加藤春恵子の

もう一つの日本 Alternative Japan 第5回

続・東京のエネルギーシフト       多摩市では今

 

 7月29日の日曜日、モノレールで多摩市永山に出かけた。

 

 前回ご紹介した世田谷と並んで、最近、東京で地域エネルギーシフトのプロジェクトの旗を掲げ、5月11日の多摩市循環型エネルギー協議会の発足を機に、新聞各紙に「団地屋上で太陽光発電」「市民ら事業化 太陽光発電目指す」などの見出しのもとに取り上げられた多摩市。

 そこで学んだことをお伝えしたい。

 

 

『第4の革命』上映会 

 この日永山駅前のモダンな公民館のホールで行われたのは、午前と午後に行われたドキュメンタリー映画「第4の革命 エネルギー・デモクラシー」の上映会と、それに続く写真家でノンフィクション作家の桃井和馬氏のトーク。「エネルギーシフトをすすめる多摩の会」(略称:エネシフ多摩)と「多摩市循環型エネルギー協議会」(略称:多摩エネ協)の共催だ。

 

 

(「たまプレ!」提供)
(「たまプレ!」提供)

 まず、予約してあった午前11時に受付にたどりつき、1月の全国一斉公開のときに見損ねたフェヒナー監督の作品を見る。 

 

 2010年に完成して、ドイツを脱原発に向けて大きく動かすことになったこのドキュメンタリー映画は、今の日本で、再稼働に反対すべきか否か、我が家の屋根に太陽光パネルをのせるべきか否か、やはりエネルギーシフトは無理ではないか等々、心の中に分裂や疑問を抱えている人々に、ぜひ見てほしい作品だ。

 

  「無理だよ」派の専門家のああでもないこうでもないという談話をしつこいほどはさみながら、農業、産業・ITに続く第4の革命である再生エネルギーの時代への転換が、すでに大きく動き出しており、技術的にも日々前進を続けている世界の状況を、実物や発言を通して示し、見る者の心に説得的に働きかけるという手法を、この作品はとっている。

 

  映画制作の提案者であり、自ら出演して革命への参加を呼び掛けるナビゲーター役のヘルマン・シェーア氏は、ドイツ連邦議会議員(社会民主党)、ヨーロッパ太陽エネルギー協会会長で、小規模太陽光発電を推進し、再生可能エネルギーの定額買取の義務付けの法制化を実現した人物である。

 

  アフリカでの再生エネルギー活用のとりくみも取り上げられているとはいえ、この作品には、アメリカやヨーロッパの最先端の都会生活に関わる技術革新が多く出てくる。そのため、再生エネルギーを自明のこととして受け入れている人から見ると、やや違和感もある。

 

  しかし、これまでに人類が獲得してきた生活水準を手放さなくても、発電と省エネの技術の急速な革新によって、第4の革命はすでに十分に可能になりつつあるのだという力強いメッセージに出会うことは、政治・経済を動かす人々や保守的な人々に決断を促すためには必要であり、その人々の参加なしには、日本のエネルギー政策の転換を進めることも難しい。  

 

 その意味で、いま、多摩でこの作品をとりあげた主催者のエネルギーシフトへの本気度がひしひしと感じられて、小金井でも、ぜひ大規模な上映会をしたいものだ、と思いをめぐらしつつ、館内でゆっくりカレーとかき氷を食べて、会場に戻る。  

(「たまプレ!」提供)
(「たまプレ!」提供)

桃井和馬氏のトークと質疑応答 

 桃井和馬氏は、1962年生まれの著名な写真家、ノンフィクションライター。愛妻の急の病による死を取り上げた『妻と最後の十日間』、フォトエッセイ『希望の大地――「祈り」と「知恵」をめぐる旅』など、多くの著作がある。

 

 多摩でいくつかの市民活動にとりくんでおり、5月にスタートして最近一般社団法人化した多摩市循環型エネルギー協議会の会長である。

 

 

 桃井さんは、3・11までは原発を容認していたという。そこから思索を深めて、多摩の仲間とともに足元から世界を変えたいと大役を引き受けたのである。

 

 『第4の革命』は、3・11以前につくられた作品であり、原発の危険性というよりむしろ地球温暖化を防ぐという観点から再生可能エネルギーへの転換を推進している。

 

 しかし、と桃井さんは言う。

 ――三鷹の天文台の公式発表のように、地球は寒冷化に向かっているという説もある。温暖化か寒冷化かさえわからないという科学の現実があるというのに、人間はおごってさまざまなことを行ってきた。立ち止まって、私たちの足元を固めたい。

 

 ――3・11以降、日本は暗闇に包まれている。だからこそ、奥殿の闇の中に至高の存在を感じ取って床の間に水を供える府中の大国魂神社のくらやみ祭りの神事のように、いまは、普段は光にまぎれてみることができないものごとを「見る」ことができるときなのではないか?

