加藤春恵子の

もう一つの日本    Alternative Japan

第3回 「毛細血管の先」からの「渦巻き」 ~鎌仲さんとの出会い~

 

 遅まきながら私がドキュメンタリー映画監督・鎌仲ひとみさんという存在に出会ったのは、今年の4月。

 

 先月のコラムでご紹介した、信州上田で「相乗りくん」を始めたNPOの代表、藤川さんが、『六ヶ所村ラプソディー』と鎌仲さんという人との出会いがなかったら自分はこの仕事に踏み込むことはなかった、と話すのを聴いたときである。

 

 同時代にこんなにも人の心を動かし、運命を決める作品がつくられているというのに、ろくに知らないなんてもったいない。遅くはない、と痛感した。信頼できる人の口コミで、心が動いて、スイッチが入ったのである。

 

 そこで、5月の連休には旅行したつもりで渋谷のアップリンクに通い、鎌仲作品の上映を観てトークを聴き、アマゾンからDVDや著書を買い込んで家にこもり、東京にとどまったままで鎌仲ワールドへの旅に出ることにした。

 

 核と向き合った10年の歩み

 大資本によるテレビ支配の激しいアメリカでたたかい取られた、市民が番組を制作してオルタナティブなチャンネルで放送する権利――その実現のための活動の中心的存在である、ペーパー・タイガーというNPOでみっちり修業して、何のためにどのようにドキュメンタリーをつくるかを学び、90年代後半に帰国した鎌仲さんは、グループ現代に参加して、NHKのドキュメンタリー制作に携わる。

 やがて、自分の問題意識と既存メディアの許容する表現とのギャップを痛感し、独立プロ作品の監督としての歩みを始める。

 

 以来、『ヒバクシャHIBAKUSHA――世界の終りに』(2003)、『六ヶ所村ラプソディー』(2006)、『ミツバチの羽音と地球の回転』(2010)、『内部被ばくを生き抜く』(2012)と続く彼女の作品のテーマは、一貫して人間の生命を脅かす核にかかわるものだ。4つの作品と2つの撮影現場からの通信を観て、私が特に感銘を受けたのは、『ヒバクシャHIBAKUSHA』と『六ヶ所村ラプソディー』である。

 


映画『ヒバクシャHIBAKUSYA』から
映画『ヒバクシャHIBAKUSYA』から

 内部被ばく

  『ヒバクシャ』によって、私は改めて、「内部被ばく」という言葉の重さを知ることができた。米軍により劣化ウラン弾が大量に落とされた湾岸戦争後何年もたったイラクで白血病に苦しむ子どもたちも、米国ハンフォード核施設の風下に子どもの頃から住んで多くの友だちを白血病で失い自らも家族も病に苦しんでいるアメリカ人も、原子爆弾が落とされたときに外部被ばくはしなかったものの後に発症し今なお肥田舜太郎医師の治療を受け続けている広島・長崎出身の人びとも、内部被ばくによる被害者であることに変わりはない。

 

 このことを、自ら内部被ばくの危険を冒して不発弾などが転がっているイラクの現地に身をさらし、さらに核関連施設の風下にある米ワシントン州のハンフォードを訪ねて、鎌仲さんは明らかにしていく。旅する彼女に同一化しながら、ともすれば外部被ばくのイメージに引きずられて見落としがちな核による被害が、内部被ばくというキーワードによって浮かび上がり、つながってくるのを、観客は経験する。

 

 最新作『内部被ばくを生き抜く』は、より明確に「内部被ばく」というキーワードをタイトルに打ち出したことで、「ただちに健康に被害はない」といった無知な言説が人々を混乱させるような時代に終止符を打たせるであろうと思われる。

 

 鎌仲作品は、上映会、それも多くの場合、監督自身のトークを伴った上映会を通して人びとの心に届けられており、DVDはそうしたプロセスがかなり進んだ後に発売されるのが常であったが、『内部被ばくを生き抜く』に限っては、封切りとDVD発売が同時という形が選択された。

 

 福島周辺では、いま、内部被ばくをめぐる理解のギャップが埋められないために、多くの人々が苦しんでいる。親密な筈の家族や友人の間のコミュニケーションが困難になり、家族の崩壊や友人関係の断絶さえも起こっている。

 そうした状況を知った鎌仲さんや制作関係者は、できるだけ早く、上映会に来ようとしない人々にも情報を届け、DVDを対話の手がかりにしてほしいと願って、同時発売形式をとったのだという。

 

 内部被ばくの危険にさらされつつ被害を懸命に避けて生き抜かなければならないのは、福島の人々だけではない。今日、この国の多くの人々にとって、内部被ばくは自分の問題であり、家族、とりわけわが子の問題だ。さらには原発を持つ国、持とうとしている国、原発を他国に売りつけようという国の人々にとっても、内部被ばくの問題は重い。鎌仲さんが、内部被ばくというテーマにこだわり続けていることの意味は大きいと思う。

