加藤春恵子(かとう・はるえこ)の

もう一つの日本      Alternative Japan

第23回 「三田の家」からの贈り物

         ――「もう一つの社会」への鍵

これが「三田の家」です(「シェアする暮らしのポータルサイト」から)
これが「三田の家」です(「シェアする暮らしのポータルサイト」から)

 

 

 知る人ぞ知る「三田の家」は、大家さんの逝去などの事情で、2006年10月から7年間の活動を終え、2013年10月にクローズした。

 

 いよいよ取り壊しが行われようという今年(2014年)1月19日の午後、最寄りだった田町駅から一つ先の品川駅近くで、「ふりかえりの会」が開かれた。

 

 遅まきながら昨秋から「三田の家」のことが気になっていた私は、「ふりかえりの会」に参加する機会を得て、そこで、立ち上げ以来さまざまな形でかかわってきた方々の人柄に接した。そのあと、関連の書物を読み、多くを学び、共感するところが少なくなかった。

 

 「ふりかえりの会」には、「三田の家」づくりのきっかけを提供し、その後も深くかかわってきた熊倉敬聡さん、立ち上げから尽力し続けている坂倉杏介さん、オープン後に「日替わりマスター」としてコミットしてきた手塚千鶴子さんら、慶応大学のスタッフ(注1)の人たちや、ボランティアとしてかかわってきた人びと、「三田の家」での集まりに参加したことのある学生、近隣に住んだり働いたりしている市民、卒業生等々、100人近くが参加した。

 

 会の前半には立ち上げの前後の状況が語られ、後半には、ワールドカフェ式にテーマを募集してのグループによる話し合いが行われた。あらかじめ参加者の挙手によって、参加者の大半が地域で何らかの「場」を創って活動していたり、これから作ろうとしている人々であることが確認されていたので、単なる思い出話ではなく、「三田の家」の「歴史」から、それぞれの参加者が何を受け取り、これからの活動にどのように活かすか、ということに焦点が絞られた。活発で、暖かな、気持ちのいい集会だった。

 

きっかけとなった

 「美学特殊C 21世紀的生(活)の『美学』を求めて」

 

 「三田の家」での公式の活動は2006年、慶応大学・三田キャンパスと田町駅の中間のところにある築40年ほどの民家を、三田商店街理事会のバックアップを得て熊倉・坂倉氏たちが借用し、内装を目的に合わせて半ば手作りで改め、広めのリビングとキッチンを中心とする、なつかしい「おばあちゃんの家」のような「場」を創ったことから始まった。

 

 しかし、それには、驚くべき「前史」がある。2002年の春に、熊倉さんが、かねてから疑問に思いつつも続けていたオーソドックスな講義スタイルを改め、美学専攻の「美学特殊C」に斬新な講義要項を掲げたのがそもそものきっかけだ。

 

《19世紀・20世紀は、少なくとも「先進国」において、資本主義が生(活)をデザインする主要なロジックを構成していました。(中略)21世紀が始まりつつある今、生(活)のデザイン、「美学」も大きく変わりつつあるのではないでしょうか。どんな生(活)の形・スタイルが、これから「美しい」のか? そして「幸福」につながるのか? 皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 

授業では、以下のようなテーマを扱う予定です。

(脱)芸術、カフェ的なもの、「弱い」主体たち、セルフ・エデュケーション、身体のエロス化、ジェンダー、NPO、ヴォランティア、地域貨幣、複属・複業、持続可能な環境、「小さい」メディア、知と体験の融合、インター・キャンパスなど。

 授業の形式は、いわゆる講義形式をとらず、皆さんと一緒に試行錯誤しながら「作って」行きたいと思います。ワークショップ、あるいはキャンパス外の体験型プログラムも行っていきたいと思います。》

 

 これを読んで様々な専攻の学生や大学院生が、ひとつの専攻の講義としては異例なことに60人も集まり、その中に「三田の家」づくりの仲間となった坂倉杏介さんもいたという。

 

 キャンパスの内外での「場」づくりのプロジェクトも含めてアクティブな「授業」を展開し、その延長線上に「三田の家」づくりの歩みが始まることとなったのだ。(注2)

 

 5年がかりで場所を見つけて契約。当初は大学から若干の援助は獲得したものの、基本的には、会員制によって会費収入を確保し、「三田の家LLP(有限責任事業組合)」を設立して独立の民間組織として運営することとした。

 

 教員のボランティアによる「日替わりマスター制」などを採用して、月曜から金曜までは、午後4時半ごろから商店街で材料を仕入れて台所で食事をつくる。食事も飲みものも実費をそれぞれが支払い、ゆとりのある「大人」は任意の「こころづけ」を上乗せするなどして、一部の教員への負担も減らす。学生にはアルバイト費用も出す――。

 

 そんな工夫をして、運営が成り立つようになった。区などから補助金を受けることもなく、夜の集まりが心おきなくできるかたちを築いていった。

 

 何が行われたのか?