 

 ――ラダックの人々は知恵を使い、自然エネルギーで生活する学生寮をつくっている。そのように、私たちも、頭を使って、多摩を太陽光エネルギーのショーケースにしたい。

 

 と、これまでの人生経験を踏まえて洞察と決意を語った後で、桃井さんは、「これは私の人生です。自分が好きなことをやりなさい。そして、どんどんやりなさい。何か気に入らないことがあれば、それを変えなさい」で始まる詩を読み上げ、自転車で走ったり休んだり食べたりしながら旅する若者たちを通してこの詩の世界を表現した短い動画をスクリーンに映し出して、詩の最後にある「人生は短い。情熱を身にまとい、自分の夢を生きよう」という言葉で話を締めくくった。

 

 そのあとでの質疑応答の時間には、映画にも講演にもあまり触れられることがなく、これから多摩市で始められようとしているプロジェクトに関する実際的な質問が多く出されたのだが、後から振り返ってみると、このトークの意味するところはとても深い。ユ二―クなリーダーを持った「多摩エネ協」の人々の「自転車旅行」は大いに期待されるところだ。

 

信頼し合い認め合う仲間たち

  会が終わり、協議会への入会申し込みの受付けなどの仕事が済むのを待って、徒歩2分ほどの居酒屋での打ち上げに参加させていただいた。生ビールのおいしい真夏の夕方の乾杯は、ドイツ映画『シェーナウの想い』に出てきた人々の笑顔を思い出させてくれた。

 

 受付でお願いしてあった江川美穂子さんのとなりに座って、話を聞かせていただいた。

 

 江川さんは、多摩エネ協の理事の一人。多摩での市民運動の参加経験を踏まえて、多摩エネ協の設立に関わる数々の動きに積極的にかかわり続け、仲間たち一人一人の個性や役割、関連する市民グループの機能をとてもよく把握している。

 

 これまでの市民活動で確かめた信頼関係をベースに、見えないところで情報発信や集会開催や書類づくりに誰がどれだけ奮闘中であるかをしっかり把握し、個人間・グループ間・世代間のつなぎ役を果たしている。

 

 ないものねだりをするのでなく、お互いの個性を把握しあって、感謝をもってそれぞれの貢献を受け止めあうことこそ、市民運動の成功の鍵なのだと、彼女の話を聞きながら改めて教えられる。

 

 事務局長の山川陽一さんは、元工業計器メーカー勤務、1938年生まれ。元気いっぱいでしかも物静かな人物のように思われた。日本山岳会会員として飲料の自販機など環境関係の問題提起を行うなど、エコロジーには関心があったものの、ご本人の話では、3・11まで原発は他人事のようだった。

 

 しかし、ハッと目覚めて必死で勉強して本気でとりくんでいるとのことで、この人なくしては会の活動は成り立たないと江川さんは言う。これまで無関心でいてすみませんと恥じてへこんでいたり、いまさら脱原発でもないとつっぱたりいじけたりしないで、いま、ベストを尽くして行動することが大切なのだ、と痛感した。

 

「たまプレ!」と「エネシフ多摩」の働き

  多摩エネ協の立ち上げに至るまでには、2010年3月にスタートしていた多摩地域の情報サイト「たまプレ!」と、2011年の5月にスタートした「エネルギーシフトをすすめる多摩の会」(エネシフ多摩)が大きな役割を果たしており、その重要性は今も変わらない。

 

 「たまプレ!」編集長の高森郁哉さんは、1964年生まれ。多摩エネ協の理事の一人だ。フリーランスのライターなどを経て、小学校から高校時代を過ごした多摩を拠点にこのサイトを立ち上げ、桃井和馬さんのコラムや、建築事務所代表・多摩ニュータウンまちづくり専門家会議副理事長・多摩エネ協理事の秋元孝夫さんのコラムを掲載し、自らエネルギーシフト関係の記事も多く執筆して、関連情報の拡散に大きく貢献している。

 

 サイトはいま、市在住のオリンピック柔道57キロ級金メダリスト、松本薫さん関係の記事で賑わっており、早くも7月31日には、彼女や多摩市関連の選手の報告会の日程が新着ニュースのトップを飾っている。マンガ風のイラストなどもあって、親しみやすい編集方針は注目に値する。読者からは続々とツイッターが寄せられており、フェイスブックでつながることも容易で、まちづくりに欠かせないメディアの担い手として、高森さんの果している役割は、きわめて大きい。