 

 

 

映画『内部被ばくを生き抜く』のチラシから
映画『内部被ばくを生き抜く』のチラシから

 原発と日本社会

  『六ヶ所村ラプソディー』は、使用済み核燃料の再処理工場の風下で農業を営む人々が受ける被害・苦悩を取り上げるとともに、再生処理工場で働く子煩悩な父親の話にも耳を傾け、しっかり管理してもらっているから安心だと語りながらふと漏らす不安感をも、見逃すことなく表現している。

 

 六ヶ所村で再処理工場に対する反対派と賛成派に引き裂かれて生きている人々の双方にまなざしを向け、耳を傾け続けたこの作品は、原発反対派と賛成派に引き裂かれている21世紀前半の日本社会を変えていく鍵を秘めていると私は思う。

 

 脱原発への思いを抱きながらも、自分が、自分の家族が、日本が、生きていくためには、原発の存在は仕方がない、と思ってしまいがちな私たちの心の中を、鏡に映すように描きだし、そんな自分が実は不安にさいなまれており、自分の生き方が隣人の生活をおびやかし破壊してしまうことに気づかせる。

 

 そして、もう一つの生き方を可能にする社会を求めて動き出し、自分を変えていく。すでにこの作品によって人生を変えたという人々の証言を聴いて、これからも、この作品の持つ力が、さまざまな立場の人々を動かしていくのではないかと期待するのは、甘いだろうか?

 

 不安と向き合い、希望と決意を持って、核の時代に別れを告げ、新しい地域社会を創り、もう一つの日本を創っていこうとする人びとのためのメッセージが、10年の間に、小柄でほっそりした鎌仲監督と彼女を支える多くの人々の力で4作も生み出されている、というのは、本当に驚くべきことのように思われる。 

『六ヶ所村ラプソディー』から
『六ヶ所村ラプソディー』から

 

 鎌仲さんの作品の魅力に遅まきながら目覚めたころ、幸いにも鎌仲さんと対話する機会を与えられた。詳細は、編集長が特別インタビューという形でやがて報告されることと思う。ここでは、特に印象に残っている2点について、私が受け止めた限りのことを書いてみたい。

 

 誰に向けて発信するか?

 第1点は、彼女のコミュニケーションの主な相手は誰か、という点である。

 鎌仲さんのコミュニケーション力に感服して、つい依頼心を起こした私は、これまで原発の時代を生きてきて自らのアイデンティティを捨てられないままに社会の決定権を握り続けている男性たちを何とか説得しては下さいませんか、と愚問を発してしまった。「そうした人々とは一番あとに話すでしょうね」というのが彼女の答えだった。

 

 彼女の作品の上映会やトークの参加者は、主として女性や若者だ。社会の意思決定を担っていると自負している主流派の男性は、あまりやってこないし、鎌仲さん自身も直接そうした人々を念頭に置いて作品を制作したりトークをしたりしよう、などとは考えないという。

 

 「毛細血管の先」からの「渦巻き」

  鎌仲さんの表現を借りれば、彼女は、「毛細血管の先のほうから」体が活性化していくように、社会の周縁からこの国を元気にしていく発信者なのだと思う。

 

 地域の日常の中にいる女性や若者たちが、上映会を企画する中で出会って話し合ったり、作品を見たり、彼女に質問を投げかけてトークを促したり、ツイッターに集会やデモのお知らせを投稿したり、感想をつぶやいたりしてつながりあい、ミツバチの羽音のように「渦巻き」を起こしてブンブンという声を響かせ、政策決定権をもつ人々のいる中心部に影響を与えていく、そんなイメージで彼女は作品を投げかけ、対話を続けている。

 

 鎌仲さんは、絶叫したり、押しつけがましく説教したりはしない。無知の中に眠っている人々を、責めたり、ばかにしたりしようともしない。

 

 自分もまた無知から出発していることをかくそうとはせず、ひとつひとつ素朴な質問を重ねて得た事実を提示し、様々な人の言葉を日常の中から引き出して、見る人・聞く人の理解に委ねていく。

 

 そのことがかえって説得力を増すのである。そのような作品に触れて意見や知識を持つようになった人々が、鎌仲さんの語り口にヒントを得ながら、世の中を担っていると信じている主流派の男性たちに働き掛ける。

 そのようにして社会は変革されていくのだ、と鎌仲さんは実感し、願っているようだ。

 

 『内部被ばくを生き抜く』に限らず、彼女の作品のDVDを家族や親密な関係の中で一緒に見て話し合うことで、経済面での意思決定に影響が及ぶこともあり、政治が変えられていくこともあるだろう。上映会と併せて、DVDの活用は、毛細血管の先から心臓部へ、いのちの声が届くスピードを速めていくのではないだろうか。

 

