加藤春惠子(かとう・はるえこ)の

もう一つの日本       Alternative Japan

第31回 大磯エネシフトを訪ねて(後編)

~多彩な「市民」、そして宗教の倫理性~

 

<しなやかな資金調達>


 大磯エネシフト(注1)に関係した人たちは、脱原発社会の実現のために、文字通り命を燃やしつくした社会学者舩橋晴俊さんのご冥福を祈りながら、走り続けた。


 予定より2ヶ月も早く2号機「みんなの発電所」を完成させ、点灯式を行ったのは、2015年1月末のこと。


 私は、ほぼ1カ月後の土曜日の昼少し前、大磯エネシフト副理事長の石川旺(さかえ)さんと駅で落ち合い、マリア像の似合う瓦屋根のカトリック大磯教会に車で案内して頂いた。


 敷地の南端の陽光の中に、花々を植え込んだ小さな花壇をかたわらにして、パネルたちが嬉しそうに日を浴びている。


 

 

 下の図は、前回述べた岡部さんの青山での発表に用いられたもので、3つの資金調達方式が組み合わせられている様子がわかりやすく示されている。

 この2号機の事業計画では、「私募債」「地銀からの借金」「寄付」という3種の資金を組みわせ、そのうち、寄付分からの発電収入を、福島の子どもたちの保養のために全額寄付するという仕組みを設けた。


 点灯式の様子を伝えた各紙の報道(訪問の前に岡部さんから提供していただいたもの)を見ると、2月10日付の朝日新聞に、事業費総額550万円のうち、寄付分として予定された金額は100万円で、まだ目標額に達しておらず、賛同者を募っているという、具体的な情報が載せられていた。


 そこで私も、お土産のお菓子など買う代りに寄付を増やして、少しでも多くのお金を役立てていただこうと思い立って、大磯にやってきたのだった。


今のところ、銀行あるいはだれかが立て替えて寄付を待っているであろう寄付予定分を、少しでも早く達成して、借金返済の必要がない資金を増やすお手伝いをすれば、大磯エネシフトの事業は発展して、さらに3号機、4号機と発電所を増やし、日本全体のエネルギーシフトを進めることができる。 


 同時に、この教会を含む近隣のカトリック教会の有志によって結成された「福島の子どもたちとともに・西湘の会」が、大磯教会の中にある日本家屋をベースに、福島の子どもたちの内部被ばくを防ぐため2012年から夏ごとに行っている親子連れの「保養」合宿の費用も、潤うことになる。


(同会のホームページから)
(同会のホームページから)

 たとえささやかでも、寄付というかたちは、銀行融資や私募債やファンドと並んで、この国の人々のより安全な暮らし、被害を受けた子どもたちのより楽しい夏のためにお金を回すことができる。


 さらには脱原発のための仕事を通して生活費を得たいという志を持った地元の技術者のところにお金が回る仕組みでもあるのだ――。


 そう考えながら、私は、陽光を浴びて輝くパネルを眺めていた。


 もちろん、無償の働きをする大磯エネシフトや西湘の会を通じてボランティアをする人びとにも、お金こそ回らないけれど、喜びが回るだろう。


 情報を持って現場に立つと、いま日本で私たちが起そうとしているお金や心やモノや仕事の回転の仕方が、はっきりと見えてくる。


 寄付型か出資型か融資型かなどと一律に決めてしまわないで、柔軟に3つの資金調達方法を併用し、寄付の動機づけとなる具体的なイメージを提示している「大磯エネシフト」のやり方は、しなやかで、人間的なものに私には思われる。



<多彩な「市民」たち>


 パネルと教会に別れを告げて、次に連れて行っていただいたのは、理事会が開かれているまちなかの日本家屋。エネシフトの理事会が終わるところで、ひとまず皆さんにご挨拶。


 広いとはいえないこの大切な「場」で何年も重ねられてきたであろう議論に思いをはせながら、午後の仕事が控えているという、舩橋さんの教え子で町やエネシフトのブレーン役となっている、自然エネルギー財団上級研究員の北風亮さん(左端)を交えて、理事長の岡部さん、副理事長の石川さん、この部屋をベースに議員活動を行い「市民」活動に貴重な場を提供している渡辺さん(右端)の写真を撮らせていただいた。


 その後、昼食を共にしながら話を聞かせて下さる方々は自転車で、石川さんと私は再び車で、理事の一人の野尻善章さんとパートナーの聡美さんが営んでいる、「桃の家(もものや)」というお店に向かう。


