加藤春恵子の

もう一つの日本   Alternative Japan  第4回

東京の地域エネルギーシフト  世田谷区での取り組み

 

 

 

 ドイツの小さな町のエネルギーシフトのための市民運動を取り上げたドキュメンタリー『シェーナウの想い』の中で、今も私の眼に残っているのは、町中の屋根を覆い、古い教会の屋根にまで取り付けられた太陽光パネルだ。

 ドイツでは、チェルノブイリの事故の影響を体感し、理論が組み立てられ、法整備が行われて、市民や行政や企業が今できることは何かと取り組んだ結果、太陽光発電が爆発的に普及した。これに、風力発電の発展、発送電分離等が組み合わされて、エネルギーシフトの「現実」が力強く姿を現していたからこそ、「フクシマ」の報を受けて間もなく脱原発政策を採ることが可能だったのだ。

 

 原発を福島や柏崎に押し付けて、安全神話のもとにガラパゴス化していた20年余りの失われた歳月を取り返すべく、3・11以来、東京の住民は、エネルギーシフトに向けて、それぞれの住む地域で模索を続けてきた。しかし、地産地消のプロジェクトを形にしたところは、まだ少ない。

 

 そのなかにあって、7月1日の再生エネルギーの固定価格買い取り制度のスタートの前後に、明確な形を呈示してきたのが、世田谷区と多摩市だ。

 

  どちらも、さまざまな団体や個人を繋いだ、区民・市民の倦むことのないとりくみの積み重ねの上に、エネシフトに向けた具体的なプロジェクトが動き出している。 

 

 今回は、世田谷区で5月と6月に行われた二つのイベントを報告し、7月中旬から募集の始まる具体的なプランを紹介したい。

 

トランジションタウン世田谷茶沢会のHPから
トランジションタウン世田谷茶沢会のHPから

■「共催」で市民がつながる

「世田谷エネルギーシフト みんなの未来の教室」

 5月27日の日曜日、さわやかな初夏の風と日差しを受けて、150人ほどの人々が下北沢の成徳学園ミモザホールに集まった。


 「自然エネルギーってどんな感じ? エネルギーについて私にできることはあるの?」と、やわらかく、しかも明確なテーマを掲げて学習と話し合いをくりひろげたのである。

 

 午前は、「地域で取り入れる自然エネルギー」というテーマで、原亮弘(飯田市おひさま進歩エネルギー社長)、竹村英明(エナジーグリーン社長)、古屋将太(環境エネルギー研究所=ISEP研究員)の3氏から、飯田での展開の歴史や、リーダーシップ論などをめぐる報告。

 

 ロビーで販売された自然食のお弁当や女川のサンマの昆布巻き等を食べて休憩した後、午後は、世田谷区の保坂展人区長、徳江倫明氏(FTPS代表)、吉原毅氏(城南信用金庫理事長)が加わり、壇上に上がった区民10人ほどと対話する「いま世田谷で!」。最後は、ワールドカフェ・スタイルでみんなが話し合うというプログラムだった。

 

 主催は、市民グループの「トランジシヨンタウン世田谷茶沢会」。プログラムに載せられた記録によれば、この会は、2010年の立ち上げ以来、エネルギーと暮らしの今とこれからについての問題意識を持続し、ISEP所長の飯田哲也氏やスウェーデンの専門家の講演会、ドキュメンタリー「ミツバチの羽音と地球の回転」の上映会等を通して、3.11のときにはすでに様々な市民団体や専門家とのつながりを深めていた。3.11後も様々なゲストを招き、持続可能な社会を目指して地元での学習や話し合いを重ねている。

 

 カフェなどでの小規模な会合も含めて、共催の集会が多い。5.27の会も世田谷区とISEPの後援、城南信用金庫とパルシステム生活協同組合連合会の協賛。さらに下北沢商業者協議会、23区南生活クラブ生活協同組合、グリーンライン下北沢、「エネルギーシフトを考えるデータバンク」の協力を得て行われた。一部を除き、壇上に上がったのは、これらの団体の代表者たちで、日ごろの話し合いや交流を踏まえて、実のある議論が展開された。

 

 共催ということが少なく、たこつぼ化しがちで、沢山の集会が開かれながら知るすべももたない市民も多い小金井の在り方を反省し、「共催の力」、「異質性を乗り越え多様性を活かして市民同士がまずつながることの大切さ」を痛感させられた集会だった。

 

 世田谷での集会の後援・協賛・協力団体の名前を上に記したのは、私たちの町のつながりの在り方を考えるための参考にできれば、と思ったからである。

 

 

■ 印象に残る飯田市長の言葉

「自然の恵みを活かして豊かに暮らす世田谷の未来に向けて」(区主催) 

 