 

 「エネシフ多摩」の会長であり、多摩エネ協の理事でもある林久美子さんの果す役割の大きさも、はかりしれない。

 

 3・11から2カ月ほどで立ち上げられたこのグループは、2011年6月25日には、柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会代表の井野博満氏・ISEPの古屋将太氏・多摩市長阿部裕行氏による「原発事故とエネルギーシフトを考えるシンポジウム」を開催。同年8月11日には、「多摩のエネルギーシフトの話をしよう」と題して、「おひさま進歩エネルギー」社長の原亮弘氏を招き、事業立ち上げの詳細を聞くとともに、具体的な質問を浴びせて、今日の展開の礎となる学習を行っている。その様子は、ustreamに収録され、エネシフ多摩のHPから今も見ることができる。ここにも市長が出席している様子が伺える。

 

  2012年に入ると、顔の見える市民のつながりは大きくなり、3・11の日曜日の午後には、162人の個人と20のグループがよびかけ人となった実行委員会が組まれて、「3・11フクシマを忘れない 原発のない未来を原発どうする?! アクションin TAMA」が、大震災発生時刻からの1分間の黙とうをはじめ、さまざまなプログラムをパルテノン多摩付近で展開している。

 

 こうした状況の中で、2011年11月1日の市制40周年式典に向けて多摩市では、「多摩市非核平和都市宣言」を作成し、次のような文言を織り込んでいる。「たまプレ!」編集長で原案作成のための市民懇談会の公募委員だった高森郁哉さんがサイトのなかで報告しているように、市側によって懇談会の原案より若干表現が緩められたとはいえ、3・11を経験した2011年の多摩市民の想いを子孫の時代まで長く記憶にとどめ、伝え、受け継いでいくための、貴重なバトンともいえるものだと思う。

 

「平成23年3月の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故に、私たちは多くのことを学びました。自然の力に対する謙虚さを忘れ、人間の科学技術を過信していたこと。安全と言われていた原子力発電所から、ひとたび事故が起これば大量の放射性物質が拡散され、大事に育て築いてきたものが、たちまち奪われうることを。私たちは、人と人との絆を大切にし、原子力に代わる、人と環境にやさしいエネルギーを大切にしていきます。そして、戦争がなく、放射能被害のない平和な世界に向けて、みんなが笑顔で、多様ないのちがにぎわうまちを、多摩市から実現していきます。」

 この宣言の実現のための担い手として、多摩エネ協は、歩み出したのである。

 

(多摩市循環型エネルギー協議会のHPから)
(多摩市循環型エネルギー協議会のHPから)

多摩での発電に向けて

  最後に、多摩エネ協のホームページとパンフレットをもとに、多摩で構想されている事業の全体像をまとめておきたい。


 上図に示されたように、多摩市循環型エネルギー協議会は、事業主体ではない。これから、調査研究検討や実証実験を行って、事業主体の在り方を確定する作業を行う組織である。事業主体となる組織が立ち上げられてからは、その組織が、市民ファンドを集め、ソーラーパネルを設置して、スペース提供者に対する賃料を支払うなど、発電事業を運営するという構想である。以下は、多摩エネ協のHPに掲載されている「設立の趣旨」と「目的と活動」だ。

 

 あらためて世田谷区と多摩市を比べてみると、いずれも市民の果す役割は決して小さくはないが、世田谷はトップダウンの色彩が強いのに対して、多摩は、官民一体をキーワードとして市民の側から行政に働きかけており、市民のイニシャチブが極めて大きいという印象である。


 その分、多摩市では市民ファンドを市民の手で立ち上げる決意が示されており、市民の熱意の持続・拡大が必要だが、これまでに築かれてきた市民活動の根の深さや広がりを活かして、全国各都市に新たなモデルを提供してくれることを期待したいと思う。

 

【参考】

▽多摩市循環型エネルギー協議会HP

▽同上パンフレット「多摩エネ協」に参加しませんか

▽エネルギーシフトをすすめる多摩の会HP

▽たまプレ!HP

▽『第4の革命』HP

▽同上映画プログラム(自主上映開催方法掲載)

▽桃井和馬『妻と最期の十日間』集英社新書 2010年

▽桃井和馬『希望の大地――「祈り」と「知恵」をめぐる旅』岩波ブックレット2012年

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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