズにあった活動を探索されることをおすすめする。


 そのうえで、屋根やベランダにパネルを載せるもよし、市民ファンドを立ち上げるもよし、立ち上げた人々のプロジェクトに参加するもよし、大資本によるメガソーラーがふるさとの暮らしを荒らすことのないように方向づける役を引き受けるもよし、節電に徹するもよし・・・。

 

 自分にあった、エネルギーシフトへの参加の在り方を、工夫して行きたいものだと思う。 

(2012年9月1日号)

 

 

 【参考】

太陽光発電所ネットワークHP www.greenenergy.jp

PV-Net News 第22号 2011年7月

都筑 建『エネルギーシフト――太陽光発電で暮らしを変える、社会が変わる』(旬報社 2010)

◇筆者のプロフィール◇  
 加藤春恵子(かとう・はるえこ) 
  『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。   

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

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脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

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イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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