加藤春恵子の

もう一つの日本 Alternative Japan

 

第1回 地域通貨が開く共生の世界

 

「蚕都くらぶ・まーゆ」を訪ねて

 

 これまでの社会に替わる、オルタナティブな、もう一つの新しい社会をつくろうとする営み――。


 それは今に始まったことではないが、3.11以来、特に勢いを増しているように思われる。もちろん、小金井は、市民活動の盛んなところであり、市外の友人にこのまちでの経験を話すと、驚かれることも少なくない。とはいえ、この国の様々な地域には、小金井市民の活動のさらなる展開のための手がかりとなりそうな活発な動きがみられる。
 このコラムでは、私自身が、3.11以後の市民活動への参加者の一人として、日本のあちこちを訪れ、さまざまな人々と出会って、元気をもらい、考え、気づいたことをご報告して、「もうひとつの日本」へのヒントを見つけて頂ければ、と考えている。

 

 今回とりあげるのは、長野県上田市の「蚕都(さんと)くらぶ・まーゆ」の活動である。
 発足10周年を迎えた同クラブの主催で、今年の2月18-19日に「持続可能な未来づくり全国フェスタ」が開かれるという情報を得て、トランジション・タウン小金井の仲間と一緒に参加した。

 

 始めから終わりまで「まーゆ」のメンバーの温かさとパワーに圧倒されつつ過ごした2日間だった。
 メインイベントとして未来バンクの田中優さんと映画監督の鎌仲ひとみさんという、脱原発ワールドのビッグスターの対談があり、その内容も大変充実していたにもかかわらず、それだけが輝くと言ったことは決してない。
「まーゆ」のメンバーである市民一人一人が、それぞれの存在感をフルに発揮して、旅人である私たちに、21世紀を拓くために不可欠な有形無形の様々な情報を伝えてくれる貴重な場がそこに展開されたのだった。
 

 エンデの思想から

 「蚕都クラブ・まーゆ」は、2001年の秋、地域通貨づくりを軸に据えて結成された。
1999年5月にNHKのBS1でドキュメンタリー『エンデの遺言~根源からお金を問う~』が放送され、日本のあちこちで地域通貨ブームが巻き起こっていた中で、「まーゆ」の創設メンバーは、とりわけ深くエンデの思想に影響を受けて組織づくりを行った。会の名称でもあり地域通貨の単位でもある「まーゆ」は、養蚕と織物で栄えたこの町の歴史にふさわしく蚕の繭にちなんだものである。

 

 「まーゆ」には、「共生」より「競争」を追求した経済成長・グローバリゼーションのつけが、環境や人間関係の悪化、地域経済の衰退などの形で身近にあらわれているのを実感した人たちが続々と加わった。地域通貨「まーゆ」は、ぐるぐると人々の間を回り、人々をつないでいった。

 

 握手を交わす

 私たち外部からの参加者も、フェスタのプログラムの一環として開催された「まーゆ市」で疑似体験をさせてもらった。
 参加者一人一人が通帳を持っており、モノやサービスに関する取引(「もの・こと交換」の交渉)が成立すると、それぞれの通帳に、やり取りする金額を、「まーゆ」という通貨単位で、プラスいくらマイナスいくらと記入して互いにサインをする。「1まーゆ=1円」という仕組みはわかりやすいなと思いながらどうにかサインを終えると、相手から温かな手が伸びてくるのでびっくり。取引が終わると心をこめて握手をするというのがルールなのだ。 

 

 旅人のためにプレゼントされた500まーゆを使い尽くし、いくらかの円を足して、ヤーコンのピクルス、かわいいバッグ、毛糸のエコたわし、蜜蝋のリップクリームなどを買っている間に、こちらから進んで握手を求めるようになっていった私である。

 

 市では食べ物や手作り品などが売買され、日常生活の中では、あらかじめ配られているメンバー各自が提供したいものや、できることのリスト(「お助け一覧表」)を手掛かりに、飲み会のあとの代行運転や屋根の修理やマッサージといったサービスも含めて、「現金+まーゆ」あるいは「まーゆ」のみでのやりとりが行われる。

