加藤春惠子(かとう・はるえこ)の

もう一つの日本      Alternative Japan

第30回 大磯エネシフトを訪ねて(前編)

~教会の庭に「みんなの発電所」が完成~

(大磯エネシフトのホームページから)
(大磯エネシフトのホームページから)


<大磯エネシフトの歩み>


 神奈川県中郡大磯町――。相模湾沿岸のほぼ真ん中にある、人口3万2千人

の小さな町だ。


 この町に2013年12月に誕生した、一般社団法人「大磯エネシフト」は、2014年4月、町内のマンションの屋上に「第1発電所」を開き、2015年1月には、カトリック大磯教会の庭に2号機「みんなの発電所」を開設した。


 いずれもパネル60枚、年間予測発電量1万5000kwh規模。1号機の発電実績速報によると、大磯の日差しを浴びて、順調なスタートが切られている様子だ。


 マンションオーナーや、大磯教会の人々とその背後の西湘(注1)地区の諸教会、さらにはカトリックの横浜教区、並々ならぬ熱意をもって電気工事を担当してきた地元の共電社、地域の金融機関である中南信用金庫、寄付その他様々な形で応援した地域の人々など、顔の見えるコミュニティの人々や機関の協力あってのことだとはいえ、エネシフトの人々の頑張りは、際立っている。


 特筆されるのは、今年4月1日から施行された「大磯町省エネルギーおよび再生エネルギーの利用の推進に関する条例」や、再生エネルギーの担当部署である「環境課」の設置(2015年4月1日付)など、大磯町ぐるみの体制づくりも進み、近隣の町にも影響を与えていることだ。

大磯町の省エネ・再エネ推進条例.pdf
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 冒頭の2号機点灯式の写真の前列には理事長・岡部幸江さん(右の写真の中央)。その左には、大磯町長・中崎久雄さん。右には、隣接する二宮町の町長・村田邦子さんの顔が見える。


 村田邦子さんは昨秋、町長に就任したばかり。町長に就任する前から大磯のエネルギー勉強会に個人として参加してきた。二宮町内には2016年半ばには町民の手でソーラー発電所の稼働をめざして「合同会社 グリーンエネルギー湘南」もすでに立ち上がっている。


 ここまで到達するうえで大きな力となったのは、2011年4月に早くもスタートした、大磯町民の手による密度の濃い学習会の存在である。 


 もともと風光明美なこの町の環境を守ろうろうとする活動が盛んだったところへ、3.11の衝撃を受けて、生粋の大磯っ子である環境社会学者舩橋晴俊さんや、環境関係の活動を積み重ねて町会議員となった渡辺順子さんらが立ち上げたエネルギー勉強会には、多彩な人々が集まった。


 それから今日までのこの町の人々の歩みは、次のようなものである。(注2)

太字の月は、町議会や町が取り組んできた事柄である。


◇2011年

4月 「エネルギ―勉強会」始まる

8月 舩橋さんを講師とする地域住民参加の勉強会

10月 映画『みえない雲』(2006)の上映と原作の翻訳者高田ゆみ子さんのお話会(図書館大会議室)

11月「町民立環境ネットワーク☆大磯」から大磯町と議会に対しPPS(新電力)の導入を陳情、議会で採択。約400万円の費用削減効果

 

◇2012年

2月 田中優さん(「天然住宅」共同代表)の講演会「3万人のまちからできること」(「海の見えるホール」)

3月 ISEP(環境エネルギー政策研究所)主催のコミュニティ・パワー会議に参加

5月 原亮弘さん(おひさま進歩エネルギー社長)の講演会&映画『シェーナウの想い』(「海の見えるホール」)


◇2013年

6月 コミュニティー・パワー・イニシャチブ」立ち上げイベントに参加

7月 大磯町議会で、自然エネルギーの導入促進に向けた制度の整備についての取り組みを開始。総務建設常任委員会に、講師舩橋晴俊氏・アドバイザー北風亮氏を迎え研修会1回・視察研修1回・勉強会10回・協議会3回を重ねて条例骨子案を作成

12月12日 「一般社団法人 大磯エネシフト」設立総会

 

◇2014年

2月 大磯エネシフト主催講演会「3万人のまちから エネルギーシフト」開始。舩橋晴俊さん(法政大学教授・大磯エネシフト理事)の講演会「自然エネルギーは地域のもの」(図書館大会議室)

