加藤春恵子(かとう・はるえこ)の

もう一つの日本     Alternative Japan

第13回 福島県いわき市を歩く(後編)

――3月、久之浜(9日)から

  勿来(10日)、南台双葉町(11日)へ――

グーグル・マップから
グーグル・マップから

 

 南台に住む双葉町の人々

 
 3月11日の朝、一日に5本しかない復興支援バスに乗って、いわき市内の南台へ。


 福島の浜通りのなかでは比較的放射線量が低い地域が多い、いわき市には、隣接の双葉郡の福島第一原発立地自治体の大熊町・双葉町をはじめ、同郡内の広野町・楢葉町・富岡町・浪江町からも多くの住民が避難しており、双葉町は勿来地区の高台の工業団地に用意された仮設住宅に240世帯がまとまって住んでいる=下図。

 

 

 双葉町については、埼玉県の加須市に役場機能を移し、廃校になった学校校舎に避難して共同生活を送っている人々を取り上げたドキュメンタリー作品『原発の町を追われて~避難民・双葉町の記録』を見た際に、トークに参加された住民と話したことがあり、井戸川町長が辞職して3月10日に町長選挙がおこなわれるということにも注目していたので、ぜひ南台に、と思ったのだ。

 

 30分ほどで、南台団地の真ん中の「双葉町サポートセンター ひだまり」の真ん前の終点に到着。周りの住宅やミニスーパーの店舗がすべて仮設の建物であるなかで、太陽を燦々と浴びてひときわ目立つ、「ひだまり」の名にふさわしい縁側つきのかなり大きな木の香も新しい建物がそこにあった=下の写真。

 

 広間では、60代後半以上といった感じの30人ほど(男性3人を交えて、ほとんどが女性)が集まって、サロンを開催中だった。

 

 昨日紹介していただいた、双葉町社会福祉協議会が運営するこの「ひだまり」の生活援助員の北村雅(きたむら・ただし)さんが、ユーモラスな挨拶でみんなの笑いを誘い、私のことも紹介してくださってから所用で出かけられたあとは、女性職員2人が担当する。


 やがて、いわき市のボランティアの女性2人が現れて、フェルトでチューリップをつくる工作を教え、チューリップに見えるか見えないかなどなど、笑いがはじけるひととき。

 

 とにかく家の中にいると気が滅入るので、ここに来るとほっとする、と話してくださった方の実感が身にしみた。

 

「ひだまり」で=筆者撮影
「ひだまり」で=筆者撮影

 工作の手を動かしつつ、一人一人からぽつぽつ伺ったところでは、それぞれに着の身着のままで避難態勢に入り、数か所を転々として、ここにたどり着き、おなじみの「双葉町」の職員に相談したりサポートしてもらったりすることができて安心している様子だ。


 とはいっても、家族があちこちに散っていることから来る心配事も多く、同居あるいは近居していても、東電関連に勤務して危険な仕事に従事しているというケースもある。

 

 東電勤務の息子が、第1原発で収束作業に従事してきたため、定められた放射線量を超えてしまい、第2原発に職場が移ったところだ、という重い現実を打ち明けられた方もある。

 

 原発関係の作業員というと地域の住人とは別によそから働きに来ている人をイメージしてしまいがちなのだが、被災者となってしまった地元の住人も多く原発で働いており、被害を与えてしまった人々に対して申しわけない気持ちにかられながら、使命感を持って収束と廃炉に向けた作業に励んでいる人たちや、その家族も少なくないことを改めて確認した。(注5)


 福島県の政治情報誌『政経東北』3月号によると、議会に不信任決議をされ辞職した井戸川前町長が、町への帰還時期について「暫定的に30年後とする」との見解を示していたことや、3 月10日の選挙で新町長に伊沢史朗氏が決まり、汚染物質の中間貯蔵施設建設のための調査の受入問題も具体化してくるにつれて、長いこと帰還がかなわなくなるという不安・あきらめ・覚悟などが、双葉町の人びとの心をとらえている。

 「ひだまり」の玄関には、山野草の鉢植えがいくつか飾ってあり=写真、それを提供した男性がしみじみと見入っているのに出会った。

 