 

 互いを知る大切さ

 「まーゆ」のみで何千円、ときには何万円に相当するやりとりが行われることもある。いわば信用だけでのやりとりであるから、お互いを知る機会をもつことが大切になってくる。
 というわけで、様々なイベントが行われ、「この指とまれプロジェクト」も立ちあげられている。イベントとしては、「まーゆ市」や「まーゆ寺子屋」という学習会、プロジェクトとしては、棚田での米作りや、豆の種をまくことから始まる味噌づくり、無農薬菜園、竹炭づくりなどなど。人が集まるたびに、信州独特の漬物とお茶でのひとときという楽しみがあることは言うまでもない。

 

 安心して疲れや不安を癒しあえる仲間を得た喜びが2カ月ごとに出される会報に語られている。荒れていた里山の棚田を耕して毎年稲をつくり、夏にはあぜ道で唱歌や童謡を歌うホタルコンサートをするなど、会報を読むだけでも楽しい気分が伝わってくる。

 

「まーゆ」の参加者は、年金生活者や自営業者が中心で、50-60代が目立つが、フェスタの折に無料の保育が行われたことでも示されているように,子育て世代への配慮も行われており、若いメンバーもかなり参加している。男女比は半々ぐらいである。

 お互いニックネームやファーストネームで呼び合うという取り決めにより、浮世の役職・性別、年齢などに付随しがちな上下関係が忍び込むことがないよう心がけており、トップダウンではなく、自発性を引き出しあった合議制の緩い組織が保たれている。

 

 とは言っても、代表世話人のケイちゃんこと安井啓子さんのリーダーシップは際立っており、「まーゆ」に関わる人々の間の、年代や性別を超えた平場のコミュニケーションときっぱりしたリーダーシップのありようは、清々しく感じられた。

 儲けを競うための道具となって人々を果てしない競争に駆り立ててしまいがちな「円」とは異なる、共に生きるために必要な交換の手段としての地域通貨「まーゆ」を回しあうことを通して、人びとに何のために生きるかを考えさせ、生き方の転換を促して地域社会の再生の基盤を創っていく組織、蚕都くらぶ・まーゆ。

 

 そこに集う人々は、エンデの遺言を正面から受け止めて、モモのように、灰色の男たちの本質を見抜いて生きようとしているのだろう。上田から帰って『エンデの遺言』を読んでいると、共生社会への歩みと地域通貨へのこだわりとの関係が、少しずつ見えてくるような気がする。

 

◆筆者から
 本稿で触れたことについては、NHKドキュメンタリー番組『エンデの遺言』(YouTube等)、同番組に関わった川村厚徳氏らによる書物『エンデの遺言』の改訂版(2011講談社α文庫)、蚕都くらぶ・まーゆ刊行の『地域通貨を超えるまーゆ』(2006 連絡先前田光俊さんTel/Fax026-27-1230)、まーゆのHP(http://zuku.umic.jp/hp/ma-yu/)をご参照ください。

(「もう一つの日本 Alternative Japan」は毎月1回掲載します。次回は5月5日号の予定です)

◇筆者プロフィール◇

加藤春恵子(かとう・はるえこ) 『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジションタウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
PDFファイル 5.3 MB

こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

こちらから

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コンパスは「羅針盤」です!

 

 『こがねいコンパス』は、小金井市政や小金井の人たちが関心をもつテーマを分かりやすくお伝えするインターネット新聞です。市民団体「こがねいコンパス編集部」が発刊しています。

 

 『コンパス』は、羅針盤を意味します。辞書によれば原義は「ともに歩くこと」です。市民が市政をより深く理解するための一助となり、よりよい小金井市政のあり方を考えるときの羅針盤でありたい。市民のみなさんと一緒に歩んでいきたい。そんな思いを込めています。

 

 

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