4月 七沢潔さん(NHK『ネットワークで作る放射能汚染 地図』ディレクター)の講演会(図書館大会議室)

4月21日 ヴィラ山王屋上に「第1発電所」完成・点灯式

5月 飯田哲也さん(ISEP所長 )の講演会「自然エネルギーを私たちの町から」(「海の見えるホール」)

5月 「(仮称)大磯町省エネルギーおよび再生可能エネルギー推進条例」に関する議会報告会

6月 条例案につき関係団体との意見交換を始める

8月 町民説明会をはじめ、条例素案の作成と意見募集をへて条例案の作成へ

11月1日 青山の国連大学ウ・タント国際会議場で行われた国際シンポジウム『サステイナビリティとジェンダー』で岡部幸江さん・渡辺順子さんが「地域からのエネルギーシフト――3万人の町からできること」を発表

12月 条例案を議会に提出

 

◇2015年

1月25日  カトリック大磯教会に「みんなの発電所」完成・点灯式

4月1日  「大磯町省エネルギー及び再生可能エネルギー利用の推進に関する条例」公布・施行。町役場に「環境課 環境・エネルギー係」設置 


 じっくり見ていくと、小さな町で、大変密度の濃いスケジュールで、「勉強」の時間がもたれたうえで、実践のための組織が本格的にスタートし、発電所づくりと町議会・行政のレベルでの取組みが、同時進行していることがわかる。


 舩橋さんや高田さんという大磯在住の専門家や、3.11以来あちこちでひっぱりだこの観のあったパワフルなゲストスピーカーを招く――。


 続々と提供される、理性と感性に訴える情報を、質素な図書館の会議室や、駅前の丘の上にある、日本に一つしかないといってもいいほどすばらしい「海の見えるホール」等々、用意される「場」に自転車などで参集しては勉強する――。


 さらに親密な飲食の時間をもつこともあるといった経験を2年半にわたって積み重ねていくなかで、コアメンバーがはっきりするとともに、立場の違いを超えてかなりの程度まで「みんな」が参加できるかたちがつくられていった様子が見えてくる。


 青山での渡辺さんの報告(注2)によれば、大磯町では、1970年代から90年代にかけて、なぎさを壊すヨットハーバーの建設反対運動や第二水俣病を引き起こした会社の研究所建設への反対運動など、環境関係の真摯な住民運動があり、何れも中止に追い込むことに成功した。


 運動はそれだけで終わることなく、町長選挙で新町長を誕生させて、舩橋晴俊さんをコーディネーターとする「環境基本条例策定研究会」や、「まちづくり環境問題研究会」などが設立された。


 職員と町民が一体となって『大磯町環境白書』を作成し、1998年には「住民参加のまちづくり部門」で自治大臣表彰を受ける、といった「実践」「勉強」「協働」が結合した歴史をもっている。


 こうした歴史の中で学び、教えあった町民が軸になって、3.11を契機に、さらなる「勉強」の機会を創り出し、新たな参加者を加えて、エネルギーシフトに向けた町民立のオープンな塾のようなかたちがつくられたのではないかと考えれば、プログラムの充実ぶりや、細かな心配りも納得がいく。


 講演会のタイトルも、十分に練り上げられた、理性と感性の両側面に働きかけていくものが用意され、行動に向かって人々の心を動かしていったと思われる。


 2012年段階から岡部さんらがISEP (環境エネルギー政策研究所)によるコミュニティ・パワー関連の会議やイベントに積極的に参加して、横のつながりも豊かにしていくなかで得られた各地の情報も、大磯での活動の活性化に大いに役立っていたことは明らかである。


 このようにして、2013年12月に満を持して設立総会を行った「大磯エネシフト」には、すでに、誰に指名されるでもなく進んで理事を引き受ける多彩な人々が、自ら、立ち上がろうとしていた。


 11年4月から13年暮れまでの2年半にわたり、大きな場での催しと限られた空間での理論的・政策的な学習や忌憚のない討論、飲食を交えた親密な場での話し合いなどを含めて、じっくりと密度の濃い自己変革と相互理解の機会が用意された上で理事会が発足したことは、大磯エネシフトの基盤であり、財産だと言えるだろう。