 

 三田の家では、臨機にイベントも開かれるが、平日は上述のとおり、日替わりマスター制で運営されていた。ジェンダーを問わず料理上手のスタッフが多く、キッチンで手を動かしながらのコミュニケーションも盛んだったという。

こんな感じで調理中(「シェアする暮らしのポータルサイト」から
こんな感じで調理中(「シェアする暮らしのポータルサイト」から

 

 月曜日は、異文化コミュニケーションやカウンセリングのスペシャリストである手塚千鶴子さんをマスターとする留学生と日本人学生等との集まり「小さな国際交流」が息長く行われており、若者たちにとって貴重な成長の場となっていた。

 

 「三田の家」の仕組みや活動や関わった人々の経験や想いの詳細については、生き生きした写真と共に、2010年刊行の『黒板とワイン』(慶応義塾大学出版会)に記録されている。

 

 びっしりとスケジュールで固められた現代生活の中にあって、取り立てて「目的」を定めることなく、ゆったりした自由参加の場を設けることで、多様な人々のコミュニケーションの場を用意し、その中で不可測な出来事をも受け止め、自分の役割をもその場に応じて創り出してゆくことのできる人格が育てられていき、知も花開いていく――。

 

 そんな思いがこめられた「家づくり」であったように思われる。

 

 21世紀を開く

 

 「三田の家」が閉じられた後、関わった人たちは、何をしていくのだろうか? 私自身も含めて「三田の家」の活動を知った人びとは、何をそこから得ていくのだろうか?

 

 先述の「小さな国際交流」を重ねてきた月曜マスターの手塚千鶴子さんは、「三田の家」クローズ後も場所を見つけてこのプロジェクトは続けたいと、「ふりかえりの会」で抱負を語られた。

 

 どこの地域社会でも――とりわけ小金井のような大学が多く留学生の多い地域社会では――このような心のこもった小さな国際交流の場づくりが必要であろう。

 

 私の大学教師生活の経験でも、留学生は自国語の通じる仲間と行動しがちで、日本人学生との交流の場を創ることは、本当に難しかったのを思い出すと、手塚さんの積み重ねてこられた場づくりの工夫から、学ぶことの必要性を痛感する。

 

 坂倉杏介さんは、すでに始まっている港区との協働プロジェクト「芝の家」の運営に関わっており、高齢者や子供たちも含めた地域コミュニケーションの場をつくっている。港区では、さらに他の場所にも同様の「家」づくりを進めつつあるという。

 

 一方、熊倉敬聡さんは、新たなNPO活動を始めるとともに、2012年の『汎冥想――もう一つの生活、もう一つの文明へ』(慶応大学出版会 新書版)、2014年1月に出版されたばかりの『瞑想とギフトエコノミー』(サンガ)で、21世紀の世界を開くための、実践を踏まえた思想を展開している。

 

 「瞑想」などというとオウムの時代を思い出してしまいそうで、遠ざけたくなる人も少なくないと思われるが、若者たちは今も「超資本主義社会」、すなわち生活・意識・感覚の隅々まで資本主義に支配されてしまった20世紀的な社会のなかで、あえいでおり、オウム的なものやファシズムに誘い込まれる危険にさらされている。

 

 超資本主義の時代を乗り越えるには、カリスマに振り回されない「瞑想」の力が必要だと考える人々は少なくなく、「安全」な「瞑想」の方法は受け継がれ、発展させられている。

 

 熊倉さんは、どこかに引きこもって行うのではなく、生活体験の一つ一つを大切に受け止め、意識的に行っていく「汎冥想」を求めてフランスの田舎にあるプラムヴィレッジの宿泊研修に参加したり、日本で開かれている「エコヴィレッジ・デザイン・エデュケーション」(EDE)にパートナーや1歳の娘とともに参加したりして、そこで体験したことをわかりやすく報告している。

 

 さらに、今年に入って「ギフトエコノミー」と言うキーワードを提示し、「私たちの『寄付』や『贈与』の営みが『社会のかたち』を変えるために」必要であることを明らかにした。

 

 「『贈与経済=ギフトエコノミー』の実現に向けて」、「『贈与』の思想が『交換』の原理に侵されることなく持続可能な経済システムとして自立するためには、『瞑想』による精神性の変革が必要である」として、『瞑想とギフトエコノミー ―― 資本主義を乗り越える「脱執着』の知恵』を著した。青年時代の文学研究と最近の実践を関連づけ、再編成して、21世紀を開くための道筋を呈示したのである。(注3)

 

 「三田の家」で行われたマスターたちやサポーターたちの活動は、今この国で展開されている数々のNPO活動やクラウド・ファンディングなどに顕著な寄付活動とともに、「ギフトエコノミー」に向けた実践であり、動きであると、熊倉さんはとらえている。

 

熊倉さん(左)と、塩尻で「三田の家」の精神を実践している山田崇さん=1月19日のふりかえりの会で
熊倉さん(左)と、塩尻で「三田の家」の精神を実践している山田崇さん=1月19日のふりかえりの会で

 1月19日の集会で、「三田の家」からの贈り物として何を受け取るべきかを語り合った人びとも、また、『黒板とワイン』や熊倉氏の近著を読む一人一人も、クールに、かつホットに、贈り物を大切に受け止め、それぞれの人生に、それぞれの住む地域に活かしていくことであろうし、私もまたその一人でありたいと思う。

 

(終わり)
 
こがねいコンパス第45号(2014年2月1日更新)

(注1)慶応大学理工学部教授であった熊倉敬聡さんは、現在は京都造形芸術大学芸術学部教授に。 

(注2)熊倉敬聡・望月良一・長田進・坂倉杏介・岡原正幸・手塚千鶴子・武山政直(編著)『黒板とワイン』慶応義塾大学出版会 2010.pp、116-117。同書は、「三田の家」の活動を詳しく紹介しており、「場」づくりや地域に開かれた大学づくりのヒントを与え、21世紀を開く手がかりを与えるものとして、広く読まれている。

(注3)前のパラグラフとこのパラグラフの「 」内は、同書の帯より引用。

 

加藤春恵子(かとう・はるえこ)さんのプロフィール
 『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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コンパスは「羅針盤」です!

 

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