 この項のサブタイトルで、「市民」と「 」をつけずにはいられなかったのは、大磯の特徴は、あくまでも人口3万人ほどの「町」だというところにあり、ここで登場する方々はまさしく、「市」に住んでいる人と言う意味ではなく、社会科学的な意味での、権利意識と人権意識を持ち主体的に社会の構築に関わっている人、としての「市民」にほかならないことを確認しておきたかったからだ。


 大磯という町は、「町」であることに誇りを持ちつつ、「市民意識」を持った人々が増えてきて、私が住んでいたころに比べると大きく変貌を遂げ、言葉の真の意味での「市民社会」を構築しつつあるように思われる。


 70年代からの環境関係の住民運動や勉強会、今回の脱原発に関わる活動などを通して、「市民」の数も増え、一人一人の「市民力」も高まってきて、人口が少ないだけに、町の中での「市民性」の密度も濃くなってきている。


 その表れの一つとして、議会の状況が挙げられるように思う。


 町会議員の定員14名のうち、女性が8人、男性が5人(1名欠員)。女性の方が多い状態は、前々回の選挙から続いており、日本の市町村の中で女性の比率の高さが一番として、メディアにも取り上げられている。


 町には大きな事業所がないので、税収も少なく、町会議員の給与や調査費などが他の自治体と比べてかなり低い水準という事情が影響している・・・。そんな見方もある。


 だが、なによりも、環境関係や子育て関係で女性たちが培ってきた個々の人間力と、それを前提とする「絆」の力が大きく働いているのではないかと思われる。


 そんなわけで、「桃の家」での食事会では、一人ひとりの理事さんたちの存在感に溢れた自己紹介をうかがった。


 それぞれの人生の中で培われた「個」の特性を認識し合って「市民力」を引き出し合い、活かし合い、発揮し合うことのできる関係をつくることが、「市民活動」を展開するうえでいかに大切かということを実感したのだった。


 骨付きの煮魚をメインとするおいしいランチを頂きながらのことなので、そのすべてをメモするわけにもいかず、十分にご紹介することもできないのだが、お互いがお互いに関心を持ち、その醸し出すハーモニーの素晴らしさを伝えて下さろうとする皆さんの眼差しは、今も深く心に刻まれている。


 まずわかったことは、「桃の家」という「場」も、この町の「市民」意識の高まりに大いに貢献しているということだ。


 野尻善章さんは、対等な関係をつくっているパートナーの料理をこよなく愛しており、その売り上げにも貢献しながら映画会や健康関係のプロジェクトなどを次々と展開し、毎月1の日と6の日が休みと言う古典的なスタイルでこの「場」を開いて、映画会やアートの展示販売や健康関係のイベントなどを催し、ユニークなHPで発信している。


 この日は、玄米用の陶器の釜の展示会と、大磯エネシフトに売り上げを寄付するという持ち寄りのフリーマーケットが、古い和室の床の間の脇の棚などを使って開かれていた。


 この野尻さんと、この日は予定が重なり来られなかった発電担当の「おおいそ電力合同会社」職務執行者で実務関係に強い男性の伊勢田徹さんが中年と言う感じ。


 大半は、もう少し年齢が上という状況のなかで、若手として期待を集めているのは、30代後半の小田志保さんだ。農林中金総合研究所の研究員としての仕事を持っており、家庭と市民活動と仕事のバランスに注意しながら、グループに新しい風を吹き込んでいる。


 岡部幸江さんは50を超えたばかりの主婦。故郷への複雑な思いと、先に記した勉強会での目醒めを語ってくださった。福島とのつながりに加えて、彼女の行動力で、ご当地エネルギーなど、ISEPを通しての各地の市民電力との連携によって大磯エネシフトが支えられているところは大きいと、メンバーたちは感じている。


 「大磯町ナショナルトラスト」という緑地や樹木の保全を目指す環境活動や、飯館村の支援などをしてこられた田中洋子さん、アート関係・出版関係のキャリアを生かして大磯エネシフトのパンフレットやフライヤ―(ちらし)づくりに貢献している九鬼とも子さん、その妹の『みえない雲』の翻訳者でドイツ事情に詳しい山村(ペンネーム高田)ゆみ子さんなど、女性たちは、環境関係の活動・海外生活・専門の仕事などで経験を積み重ねてこられた方々だ。