 原発のすぐそばに広い庭を持ち、500鉢程育てて楽しんでいたのだが、原発へのヘリコプターによる海水投下の際に水浸しになり、ほとんど枯れ果てただろうと話された。ここにある鉢植えは、避難後に山で採ったものなどを育てて、皆さんに見ていただいているのだという。

 

 すぐそこにある故郷に、我が家に、命ある間は帰れないのではないか・・・。

 

 双葉町の人々がいま歯をくいしばって耐えている、そうした不安や悲嘆を、決して他の人たちにまで繰り返させてはいけないと、脱原発の必要性を、心底思わずにはいられない。


 午後からは、若手の僧侶6人の読経により、町主催の大震災2周年の法事が、「ひだまり」の脇の広場にテントを張り、強風に備えて2台の消防車を配置して行われた。南台の240戸の仮設住宅居住者のうち、死者を出した2家族を中心に、焼香の列が続いた。


 取材に来ていた『福島民報』の記者に駅まで乗せていただいた。この新聞は、ライバル紙と比べて読むと、住民に密着して取材し、親しみやすい紙面づくりをしており、一連の原発事故報道は2012年度の新聞協会賞を受賞している。

 同紙の2013年3月11日付け朝刊は実に60ページ。スポーツ欄とラジオテレビ欄を除けば何らかの形で災害・放射線量・復興・元気回復・鎮魂・再エネ等の記事を扱っている。

 

 原発そのものを扱った記事はこの日はほとんどなかったが、原発が立地している双葉町の町長選挙の結果が1面トップに取り上げられ、風力発電に関する記事も、わかりやすい挿絵入りで大きく掲載されていた=右の写真。

 

 洋上風力発電のまちへ?

 

 今回は、いわき市の北と南の端にこだわって、中心のいわき駅のある平(たいら)地域や、風力発電の拠点として期待されている小名浜港には行くことができなかった。

 

 小名浜港は、常磐炭鉱の石炭積み出し港として石炭主力の時代を支え、石油がエネルギーの主力となった現在は、タンカーが入港しオイルタンクが立ち並ぶ輸送基地として重要な役割を果たしている。

 

 この港が、洋上風力発電の拠点として、再生エネルギーの時代を担うべく動き始めているのである。

 

 日本の海は、遠浅のところが少ないため、ヨーロッパですでに大きく発展している「着床式」、すなわち海の底に支柱を立てる方式の風車には向かないところが多い。

 

 そのため、今後の開発課題となっている「浮体式」の洋上風力発電の研究が、長崎県の五島や博多湾などで行われており、それに小名浜が加わろうとしている。

 

 小名浜港をベースとするプロジェクトは、世界初の高さ200メートルの巨大風車を組み立て、港外に、チェーンなどで海底に固定するという形で設置し、技術力を高めて、日本の洋上発電を本格的に進める足掛かりとすべく、大企業10社と東京大学とがコンソーシアムを形成して、経済産業省から委託を受け、実証研究を行おうとするものだ。

 

 前掲の『福島民報』の、計画中の風車の仕組みを示した図は、「再生エネは救世主?」「技術開発や実用化 先行き不透明」「漁業者の理解必要」などの見出しで囲まれ、現段階で県内には、不安や反対、あるいは慎重意見があることを示している。


 風力発電に関する記事の下段では、太陽光発電について、「産総研が郡山市に整備する研究拠点施設は平成26年の開所予定で、世界最先端の太陽光発電装置の開発を進める」と伝え、これについてはさほど留保的な記述はなく、再生可能エネルギーの産業集積を図ろうとする計画が具体化しつつあることを伝えている。


 21世紀の新しいエネルギーの一大拠点をめざす福島県であるが、いわき市に限って言えば、目玉はようやく実証研究を始めようという段階にある、洋上風力発電の大型化である。

 

 若い人々に夢を与え、県の人口減少の歯止めとなると期待されている次世代のエネルギー産業が、原発のように、想定外の大災害を、浜通りのひとびと、とりわけ放射能汚染のために今も漁に出られない双葉郡やいわき市の漁師たちのうえにもたらすことがあってはならない。

 