 6月16日の土曜日。成城学園駅近くの砧区民会館で午後から夜にかけて開かれていたイベントに、傘をさしてたどり着いたのは、午後5時。

 

 第1部の子ども連れを想定した「地球にやさしい暮らし方」が終わり、ロビーでオレンジ色のハッピをきたスタッフにより後述の「さんさんプラン」の説明等が行われているところだった。

 

  その後は資源エネルギー庁職員による再生エネルギーの固定価格買い取り制度についてのわかりやすい講演があり、引き続き、第2部のシンポジウムへ。スピーカーは、牧野光朗(飯田市長)、高橋洋(富士総研経済研究所主任研究員)、松原弘直(ISEP主席研究員、急用で欠席の飯田所長に代わって出席)の各氏。コーディネーターは保坂区長である。

 

 最も印象に残ったのは、飯田市の牧野光朗市長の「経済の問題と環境問題を別々にとらえていては成り立たない」という言葉だ。

 

 行政の自己満足に終わらぬよう、市民の持つ力を信じ、民間との信頼関係を構築して事業の広がりのおぜん立てをしていくことの大切さがくりかえし強調された。

 

 飯田市といえば、おひさま進歩エネルギーの原氏に関心が集中しがちだが、日本政策投資銀行フランクフルト首席駐在員等のキャリアを活かして、地域の発展のために、民間の小さな起業や既存のモノづくり企業に目配りし、それぞれがエネルギーシフトに向けた力を発揮できるよう、コーディネーター役を果たしている牧野市長や、市役所スタッフの貢献もきわめて大きいことが、よくわかった。

 

 エネルギーシフトは、決して少数派だけの運動目標ではなく、社会全体で共有することのできる現実的な目標だ。その実現のスピードを上げて行けば、新しい仕事を増やすこともできるし、脱原発も達成され、持続的で安心な「みんなの未来」が実現するのだ。

 

 電力自由化の早期実現に向けて政府の審議会でも議論を展開している高橋洋氏からは、最新の情報が提供され、松原弘直氏からも最新の国際比較データなどが提示されて、仕事帰りに駆けつけた人も含めて250人ほどの参加者は、居眠りする暇もなく、今ここでできることは何かと考え続け、終了予定の9時を15分過ぎて散会した。終了後も、ロビーには話し合う市民の姿が多く、車いすの参加者も複数見受けられた。

 

 

世田谷サービス公社のHPから
世田谷サービス公社のHPから

■住民を後押しする新たな試み

「世田谷ソーラーさんさんプラン( 世田谷ヤネルギー )」

 最後に、7月から始まろうとしている東京での新しい取り組みについて簡単にご紹介したい。

 

 世田谷区がいまはじめようとしているのは、市の外郭団体である「株式会社 世田谷サービス公社」(1985年設立)が、1000軒の一戸建住宅の所有者に対して、良質の国産太陽光パネルを一括購入により安価に斡旋し、地元に本店のある信用金庫でローンを組んで早目に返済が終わるようなしくみをつくり、国や都に対する補助金申請やパネルの取り付けやメインテナンスの面倒もしっかり見よう、という取り組みである。

 

 申し込み開始は、7月17日から。記者会見も行われ、区長自身ブログで詳しく発信も行っている。

 

 新奇性のあるアイディアとはいえないけれど、公社や区長をはじめとする区のスタッフによって綿密に練り上げられ、エネルギーシフトを求める区民の理解・合意も形成されて、機が熟している。

 

 世田谷にある再生エネルギー生産のための資源は、比較的豊かな暮らしを営む民家の屋根。高齢化も進んでおり、ある程度の貯金はあっても、国や都による補助金の面倒な手続きや業者選定の迷いから手が出せないでいる人々も多い。

 

 そうした区民に向けて、エネルギーシフトに向けた歴史的な社会貢献に踏み切るサポートをしよう、というプランは、小金井も含めて東京、さらには全国の多くの地域に住む人々に、モデルあるいはヒントを提供できることだろう。

 

 区による直接的な補助金というかたちではないにせよ、外郭団体に対しては区民の目が厳しく、一戸建ちに住むお金持ちのために我々の税金を使うのだろうか、という思いを抱く区民もあるかもしれない。

 

 みんなの未来のために今生きている世代が行うべき貢献の一つの形として、多くの区民の納得のいくようなサービスを創り出し、成功してほしいものだと思う。(了)

<参照>
トランジションタウン世田谷 茶沢会HP https://sites.google.com/site/ttsetagaya/home

 

世田谷サービス公社HP http://www.setagaya.co.jp/yanergy/

 

保坂展人氏のオフィシャルブログ「どこどこ日記」

http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/

◇筆者のプロフィール◇ 

 加藤春恵子(かとう・はるえこ)

  『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。  

 

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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