 その中で、この町の町民としての関わりの度合いがきわめて深く、議員を3期務め、議長も経験している渡辺順子さんは、町議会の総務建設常任委員会の委員長として、先に触れた条例案「大磯町省エネルギーおよび再生可能エネルギー利用の推進条例」をまとめたばかり。「みんなの発電所」に場所を提供した教会のメンバーである。


 頼もしい判断力と、接点を大切にして町の様々な部分や人々を繋ぐ力を持った彼女の存在は、大磯エネシフトの活動のスピード感と安定感に大きく寄与しているのではないかと思う。


 石川旺さんは、上智大学に移る前はNHKの研究所勤務だったことから、放送に関心が深く、地域の放送局などともつながりがあり、メディアへの発信力による貢献は大きい。若いころから、水俣を描いた石牟礼道子さんの著書を愛読していたとのことで、蓄積されていた環境への想いが、この町で所を得て花開いているように思われる。


 大磯町は、古くから農業・漁業・商業地域がはっきりと分かれており、明治以後それに別荘地域が加わり、その切り売りと共に住宅地が増え、さらに山を切り拓いたりして全体にベッドタウン化したところから市民社会が展開してくるという歴史をたどったように思われるが、農業などの振興を図ることも大切だと思われる。


 もともと農業地域だった国府地域に住んでいる伊勢田さんや、農家生まれであることから、この町の農家の状況に思いを馳せつつソーラーシェアリングに関心を抱くと述べられた佐藤勝栄さんは、大磯エネシフトが、この土地に古くから働き、暮らしている人々の生活事情から浮き上がることのないよう歯止めをかける大切な存在と言えよう。


 農業と言えば、先に述べた若手の小田さんには、「茶園を生かしたソーラーシェアリングの取り組み――農家の安定収入確保の可能性と普及の課題――」(注2)という研究もあり、近くの小田原市内の農家を、調査している。


 多彩な理事たちの関心事や経験や知識や人脈が、さらに引き出され、結びあわされて行くならば、大磯エネシフトには、多様な創エネ、省エネの実践の場が開かれて行くのではないかと期待される。


 どの町の再エネグループにも共通していることかもしれないが、ひときわ、この「小さな町」のエネシフトを支える人々は、多様性に富み、聴く力と議論し合う力を持ち、歴史の中で、今、この仲間とここにいてよかった、と思える出会いを大切にして、前進を続けている。

 

<宗教と脱原発>


 「みんなの発電所」に関心を持った理由には、「大磯エネシフト」の活動を伝えたい、という思いと並んでもう一つある。


 宗教の持つ倫理性と、再生可能エネルギーによる発電所づくりとの関係を考えてみたかったのだ。 


 今回、野立てのかたちでつくられた「みんなの発電所」の敷地の貸主となったのは、カトリック教会の横浜教区である。同教区は16に分けられた日本のカトリックの教区のひとつとして、神奈川県を統括している。


 各教区には、司教が任命されており、日本のカトリック全体を統括する大司教のもとに、司教団が形成されている。


 この司教団は2011年11月8日、民主党・野田政権が原発の再稼働や輸出に走りそうになった状況を受けて、「今すぐ原発の廃止を~福島原発事故と言う悲劇的な災害を前にして~」という公文書(注3)を発した。


 この公文書は、2001年の司教団公文書「いのちへのまなざし」の中で、「多くの人々のいのちを危険にさらし生活を著しく脅かした東海村の臨界事故」に言及し、「悲劇的な結果を招かないために、安全な代替エネルギーを開発していくよう希望します」と述べたものの、今すぐに原発を廃止することまでは呼び掛けることができなかったことを反省している。


 その反省にたって、「日本にあるすべての原発をいますぐに廃止することを呼び掛けたい」と述べ、「日本に住むすべての皆様へ」との宛名のもとに、各種の反論や困難に目を配りながらも、まっすぐに書き進められている。


「わたしたち人間には神の被造物であるすべてのいのち、自然を守り、子孫により安全で安心できる環境を渡す責任があります。利益や効率を優先する経済至上主義ではなく、尊いいのち、美しい自然を守るために原発の廃止を今すぐ決断しなければなりません。」


 「これまで国策によって原発が推し進められてきました。その結果、自然エネルギーの開発、普及が遅れてしまいました。CO2削減のためにも、自然エネルギーの開発と推進を最優先に、変えていくように私たちは訴えます。」


「大切なことは、電気エネルギーに過度に依存した生活を改め、私たちの生活全般の在り方を転換していくことなのです。」


 文言は、わかりやすく、力強い。


 横浜教区は、この精神を受けながら、20年間という電力の買い取り保証期間に起りうる不可測な事態をも考慮して、交渉を進め、「5年後以降は1年ごとの見直し」も選択肢に含む内容で、認可したと思われる。(注4)