 慎重なうえにも慎重に、「結論ありき」の押しつけを排して、計画そのものの段階から改めて世界・日本の叡智を集めて検証し、研究のいかなる段階であっても、問題があれば公表して、問題を解決できなければ潔く撤退する勇気を持って取組み、日本がフクシマの事故から心底学んだのだ、ということの証しを示すことができるよう願わずにはいられない。

 

(終わり)

こがねいコンパス第27号(2013年4月20日更新)

<注>

(注5)資料に挙げた門田氏の著書は、地元の書店に平積みになっており、身近なところで現在進行中で、これから少なくとも数十年続く、生と死をかけた戦いを扱っているドキュメントとして読まれている様子だ。

 戦記物を手掛ける作者だけに、私には少々違和感があったが、あこがれの東電に入社してプラントエンジニアの修業中の若者が同僚1人とともに、定期検査中の第4原発の地下の点検を命じられ、ポンプ室に漏洩を発見して電話連絡をしながら対処している最中に、そこで津波に呑まれて、家族や出身校の後輩たちの千羽鶴の願いもむなしく約3週間後に発見された状況を、両親のインタビューをもとに描くなど、身につまされる部分も少なくなかった。ここで詳しく取り上げられている若者は、東通原発の要員となるべく採用された青森県のむつ工業高校出身者であるが、もう一人は地元出身者だったのではないだろうか。 

 給与や雇用期間なども含めて過酷な状況で働いている下請け労働者の抱える問題はもちろんきわめて重要であるが、原発の近くに生まれ、学び、努力を重ねて入社した社員たちにとっても、原発という職場が厳しいものであり、健康上のリスクを抱えてこれからの人生を過ごす運命を背負わされていることを忘れてはならないだろう。もちろん福島第一原発で働く人々を必要以上に英雄視することがあってはならないが、彼らが「東電」という組織の顔の見えない「加害者」の一部にすぎないというわけでは決してなく、放射能被害を受けて故郷を追われ我が家を奪われた住民たちとともに、原発という過酷な仕組みの「被害者」であることを忘れることがあってはならない。

 日本人が、憲法に定めた「不戦の誓い」とともに、すでに87%の自治体が掲げている「非核の誓い」を国家レベルのものとし、その土台の上に「脱原発の誓い」をするための手掛かりのひとつとして、この本をご紹介しておきたい。(「もうひとつの日本」第8回の「市民エネルギー創りを目指す人々」の中の多摩市が2011年秋に行った宣言に関する記述を参照。) 
<参考資料>

▽いわき市ホームページ▽いわき市:津波の範囲。仮設住宅一覧原発からの距離マップ【東日本大震災(地震、津波)、被害状況専門サイト】

▽浜風商店街-久之浜町商工会ホームページ▽一徳堂ブログ『一徳堂写真館<とくさんの写真日記inいわき』

▽Masayuki TOJO『原発震災を経験して 福島県の若手漁師の想い』(u-tube)

▽cosmo 888『報道されない久之浜漁港【放射能汚染】』(u-tube)

▽川添早央里「いわき市の東日本大震災の影響に関する一考察」『ソシオロジカル・ペーパーズ』第21号 2012年3月 早稲田大学大学院社会学院生研究会 

▽松崎いずみ「福島県いわき市に見る震災復興―避難者含めた産業・雇用創出に向けて―洋上風力発電、成否は民の力引き出す官のインフラ整備」『JCER会報』2012年4月号 日本経済研究センター

▽堀切さとみ制作『原発の町を追われて~避難民・双葉町の記録』2012

▽門田隆将『死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第1原発の500日』PHP研究所 2012

▽「発災2年の現実」『政経東北』2013年3月号 東邦出版

▽「再生エネは救世主?」『福島民報』2013年3月11日

▽「再生エネ風の実力 (1)洋上風力、30年までに原発8基分 浮体式 技術向上カギ」『日本経済新聞』2012年10月2日 朝刊

▽石原 孟「福島沖浮体式洋上ウィンドファーの実証研究」『CDIT』沿岸技術研究センター 2013年 

加藤春恵子(かとう・はるえこ)さんのプロフィール
 『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。   

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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