 理事長となった岡部幸江さんは、福島県の南相馬市出身の主婦として、この町に住んでいたものの、3.11以前には、原発の危険についてはあまり考えたことがなかったという。


 しかし、この「勉強」の場に加わることを通して、被災地の「外」に出てしまった自分がこれからふるさとに何を返していくことができるか、考えた末、「福島の子どもたち」とこの町を結びつけるプロジェクトの芽がすでにこの町にあることに気付いた。


 そして、過去・現在・未来の自分がはっきりとつながって、発電という活動を通して、この町の新しいエンジン役を引き受けるリーダーとしての存在感を増したのだと思われる。


 岡部さんを理事長に選んだことは、大磯町で再生可能エネルギーに関する活動に携わる人々が、「福島」という原点を忘れたくない、という思いの証しでもあり、そのことは、「大磯エネシフト」に大きな力を与えていると思う。


 「福島」と言うキーワードのほかに、もう一つ、岡部さんら、大磯エネシフトの担い手たちの心に刻まれているキーワードは、「舩橋さんの死」である。


原子力市民委員会をけん引してきた舩橋晴俊さん(右から2人目)=第2回原子力市民委員会で
原子力市民委員会をけん引してきた舩橋晴俊さん(右から2人目)=第2回原子力市民委員会で

 法政大学教授としての研究・教育の仕事のほかに町内でリーダーシップを発揮しつつ、さらに、全国レベルの「原子力市民委員会」(2013年4月発足)の座長を引き受け、『市民がつくった脱原子力政策大綱』(2014年4月刊 宝島社)をまとめるなど、日本の脱原発市民運動の推進役として日夜働いていた舩橋さんは、2014年8月15日、くも膜下出血のため急逝した。まだ66歳。脱原発のための活動死とでもいうべき、惜しまれる最後だった。(注3)(注4)


(後編に続く)

*後編は4月18日発刊のこがねいコンパス第71号に掲載します。


こがねいコンパス第70号(2015年4月4日更新)

 <注>

(注1)「西湘」とは、相模川以西の平塚市から、大磯町・二宮町・小田原市を経て、県境の湯河原町までを含むとされているが、二宮町・大磯町は湘南とされることもある。なお、海沿いの市や町のほかに、箱根町・中井町・大井町・開成町などの、内陸の町も、西湘とされる。

(注2)この稿は、2014年11月1日に青山の国連大学で行われた国際シンポジウム「サステイナビリテイとジェンダー」における、岡部幸江・渡辺順子さんの発表資料の記述に多くを負っている。

このシンポジウムでは、岡部幸江さんと渡辺順子さんが分担して「地域からのエネルギーシフト――3万人の町からできること」と題する発表を行った。岡部さんが大磯エネシフトの活動を、渡辺さんが条例策定や住民運動面での大磯町をとりあげているため、大半は岡部さんの資料によっているが、70~90年代の環境破壊を防ぐための運動・学習・調査等の展開については、渡辺さんの資料から多くを学んだ。(お二人の資料は、下のファイルをクリックするとご覧いただけます。)

国際シンポでの岡部さんの報告資料.pdf
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国際シンポでの渡辺さんの報告資料.pdf
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(注3)『こがねいコンパス』には、佐藤編集長による舩橋さんの単独ロングインタビューが2回に分けて掲載されている。


(注4)大磯は、実は私が戦時中だった5歳の頃から20代の半ばまで住んだところ。舩橋さんとは直接お会いしたことはないのだが、こちらも人生半ばで倒れてしまわれた大磯小学校高学年の受け持ちの熱血教師・野川富子先生から「私には2人も社会学をやることになる教え子がいたのね」と聞いたことがある。言わば、「間接の知人」であった。

大磯エネシフトの息吹に触れる度に、舩橋さんや、彼を育てた先人の一人である野川先生の「いのち」が、町民の活動の中で生き続けていることを実感している。


加藤春恵子(かとう・はるえこ)さんのプロフィール

 

『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」、NPO法人「こがねい市民発電」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。小金井市桜町在住。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

こちらから

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コンパスは「羅針盤」です!

 

 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

 『コンパス』は、羅針盤を意味します。辞書によれば原義は「ともに歩くこと」です。市民が市政をより深く理解するための一助となり、よりよい小金井市政のあり方を考えるときの羅針盤でありたい。市民のみなさんと一緒に歩んでいきたい。そんな思いを込めています。

 

 

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