 公共施設と並んで、多くの宗教施設は、地域に開かれた「場」として機能してきた歴史を持つ。日照に恵まれた屋根や、野立てやソーラーシェアリングに適した土地を持っていることも少なくない。


 日照の少ないドイツで、多くの教会の屋根が市民発電の舞台となっている映画などを目にする。


 日本の宗教機関も、歴史的・倫理的な観点からその存在意義を問い直し、公共機関と並んで、屋根などを地元市民の働きの場として提供するかたちが、進んでいくことを望みたい。

(終わり)

 

こがねいコンパス第71号(2015年6月13日更新)

編集長からのおわび

 「もう一つの日本 第30回」を掲載した第70号で「後編は4月18日発刊のこがねいコンパス第71号に掲載します」と予告していましたが、編集部の事情により掲載が著しく遅れました。筆者の加藤春惠子さん、ならびに大磯エネシフトのみなさまに心よりおわび申し上げます。         (編集長・佐藤和雄)

 

<注>

(注1)大磯エネシフトの活動についてはHPを。

(注2)
茶園を活用したソーラーシェアリングの取り組み(小田志保).pdf
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(注3)
いますぐ原発の廃止を(日本カトリック司教団メッセージ).pdf
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(注4)「教会に『発電所』」『カトリック新聞』 2015年3月1日号参照 

加藤春惠子(かとう・はるえこ)さんのプロフィール

 『女たちのロンドン』『広場のコミュニケーションへ』『女性とメディア』『福祉市民社会を創る~コミュニケーションからコミュニティへ~』など、社会学者としての仕事を重ねて、定年後の現在は「ケアサポート湧」、「トランジション・タウン小金井」など、小金井の様々な非営利・市民活動に参加している。桜町在住。

 11月8日(日)

  第73号の主な内容

(随時更新されます)

《市政の焦点》

■12月小金井市長選特集

☆白井とおる市議が立候補表明(2015年11月8日更新)

 

☆白井市議の立候補記者会見に40人以上の市民が参加(2015年11月8日更新)

 

☆4陣営の対決構図に 財政健全化への具体策が焦点(2015年11月8日更新)

 

≪酒好きのたわごと≫

その15 越後の酒と謙信(2015年10月17日更新)

  うれしいニュース!

 公益社団法人「全国学校図書館協議会」が発行している「としょかん通信」(中・高校生版)2015年6月号の《今月のブックトーク》に『まちの力 ひとの力 ――変える 試みる 小金井の人たち』がとりあげられました。

 1人でも多くの中学生、高校生にこの本を読んでもらえたら、と思います。感想文も送ってもらえると、とってもうれしいですね。

 以下にその部分を貼り付けました。筆者は、ほそえさちよさんという子どもの本の編集者だそうです。タイトルは、「生きるために つながる」。

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全体はこちらから
としょかん通信「今月のブックトーク」.pdf
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こがねいコンパスのインタビューシリーズ《変える 試みる 小金井の人たち》をまとめた本『まちの力 ひとの力』が図書出版クレインから刊行されています。ウェブ版では読めない、取材秘話などを明かす4本の「エピローグ」と、やまさき薫さんの素敵なイラスト付き。定価1500円+税です。市内の各書店でお買い求めください。クレインでも注文できます。

毎月第1・第3土曜日が定期発刊日です。こがねいコンパスは市民のための羅針盤を目指し、市民とともにつくる地域メディアです。ご意見・ご感想・情報提供などを、koganeicompass@gmail.comへおねがいします。

詳しくはイベントカレンダーのページをご覧ください。こちらから。

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小金井市のイベント情報は、小金井市地域情報サイトのさきナビでも見ることができます。バナーをクリックしてください。

 この人に聞く

脱原発社会への道筋を探る

民間の英知を結集して「脱原子力政策大綱」をまとめる「原子力市民委員会」の舩橋晴俊座長。

前編はこちらから。

後編はこちらから。

*船橋晴俊さんは2014年8月15日、くも膜下出血で急逝されました。ご冥福をお祈りするとともに、船橋さんの思いを少しでも多くの方に知って頂きたいと願っています。(編集長・佐藤和雄)

 

「敗北」を語る

民主党小金井支部幹事長

村山秀貴さん

前編はこちら

後編はこちら

 

イラクから問い続けてきたもの

映画監督・鎌仲ひとみさん

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