加藤春恵子さんと話す鎌仲ひとみさん=東京・新宿の喫茶店で
加藤春恵子さんと話す鎌仲ひとみさん=東京・新宿の喫茶店で

聴く力を持った若手を育てる 

 第2点は、ドキュメンタリーの若手制作者を育てる、ということについてである。トークやインタビューで次の作品はどんなテーマですか、と質問される度に、温めているテーマを公言するということにはメリット/デメリットがあることを経験してきたし、これまでの4作の上映会に参加してトークをするということも、エネルギーシフトを進めるために大切だと思う、と彼女は答えている。

 

 そんな鎌仲さんが大切にしているのは大学での授業だ。忙しくなった鎌仲さんは、常勤の教員職は辞したものの、非常勤講師として多摩美術大学でドキュメンタリー制作に関する授業を行っている。

 

 ある日の授業の光景を、彼女は楽しそうに語ってくれた。「福島事故以来原発について思っていることを何でも話してほしい。誰もあなたを批判しないし、私も批判しないで聴くから」と述べたところ、まず口火を切った女性が肯定的な立場で原発を語り、次々に思っていることを話していって、終わりのベルが鳴ってもなかなか立ち去り難い雰囲気。やがて学生の中から、その授業をきっかけにして、すぐれた短編ドキュメンタリーがつくられたという。

 

 たしかに、鎌仲作品の魅力は彼女の「聴き手としての力」だ。澄みとおった声でカメラの後ろから質問したり相槌を打ったりする彼女にいざなわれて、相手は心の奥底を語り始める。何の迷いもないように見えていた相手がふと見せる心の揺れを引き出し、深追いすることなく、観客の心に届けて、そこから観客が一人で考えを進めたり、語り合うことで発見をしたりする。

 撮影の途中で、制作者の心のなかにも様々な意見が生まれ、チームの中にも対話が生まれて、創造的な発見が引き出されてきたりする。そんなプロセスに不可欠な、聴く力、向き合う力、対話する力を育てる授業に、鎌仲さんは、多忙な日々の中で力を注いている。自分ひとりで力んで背負い込むのではなく、若手の発信者を育てていく作業を大切にしている様子だ。

 

 確かに、世直しは大変である。しかし、自らコミュニケーションの起点となり、新たな起点となりうる人々を育てて、渦巻きぶんぶん型の世論モデルをイメージし、実践している鎌仲さんにエンパワーされて、いま日本のあちこちで元気に動き出している人々がいることは、間違いない。ドキュメンタリー制作や市民活動に限らず、活動領域は多様である。

 

 小金井での『内部被ばくを生き抜く』の上映会とトークも、日本各地での上映会と同様、私たちが、やりたいこと、なすべきことを発見し、自分の中にある可能性に気づき、ぶんぶんという渦巻きに加わり、生命の風を強めていくきっかけとなることを確信している。(了)

 

 

 

<参考資料など>

 鎌仲ひとみ・金聖雄・海南友子『ドキュメンタリーの力』(2005年、寺子屋新書)

肥田舜太郎・鎌仲ひとみ『内部被曝の脅威』(2005年、筑摩書房)

鎌仲ひとみ『ヒバクシャ――ドキュメンタリー映画の現場から』(2006年、影書房)

鎌仲ひとみ・ノーマ・フィールド『六ヶ所村ラプソディー』(2008年、影書房) 

飯田哲也・鎌仲ひとみ『今こそ、エネルギーシフト』(2011年、岩波書店)

 

『ヒバクシャHIBAKUSHA世界の終りに』(2003)監督 鎌仲ひとみ 制作・グループ現代=DVD発売中

『六ヶ所村ラプソディー』(2006)監督 鎌仲ひとみ 制作・配給グループ現代=DVD発売中

『六ヶ所村通信』(2004~2008)監督 鎌仲ひとみ 制作・配給グループ現代=DVD発売中

『ミツバチの羽音と地球の回転』(2011)監督 鎌仲ひとみ 制作・配給 グループ現代=DVD近日発売予定

『ぶんぶん通信』(2009~2011)監督 鎌仲ひとみ 制作・配給グループ現代 =DVD発売中

『内部被ばくを生き抜く』(2012)監督 鎌仲ひとみ 制作・発売・配給 環境テレビトラスト=DVD発売中

 

◇筆者のプロフィール◇ 
 加藤春恵子(かとう・はるえこ) 『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。 

◇『ヒバクシャ』『六ケ所村ラプソディー』『ミツバチの羽音と地球の回転』の作品詳細、自主上映会情報、DVD購入についての詳細は
「ミツバチの羽音と地球の回転」公式ホームページへ
http://888earth.net
 
◇最新作『内部被ばくを生き抜く』
DVDのご購入、自主上映のお申し込み、作品詳細は
「内部被ばくを生き抜く」公式ホームページへ
http://www.naibuhibaku-ikinuku.com/

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

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*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

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後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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